第391話 果てなき問題
ベジタリウス王国から帰還した私たちは、サーロイン王国の王都トーミに戻ってきた。
そして、遅ればせながらもリブロ王子の誕生日を祝っておく。さすがに主役が居なくてはダメだということで、お留守番をしてもらったものね。これくらいはちゃんとしておかないと悪いとしか言いようがないわ。
「そうですか。ベジタリウス王国の問題は解決したんですね」
私たちからの報告を聞いて、リブロ王子はとても安心した表情を見せていた。
「はい。どうなるかとは思いましたけれど、どうにか解決しました」
「それにしては、表情がなんだか浮かないですね」
私の表情を見たリブロ王子が、笑いながら指摘をしていた。
「あら、そ、そうでしょうか」
笑ってごまかそうとする私ではあるものの、行動をほぼ共にしていたサキとサクラの二人が苦笑いを浮かべている。この二人はずっと一緒だったから、ほぼすべての状況を把握しているものだからこんな反応をしているのである。
「まあまあ、無事に解決しましたから、お気になさらないで下さいな」
そう言ってしゃしゃり出てきたのはエスカである。
しかし、エスカが出てくるとフィレン王子をはじめとした私たち全員が微妙な表情をしている。
私たちの反応を見たエスカは、文句ありげに口を尖らせている。
「何なのかしらね。最終的に問題が解決したのは、私のおかげじゃないのよ」
自慢げなポーズをしながら主張をするエスカ。しかし、その通りではあるものの、私たちは互いに顔を見合って様子を窺っている。
「ちょっと、何なのよ、みんな。その反応は!」
ダンッと床を思い切り踏みつけるエスカ。
ところが、その様子にも私たちの反応は冷ややかだった。なんといっても、そのやり方がやり方だったものね。魔王相手に脅迫するだなんて思ってもみないもの。
さすがに一人出向けなかったリブロ王子は首を傾げるばかりだった。
その後、解散して屋敷に戻ることになった私たち。馬車の中ではエスカが終始不機嫌だった。
「まったく、あの魔王を無効化したのは私なのに、みんなしてあの反応は頂けないわ」
自分の手柄が正当に評価されずにいたからである。
「だってねえ、魔王相手に凄むエスカを見てたら、怖いだけだったもの」
「まったくですよ、エスカ王女殿下。魔王を床に押し付けているお姿には、思わず震えてしまいましたもの」
私は呆れているし、モモもすっかり怖がっていた。
「むぅ……」
足を組んで肘をついてむくれるエスカ。その姿は王女としてどうなのかと思うけれど、気持ちは分からなくはないので注意しないでおいた。
その代わり、思い出しては震えるモモを安心させるために、そっと優しく抱きしめておいた。
こうして、3年目の夏休みも終わっていく。
体重の件はクリアしたし、魔王絡みの件も解決した。あとは無事に卒業を迎えるだけだけれども、実は一番重要な問題が残っていたのだ。
「どうしたのよ、アンマリア」
食事の最中にエスカが私の様子に気が付いたようだった。
「いや、いろいろと問題が解決したのはいいんだけど、一番厄介な問題が残っているなと思いましてね……」
私が答えると、エスカはきょとんとした目をこちらに向けている。いくら魔王とはいえ、将来の伴侶がいるからって余裕だわね。
「そういえば、お姉様って結局どちらの殿下の婚約者なんでしたっけ」
「あっ、ああ、そっか……」
モモが気が付いて声に出せば、エスカもようやく気が付いたようだった。
そう、最大の問題である婚約者問題だった。
私とサキの二人で、フィレン王子とリブロ王子の婚約者ということにはなっているものの、どちらがどちらの婚約者になるのかというのはまだ決まっていなのよね。
よくもまあ、こんな跡継ぎ問題になりそうなものをここまで放置できたわねと、ついつい感心してしまうものだった。
とはいえども、これは私たちにも責任があるといってもいいわけで、結局王子のどちらともあまり親交を深められていなかった。
とりあえず卒業までは半年あるし、その間にこの問題も解決したいものだ。
国王を継ぐ事になる王太子の婚約者となれば王妃になるし、そうでなくても将来的な公爵の婚約者としての立場が待っている。
はたしてどっちが王妃として選ばれるのかしらね。できれば私は御免被りたいけれどね。私は王妃なんてがらじゃないもの。
そうはいっても、それを決めるのは城の重役たちなので、そこには私の意思は関係ない。ただ、決定権を持つ人間の中にこちらの世界の私の父親が入っているというのは、それなりに影響を与えそうだわね。
まったく、命の危機は去ったというのに、よくもまぁこうも問題は尽きないものだわね。私はつい感心してしまう。
「私としてはどちらとも仲良くしているだけに、決められそうにないですね。そこは国王陛下や王妃殿下といった上の方の決定に従うことになるでしょうね」
「そんなものなのかしらね」
ちょっと考えて答えた私だけど、エスカはなんかさらりと流していた。先日の態度を根に持っているのかしらね。
結局私は、婚約者問題は親たち大人に任せておいて、残りの半年をどう過ごすのかを真剣に考えることにしたのだった。




