第422話 ここからは私のターンよ
アンマリアとフィレン王子が抜けたパーティー会場。
そこでは二人の王女がだらだらと話をしていた。
「はあ、アンマリアとフィレン殿下がおとなしくくっついちゃったわね」
「まあいいじゃないの。これでゲームのグッドエンドなんだから」
少し不満げに呟くエスカに対して、安心したような表情を見せるミズーナ王女である。
そう言いながら、国王たちと談笑しているリブロ王子とサキの方へと視線を向ける二人。
「こっちもこっちで、こうくっついちゃったわね。付け入る隙はあるかと思ったんだけど、私がこっちに来る前に婚約者が決まっていたんじゃ、無理ゲーだったのね」
「アンマリアが最初からかなり暴れてたみたいだものね。10歳の頃に会ったけれど、あの頃からやり手だったみたいよ。人の事は言えないけど」
エスカは思い出しながら話しているのだが、自分の無茶苦茶な事も思い出して笑い出してしまっていた。事情が分からないミズーナ王女は、その様子に思わず眉をひそめている。
ひーひー言いながら笑い過ぎて出てきた涙を拭うエスカ。
「ごめん、本当にいろいろとやりすぎちゃったからね。スマホもどきを作ったりしたし」
「何を作ってるのよ、あなたは……」
照れ顔で話すエスカに、思わずドン引きしてしまうミズーナ王女だった。
二人が話し込んでいる間に、パーティー会場の奥からこっそりと入場する人物の姿があった。
「おお、王妃よ。どこへ行っていたのだ」
会場に入ってきた王妃の姿に気が付いて、国王が声を掛けている。
「ええ。この子を連れに行ってました」
「うん? それは誰だ?」
王妃の後ろからひょこっと姿を見せた少女を見て、国王が首を傾げている。その姿に思わず残念そうな表情をする王妃。
「嫌ですわ、陛下。ミズーナの新しい侍女のメチルですよ」
「なんと。ずいぶんと変わるものよなぁ。確かに肌の色は人とは違うな……」
言われてようやく気が付く国王である。
「しかし、どうしてこの者をここに連れてきた? 使用人である以上はこの場には用もなく入れぬはずなのだが」
国王から理由を尋ねられた王妃は、扇で口元隠しながらにこりと微笑んでいる。そして、ちらりとミズーナ王女の方へと視線をやった。
ミズーナ王女はその視線に気が付いたらしく、小さくカーテシーをする。その姿に国王は納得がいったようだった。
「なるほど、ミズーナの要望か」
「ええ。このメチルも元はベジタリウス王国の貴族令嬢。自国民への彼女なりの気遣いなのでしょうね」
「ふむ……」
「というわけですから、アーサリー殿下、メチルの相手をしてあげなさい」
「ちょっ、なんで俺が……」
急に王妃から話を振られたアーサリーが、迷惑そうな顔をしている。ところが、王妃のその表情は有無を言わさない圧力に満ちていた。
その圧力に負けたアーサリーは、渋々王妃の言葉に従ってメチルの相手をする事になった。
「ほら、パーティーの場なんだから踊るぞ」
「あっ、よ、よろしくお願いします」
めんどくさそうに手を差し出すアーサリー。メチルはその手をそっと取っていた。
その様子を見ていたミズーナ王女とエスカは、なんとなく顔をにやけさせている。
「あらあら、お兄様ったらまんざらでもないんじゃないかしらね」
「ええ、いくら頼まれたからってあの態度は脈ありって感じね」
にやにやとして視線をアーサリーに送る二人。
だが、不機嫌になっているアーサリーはそれに気が付く事なく、メチルをエスコートして踊り始めたのだった。
「まったく、手間のかかるお兄様だわ」
「本当にそうね。でも、これで一応脈ありと見ていいのかしらね」
ぎこちないながらにもダンスをこなす二人の姿に、エスカとミズーナ王女は温かい目を送るのだった。
「さて、アンマリアの物語はこれでエンディングを迎えたわね。となると、次は私というわけね」
ミズーナ王女の言葉に、思わずきょとんとするエスカである。
「何なのかしら、その表情は……」
エスカの反応に、つい不機嫌になるミズーナ王女。
「いや、何の話かなって思ってね」
ミズーナ王女の雰囲気にびびりながら、エスカは問い返している。
思いもしなかったエスカの反応に、ミズーナ王女はついつい大きなため息をついてしまう。
「あのですね……。『アンマリアの恋愛ダイエット大作戦』は追加要素がある話はしましたよね?」
王女らしい口調に戻ったミズーナ王女が、もの凄い剣幕でエスカに迫っている。
「ああ、ミズーナを主役にした1年物語がずれてるやつだっけか」
「そう。だから、ここからは1年間私が主役で話が続くのよ」
「なんかそれってメタ……」
「お黙りなさい。私だけがお相手がいないなんて、悔しいじゃないですか」
何かを言いかけたエスカをびっちりと遮るミズーナ王女である。
「それは確かにそうかもね。でも、メチルの相手だって決まったわけじゃないし……」
「いいえ、あれは完璧に脈ありです。無理やりくっつけようとしたのは認めますが、その通りに事が運ぶなんて、誰が思いましょうか」
「ミズーナ、声が大きいわよ」
感情が高ぶるミズーナ王女を必死に宥めるエスカである。
「卒業までに絶対相手を見つけてやります。協力してくれますよね、エスカ」
「え、ええ。まあ、うん、いいわよ……」
ミズーナ王女の勢いに押されて了承してしまうエスカだった。
アンマリアの物語はグッドエンドを迎えたものの、一人残されたミズーナ王女の物語はまだまだこれからなのである。




