第307話 温かい家族
「ただいま戻りました」
私は国王に謁見をする。そこには三国の王子王女全員が揃っていた。そういえばエスカにはスマホもどきで連絡入れていたものね。そりゃ居るはずだわ。
「よくぞ戻ってきた。大儀であったぞ、アンマリア」
国王がまた大層な挨拶で出迎えてくれる。大きな仕事だったのは確かだけどね。
とりあえず私は跪いて頭を下げておく。
「あの魔石のおかげで無事に結界は張れましたが、魔力の使い過ぎで戻るのが遅くなりまして申し訳ございませんでした」
「いや、気にせずともよい。アンマリアばかりに負担を掛けるのは、こちらが心苦しいからな」
国王が申し訳なさそうにしながら労ってくる。
「それにしても、私の国の人間がかなりご迷惑を掛けているようで、本当に申し訳ございません」
「まったくです。この件に関して申し開きのしようもございません。ベジタリウス王国の王子として謝罪致します」
続いて、ミズーナ王女とレッタス王子も謝罪をしてきた。自分の国が原因となれば、どうしても責任を感じてしまうものなのだ。
「しかし……だ。相手は隠密だろう? どうにかできるものなのか?」
「はい、問題はそこなのです。私たちの魔法でもってしても、完全な把握は難しいでしょう。できたとしても王都を覆うくらいの結界までだと思います。外に出られてしまえば、対処のしようもございません」
国王の問い掛けに、私はそう答えておいた。
私たちと言ったのは、転生者三人と聖女であるサキの四人の力を合わせればという意味である。
聖女の持つ邪を払う聖なる魔力を増幅させれば、問題の隠密たちの動きを一時的に封じられるだろう。しかし、それでもどこまで持続できるかは分からない。そこが最大の問題なのである。動きを封じている間に捕まえられなければ意味がないからだ。
本当に悩ましい話だ。
ダイエットを成功させて平穏無事な転生生活と思っていたのに、突然降って湧いた魔王という存在の影。世の中、どうしてこうも訳の分からない事が起きるのか。本当に不思議で仕方がない。
ここは乙女ゲームの世界じゃなかったのかしら?!
とまあ、心の中で嘆いていても仕方がないので、話を終えた私はエスカと一緒に家へと戻った。
「お姉様ーっ!!」
家に戻ると、モモの突撃を食らってしまう私だった。
「ぐえっ!」
思わず令嬢らしからぬ声が出る。だって、モモの突撃が見事にみぞおちに決まったんだもの。
「お帰りなさいです、エスカ王女殿下、アンマリア様」
笑いながら出迎えてくれるテールである。さすがに目の前でギャグみたいな事やられれば、笑うしかないわよね。
私はお腹を擦りながらだけど、テールにも笑顔で手を振っておいた。
「とにかくアンマリア、お疲れ様だったわね。中に入ってゆっくり休んだらいいわ」
「ええ、そうさせてもらいます」
モモたちをエスカに任せて、私は出迎えに来たスーラに連れられて建物の中へと入っていった。
久しぶりの我が家は落ち着くわね。スーラに手伝ってもらって湯浴みをして着替えた私は、ようやく母親と久しぶりに顔を合わせた。
「ただいま戻りました、お母様」
「ええ、お帰りなさい、アンマリア」
うん、怒ってる。
無事に戻ってきたのを喜んでいるのだろうけど、オーラがもうね……。
「本当にご心配お掛け致しました、お母様」
「無事だったのですから、いいのですよ、アンマリア」
母親は私に近付いてきてそっと抱き締めていた。やはり母親の包容力は違うわ。
「しかし、事情は聞いてはいますけれど、モモにまでこんなに心配を掛けたのは見過ごせませんね。年末の試験はちゃんとそれなりの成績でなければ許しませんからね」
「しょ、承知しました、お母様」
さすがに鋭い眼光を向けられてしまっては、私は震え上がるしかなかった。成績上位を取らなければ、一体どんな罰が待っているのか。私は背筋が凍る思いだった。
母親との話を終えて部屋に戻ると、そこにはモモとテールがやって来ていた。エスカも居るし……。
「お姉様。居られなかった間の授業のノートです」
「私もお世話になっていますから、せめてもの恩返しにとご用意させて頂きました」
二人揃って差し出してくるので、私は思わずびっくりしてしまう。
「そっか、二人ともありがとう」
微笑んだ私は、二人からノートを受け取る。その私を見て、二人はとても嬉しそうにしていた。
私は手を振りながらみんなと別れて部屋の中へと入る。そして、渡されたノートに目を通すと、なんとも分かりやすくまとめられていた。
あの二人、自分の事でも精いっぱいでしょうに……。本当にいい妹や友人を持ったものだわね。私はちょっと目頭が熱くなった。
「さてと、明日から学園に久しぶりの登校か……。まったく、どんな顔されるのか想像つかないわね」
ノートを書き写す手を止めた私は、ふと別の不安に襲われる。でも、行かなきゃいけない以上は、覚悟を決めなくっちゃね。
自分の頬を二度叩いた私は、しばらくは机に向かって無言で勉強に勤しんだのだった。




