第32話 マートン邸、2回目のお茶会
そういえば、この世界の料理を改めて考えてみるといろいろ不思議なところがあった。すっかりいろいろ抜け落ちていたわね。
軽食系はプリンやケーキ、それにパフェといったデザートは充実しているけれど、お菓子の類はクッキーやらサブレ、チョコレートといったものに限られる。ポテチとかはないのよね。主食系は先日作ったジャンクフードやピザもだけど、和食はないし、よく思えば麺類もなかった。肉に関してもミンチとかないし、そのままかせいぜい多少切ってある程度だった。調味料も砂糖や塩はあるけれど酢はほぼ流通していなくて醤油や味噌はない。そのくせして香辛料はあるのでなぜかカレーは存在している。もうやだ、ちぐはぐすぎる。飲み物は果汁やミルクがあるとはいえども、ほぼ紅茶一択だしね。本当、どうなってるのよ、この世界はっ!
「お嬢様、どうされたのですか?」
「あっ、ごめん、スーラ。ちょっと考え事してただけよ」
急に頭を抱えて前後に振るものだから、スーラに心配掛けちゃったわね。
とりあえず、週末に誘われたラムのお茶会をどうするかが問題かな。せっかく仲良くなったのだから無視なんてできないし、王子の婚約者候補となった今はゲームの事なんて忘れて、この世界を楽しんでおかなきゃね。警戒するのはダイエットのドーピングアイテムとサキ・テトリバーだけよ。それに、そのうち王妃教育も始まって時間が取れなくなっちゃうもの。
そういえば、ゲームでは一番仲の良かったモモ・ハーツとの絡みがまったくないわ。そういえば、あの子とはどうやってアンマリアは仲良くなったのかしら。まったく接点が無さすぎる。ゲームの事なんて忘れると言いつつも、やっぱり気になるところは気になってしまうのだった。
私はあーだこーだと悩んでいたが、まあどうにでもなれとすっぱり諦めた。無理に仲良くなる必要はないし、学園に入るまでは時間もあるから、そのうち話す機会ができるでしょ。
そういうわけで、私は午前中は庭の手入れ、午後は淑女教育と、とにかく毎日を頑張って過ごす事にした。王族の婚約者候補になったんだから、手を抜いてなんていられますかっていうのよ。その合間を見ては、サクラ・バッサーシから教えてもらった筋トレもこなしていく。祝福という名の呪いに打ち勝つために、私は努力を惜しまなかった。
そして、迎えたお茶会の日。私は母親と一緒にラム・マートンの家を訪ねた。既に2回目となる公爵邸の訪問である。
「まさか、こんな短期間で公爵邸にお呼ばれするなんて、さすが私の娘ね」
どういうわけか、母親がもの凄く誇っている。
今日のお茶会は、この間のバッサーシ辺境伯領での事があっての集まりなのだ。その時の母は王都に居たのだから、本来はお呼びではない。とはいえ、王子の婚約者候補で伯爵家の長女なのだから、付き添いはやっぱり必須なのだ。だからこそ、母親がついて来ているというわけである。父親の方は相変わらず忙しそうに城へ出かけていったから仕方ない。
それにしても、あれだけ運動もしてるし、魔法だって使いまくっているので、私の体はまったく痩せる事を知らなかった。さっきステータスを確認したら、体重が+1kgで泣きたくなったわよ。ただ、恩恵値っていう謎パラメータが新たに出現していたのが気になった。なんか「100」とか書いてあった。Tipsもないので何の事でどういう意味なのか分からず、私はひたすら首を捻るばかりだった。
ただ、この恩恵もよく分からないもので、なぜ脂肪として私の体にまとわりつくのか、どういった効果をもたらすのかまったくもって不明なのである。ただ13歳になると、それ以降の恩恵は私の魔力として変換される。これって単純に恩恵を集めまくったら、「私最強!」って事にならないかしらね。ただでさえ、現状ですら魔法の威力はとんでもなかったんだから。
とはいえ、その辺りの事は、実際に13歳になってみないと分からない。まったく、やれやれだわ。
あれこれ悶々としているうちに、私たちを乗せた馬車はマートン公爵邸に到着していた。相変わらず門の構えからご立派である。
今日のお茶会は天気ではあるものの室内で行われる。バッサーシ辺境伯領であった事を話し合うのだから、それは当然ながらオープンなスペースより閉鎖的な空間を利用するわよね。スタンピードの事は王家には報告したらしいけれど、対外的にはまだ伏せた状態だものね。どこで話を聞かれているか分かったものじゃないからね。
正面玄関にて馬車を降りた私と母親、それとスーラはマートン家の使用人に連れられて客間へと向かう。その客間はなんと屋敷の2階にあった。どうやら個人スペースの隣にある、親しい者だけを招き入れる部屋らしい。普通なら1階にある応接室を使うはずだから、私たちの扱いはそれだけ特殊……ではなく、今回の状況が特殊なのであった。
というわけで、その特殊な客間に通された私たちは、そこで恐るべきものを見てしまったのであった。一体私たちは何を見たというのだろうか。




