第41話 テトリバー男爵家への訪問
国王への献上品は父親に任せて、私はサキと会う日を決める事にした。正直国王よりもこっちの方が問題だものね。
とにかくフィレン王子ルートだと、ひたすらに手強いサキ・テトリバー。特に断罪ルートに入った時の恐怖感といったらシャレにならなかった。そういうわけだから、サキからの好感度は上げておきたいものである。お互いに二人の王子の婚約者に上がった事だし、すべてを穏便に運びたいのだ。
時間が進むにつれて、聖女としての力を強めていくサキ。他の令嬢とは違う迫力があるのだ。
今は貧乏な男爵家の娘なので、服装自体は結構質素。明るい赤っぽい髪色にまるでルビーのような煌めく瞳が特徴的な令嬢だ。髪も服も整えればまるでお人形のようである。さすがは乙女ゲームの登場人物である。
しかし、貧乏な男爵家が力を持つ事をよしとしない貴族もそれなりに居るようで、あれこれと分からないような嫌がらせが始まっているかも知れない。早めに手を打たないと、サキの恩恵が弱いうちに叩かれてしまいそうだ。
「とりあえず、魔石ペンはできているのよね。どういったタイミングで渡そうかしら」
今日も庭を弄りながらタイミングを考えていた。今頃は父親が国王に魔石ペンを渡している頃のはずである。無事に国王の手に渡っていれば、これで安心してテトリバー男爵親子に手渡せるというものである。
というわけで、こういう時は母親に相談してみるものである。社交界での交流は父親よりは母親の方が詳しいはずだからだ。
「アンマリア、あなたの好きなタイミングでいいのですよ。個人出会うのであるなら、お茶会は要りません。先触れを出しておいて会いに行けばいいのです。ペンを渡すという用事がある以上、何も問題はありません」
そしたら、すっぱりとした答えが返ってきた。ふむふむと納得した私は、翌日の午前中にテトリバー邸にお邪魔する事に決めたのだった。
というわけで、母親にお礼を言った後は自室に戻り、手紙を認めて使用人に届けさせた。伯爵家とはいえども、そこそこ有力な貴族がバックに居ると知られれば、愚かな事を考える貴族や商人は減るはずである。私の父親は国の大臣なんですからね。
やる事をやった上に、父親から夕食時に国王に無事にペンを渡した事を聞く。これで一安心できた私は、サクラから教えてもらった簡単な筋トレを寝る前にこなして、その夜はぐっすりと眠りに就いた。
翌朝、私は素直に目を覚ます。うん、よく眠れたわ。
ちなみに私のベッドはかなりの特注品。8歳にして体重が50kgを超えてしまっているし、13歳の時には120kgにも到達する。その事を考えれば丈夫なベッドを用意しておくのは当然の事なのだ。おかげで多少たわむものの飛んだり跳ねたりしてもびくともしない。まあそんな事は最初に試したっきりだわよ。これでも伯爵令嬢なんだからね。
「ごめんなさいね、スーラ。こんな体型で」
「いえ、どんな姿でもお嬢様は可愛いですよ。お世話をできる身として、とても幸せですよ」
今日はテトリバー男爵家に出掛けるので、服は最初からお出かけ用の服装である。これから朝食なので、コルセットはなし。あんなの着けてご飯なんて食べられないわよ。
朝食を終えて父親の出勤を見送ると、私はテトリバー男爵家へ出かけるための準備をする。
この時点でゲームとはもう展開がめちゃくちゃ違うので、自分の思う通りに動けるのは気が楽でいい。まあ危険なイベントだけは押さえておかなければならないけれどね。
元が乙女ゲームが盛んな日本の出身となると、どうしてもみんな幸せハッピーエンドを望んじゃうもの。誰にも死んでもらいたくはないのは当然だけど、没落だって防ぎたい。頭お花畑と言われても、強く望んじゃうわ。
というわけで、ペンをプレゼントすると同時に、男爵家に何か問題が起きていないか探りを入れるつもりである。私は相当に気合いを入れている。前世知識が活用できるのなら、それは十分使いたいものだわ。
朝9時を迎えたところで、私はテトリバー男爵家に向けて出発をする。そんなに離れていないけれど、安全を考えて馬車移動だ。とはいえ、王都の中なので同行人は御者とスーラだけである。馬車で移動すること10分、テトリバー男爵家に到着する。10分とは意外と距離があった。まぁ中級の伯爵と最下級の男爵だから、家を構えられる場所が違うものね。それに、1軒1軒の邸宅の大きさが半端ないから、どうしても時間が掛かってしまうのだ。それでも、15分の移動距離はまだ近いらしい。真ん中にお城があるので、それを取り囲むようにある貴族街の反対同士なら30分以上かかる事もあるそうだ。うへぇ……。その外には平民街も広がってるし、王都ってでかいわねぇ……。
そんな事をスーラから聞きながら、私は無事にテトリバー男爵家を訪問する事ができた。
しかし、そのテトリバー男爵家に着いた私たち。
「いやまぁ、貧乏とは聞いていたけれど、さすがにこれはどうかと思うわ……」
そこで見た光景に、ついつい私はそんな言葉を漏らしてしまうのであった。




