第425話 こうデリカシーというものをですね
本当に行動が早すぎる上に、双方の国王たちも判断が早い。あっという間に、アーサリーとメチルの婚約の話がまとまってしまっていた。
ベジタリウス王妃はせっかく見つけた侍女を手放す事を惜しんではいたものの、メチルが幸せになれるのであるならばと喜んで了承していた。悲しいのか嬉しいのかはっきりしてほしいとアンマリアは思った模様。
この事によりミール王国の王子王女は、揃って魔族と結婚という結果になりそうだった。
「というわけで、お父様お母様の許可は頂きましたわ」
「まじかよ!」
戻ってきたエスカの報告に、アーサリーはものすごく驚いていた。そんな簡単に許可が出るとは思っていなかったのか。
「本気かよ、親父もお袋も。相手は魔族だぞ」
「関係ない、アーサリーの相手をしてもらえるのなら。お父様はそんな事を仰ってられていたわ。観念するのね、お兄様」
「おいおいおい……」
膝から崩れ落ちるアーサリーである。
「ベジタリウス王国の方はどうなんだ」
悪あがきとばかりに、膝をついたままアンマリアに食って掛かるアーサリー。だが、アンマリアからの答えは予想外だった。
「魔族の騒動を治めてくれたエスカを受け入れるのだから、そのお返しはちゃんとしませんとね。そういう答えだったわ。諦めた方はいいわよ、アーサリー殿下」
周りには誰も反対する者がいない。膝から崩れ落ちていたアーサリーは、そのまま床に両手をついてしまった。どれだけ魔族相手が嫌なのだろうか。
「今は魔族とはいえ、聖女認定を受けた方との結婚がそんなに嫌なのでしょうかね」
「わ、私、本当によろしいのでしょうかね……」
アーサリーの凹み具合に、ミズーナ王女もメチルも困惑してばかりである。
「さて……と、連続長距離転移で疲れましたので、私は休ませてもらいますね」
「ええ、私も。モモ、タミール、後の対応はよろしくね」
「ちょっと、お姉様、エスカ王女殿下……」
モモが慌てて呼び止めようとするものの、スーラの付き添いでアンマリアは部屋へと戻ってしまう。そして、エスカも休むからということでミズーナ王女たちは部屋を追い出されてしまった。
「ごめんなさい、モモ、タミール。急に押し掛けた上にいろいろと迷惑をかけてしまったみたいで」
「い、いえ、ミズーナ王女殿下が謝られるような事ではございません」
「僕は部屋に戻っていいですか……」
ミズーナ王女が謝罪すると、モモは必死に首を横に振っている。タミールの方は、やっと解放されることに安心していったようだった。
「ええ、大丈夫ですよ、タミール。アンマリアと同居しているために無理やり同席させてすみませんでしたね」
にこりと微笑んでタミールに謝罪するミズーナ王女である。
「さて、私たちは城に戻りましょうか。いつまでも凹んでいるのではありませんよ、アーサリー殿下」
「うう……」
ショックのあまり立ち直れないアーサリーを引きずりながら、ミズーナ王女とメチルは城へと戻っていったのだった。
城に戻ったミズーナ王女は、アーサリーに話し掛ける。
「アーサリー殿下、ちょっとよろしいでしょうか」
「なんだよ」
ミズーナ王女が話し掛けてくるので、アーサリーがものすごく警戒している。
「いえですね。そこまでメチルとの婚約を嫌がるのでしたら、私から提案がございます」
咳払いをしてアーサリーに対して、真剣な表情を向ける。その表情に対して、アーサリーの拳に力が入る。一体どんな提案がなされるのか、アーサリーは内心緊張してきた。
「メチルとの婚約を取り消す条件はひとつ。エスカが国に戻る来年までに婚約者を見つけることです。自分の決めた相手が見つかれば、それをご両親にお伝えして認められればいいのですよ」
「そうか。望まぬ相手との婚約を断るには、そうすればいいのか!」
ミズーナ王女の提案に大声を上げるアーサリー。
「それ、本人の前で言いますか……」
だが、メチルがその場に居るというのにその反応は頂けたものではなかった。本当にデリカシーのない王子である。
これにはさすがのミズーナ王女も頭を抱えてため息をついてしまう。メチルも泣きそうな顔をしていた。牽制の意味合いでメチルを同席させていたのだが、この反応はさすがに予想外だったようだ。
「アーサリー殿下」
「なんだよ」
「目の前にいる方の気持ちも推し量れないようでは困りますよ。そんなですからエスカに心配されるのです」
ミズーナ王女に言われて、ぐうの音も出ないアーサリーである。
「とにかく、来年の卒業後にメチルをエスカに同行させますから、その時までにせいぜいあがいて下さいませ」
そうとだけ言い残すと、ミズーナ王女はメチルを連れて自分の部屋へと戻っていく。
ここまでボロボロに言われたアーサリーは、その場で拳を握って震えていた。
「くそっ、やってやろうじゃないか。見てろよ、必ずぎゃふんと言わせてやるからな」
アーサリーは捨て台詞を吐き捨てると、片付けの始まった自室へと逃げ込んでいった。
「はあ、焚き付けましたけれど大丈夫なのでしょうかね……」
捨て台詞がしっかりと耳に入っていたミズーナ王女は、心配のあまりにため息をついてしまうのだった。




