第389話 コール家の問題
いろいろと報告を行った後の事、調べ物に出ていた大臣が戻ってきた。
それによれば、コール子爵家は音信不通になった事で抹消されていたことが分かった。
記録によれば、それはおおよそ100年も前のことである。
「まぁ……。もうそんなに経ってしまっていたのですね」
「どうりで、王族の名前もまったく分からないはずだ……」
驚きとともに落胆の色を浮かべるコール子爵夫妻である。
しかし、ショックを受けているのはなにもコール子爵夫妻だけではない。その娘であるメチルもそうである。今はアルーという精霊の状態になってはいるが、やっぱりショックを受けていたようだった。
「そっか……。私は一番長く意識があったとはいっても、そこまで時間が経っているとは思わなかったですね。もうあの頃の友だちは誰もいないんだ……」
そんなアルーに声を掛けたのは、メチルの体を受け継いだ今のメチルだった。
「何を言っているのよ。確かに当時の友だちは居なくなったけど、だからといって友だちが居ないわけじゃないんだからね。第一、私はあなたの元々の体なんだから」
そう話すメチルに対して、アルーは呆気に取られていた。
しばらくしてから、アルーはおかしそうに笑いながらメチルに言い返していた。
「そうですね。別人の魂が入ったからとはいっても、私の一番の友だちですね」
アルーのそれは本当に心の底から起きた笑いだった。その姿を見ていたら、私たちもついほっこりとしてしまった。
その中でただ一人だけ、すっきりした顔をしていない人物がいた。
「我は復活に100年も待たされたというのか。まったく使えぬ部下どもだな……」
そう、魔王である。
コール子爵夫妻を操って自分たちを復活させようとしたものの、配下である四天王も復活に時間に掛かった挙句、目覚めたところをいいところなくこてんぱんにされたからだ。かなりうっ憤が溜まっているようである。
「うふふ、好き勝手はさせませんよ?」
不機嫌そうな魔王に、どす黒い笑みを向けるエスカ。その顔を見て魔王が怯んでいる。すっかり重力魔法のせいで優劣がついてしまったようだった。
それにしても、魔王を震え上がらせるって……。よっぽどエスカの方が魔王じみているわね。
「うん、アンマリア。何か言ったかしら」
「何も言ってませんよ。何もね」
思ってただけなのに、どうして私に顔を向けてきたのかしら。もしかして、悪口だと聞こえているのかしらね。
「それにしても、私たちが魔王を復活させようとしていたとは……、聞かされても信じられませんね」
「娘を生贄にしようとしていたなんて……。なんて愚かしい事を……」
コール子爵夫妻はまだ反省の真っ只中である。意識を取り戻したばかりで、情報の整理が追いついていないのである。
「しかし、困りましたな」
「ええ、そうですね」
大臣と王妃が顔を見合わせている。
「何が困ったなのでしょうか」
それに質問をぶつけているのはフィレン王子だった。
「まさかこんな形でご存命とは思いませんでしたからな。わが国だけのことかもしれませんが、一度抹消した爵位というのは、簡単には復活できないのですよ」
「ああ、そういえばそういう仕組みになっていますね」
大臣の話を聞いて、納得してしまうフィレン王子なのである。
「えっと、それはどういうことなのでしょうか」
あえて質問する私。
「爵位を失うという事は、何かしらの問題が起きたということだからです。他人が継承するという場合はございますが、当人がもう一度同じ爵位を取るという事例は過去にはありませんからね」
「それに、他人が継承するにしても、爵位には引き継ぎの期限が存在しているんだ。その期限を過ぎてしまえば、その爵位は引き継ぐ事ができなくなり、過去のイメージがこびりついてしまうというわけなんだよ」
その話を聞いて、なんとなくだけども納得がいった私。
「つまり、コール子爵というものには、責任を放棄しただらしない人みたいなイメージが確立されてしまった……と。だからその名前は使えないというわけですか」
「そういう事ですね」
なんともまぁ、酷い話である。言ってしまえばレッテル貼りというわけね。納得はいったけれども、はいそうですかとはいかないわね。
「でも、コール子爵を名乗れなくても、子爵位に戻る方法はございますよ」
重苦しい雰囲気の中で、王妃が微笑みを浮かべて切り出した。
「それは一体どういった方法なのでしょうか」
引き続き私が質問をする。すると、王妃はメチルの方へと視線を向けていた。
「ほえ? 私?!」
頭の上に大量の「?」を浮かべているメチル。メチルに分からなければ、私たちに分かるわけがなかった。
「メチル? 今のあなたの立場は何ですか?」
「私は……、王妃様の専属侍女でございます」
女王に尋ねられて、おそれ多くもといった感じで答えるメチル。
「なるほど、そういうわけですか、お母様」
ミズーナ王女が何かピンと来たようだった。しかし、私たちは引き続きよく分からないでいる。
「城の使用人であれば平民もなれるのですが、王族の使用人となると、平民になる事は通常無理な話なんですよ」
「なるほど、今の立場に見合う身分を付与するために、その両親に爵位を与える。そういうわけですか」
フィレン王子の言葉に、ミズーナ王女はこくりと頷いた。
話は分かったけれども、それは簡単にできるものなのだろうか。
謁見の間には、まだまだ混乱状態が渦巻いているのだった。




