第263話 2年目の夏合宿・往路
合宿の地へ向けて出発する日、私たちは学園へと出向く。収納魔法があるので、私の荷物はまったくない。モモもエスカも手ぶらである。これだけの人数の荷物を余裕でしまい込めるだなんて、本当に収納魔法様様よね。
実際、他の学生たちの荷物は軒並み多かった。なにせ1週間、往復を含めれば2週間もある合宿だものね。ましてや貴族の子女たちなのだから、そりゃ荷物がかさばってしまうものなのである。私みたいに収納魔法を持ち合わせている人物って、そうそう居るわけないものね。なにせ希少魔法だもの。
今回の合宿の参加者は、学園全体の半数ほどに上った。実に大所帯である。馬車の数もシャレにならない。荷物との関係で1つの馬車に乗るのは四人程度なのだ。100人は超えているのだから、教師たちを含めれば実に30台はゆうに超えているという圧巻の光景である。一国の貴族の子女はかなり多かったのだ。
学園からぞろぞろと出発していく、夏の合宿の参加者たちを乗せた馬車の群れ。さすがに王都の人たちも見慣れない光景に、なんだなんだと注目を集めてしまっていた。こんな大行列、他国の王族が来た時くらいにしか見る事がないから、それは仕方のない事よね。そんなわけで、王都を出るまでの間、私たちは王都を行き交う人たちから注目を集めたままだった。
王都トーミを出て、まずは南へ向かって街道を進んでいく。
初日は宿場町に泊まるのだけれど、さすがに大人数すぎて街の中で泊まるのは不可能だった。結局私たちは街の外で野宿である。早速文句を言う学生が居たのだが、こればかりは我慢だわ。それほど大きくはない街に、100人を超えた団体を泊める余裕なんていうのはないんだもの。
ちなみにだけど、私は収納魔法にしまい込んでおいた天幕を出して、その中で休んでいた。そのてっぺんにはちゃんと魔物除けを施した簡素だけど豪華なものよ。自分で一生懸命こさえた天幕なのよ。
「アンマリアったら、準備がいいわね……」
「いろいろと事情があるのよ。前世ではキャンプをした事はないけど、したくなってテントを買ったから、その時の知識が役に立ったわね」
「なるほど……」
エスカとこそこそと話をする私なのだった。それを見ながらくすくすと笑うミズーナ王女に、何を話しているのか分からなくて首を傾げるモモ。
私のグループはこの四人となっていたのだった。結局変わり映えのしない四人というよりは、この四人で組ませるしかなかったといった感じである。このグループ分け、教師たちも相当苦労したと思われる。
あと、他のライバル令嬢たちも一緒の班に組み分けられていた。でも三人だったから、誰か知らない人が一人放り込まれていたけど、ものすごく居づらそうにしていた。学年が違うのかしらね。
気になった私は、ラムたちのグループに声を掛けていた。
「これはアンマリア様。どうなさったのですか?」
ラムが尋ねてくる。
「いえ、みなさんの様子が気になって見に来ただけです。深い意味はございませんわ」
それに素直に答える私。
「そうですか。別の班になってしまいましたものね。普段はよく一緒ですから、気になってしまいますわよね」
ラムはにこやかに微笑んでいた。
「ところで、そちらの方は?」
私はちらりとサクラに絡まれている女子が気になった。
「数少ない武術型の女子学生ですわね。今年入学した1年生らしいですわ。名前は確か……」
「テールです。テール・ロートントと申します。父の爵位は男爵です」
名前を名乗ったテールは、ぺこりと頭を下げて挨拶をする。
「ああ、ロートント男爵の娘さんですのね。ええ、父親のロートント男爵は存じております。娘さんがいらしたんですね」
「あっ、はい。ただし私は養子ですが」
なんとまあ、養子であるなら知らなくても無理はない話だった。所作こそそこそこ身に付いているようだけれども、どこか自信なさげな様子を見るに、おそらくは平民の子どもだったのだろう。
子が儲けられない貴族の中には、爵位の維持のためだけに平民を迎え入れる貴族も少なからず存在している。テールはそういった意図で養子にされたのだろう。だが、その場合は通常男子を迎え入れるのだが、なぜ女子を迎え入れたのか。そればかりは謎だけど、この際はとりあえず考えない事にした。
「そう、貴族の生活は大変でしょうけれど、頑張って下さいな」
「は、はい!」
私が励ますと、元気よく返事をしていた。うん、初々しいわね。
その様子を見ながら、なるほどと思う私である。
なにせこのグループは武術に関しても魔法に関しても、それなりに長けた人物が居るのだから。サキは劣るとはいえ聖女という立ち位置だ。この三人が居るのならば、そう問題は起こらないはず。
「それではお邪魔しました。テール様でしたわね、ラム様たちは私と同じ2年生ですから、先輩にあたります。分からなくなったら、遠慮なく質問して下さいね。おそらくちゃんとした答えが返ってくるはずですから」
「は、はい。分かりました」
テールはおどおどしながら答えていた。私はにこりと微笑むとモモたちのところへと戻っていく。
はてさて、初めて全学年合同となった夏合宿。何事もなく無事に終える事ができるのだろうか。
合宿はまだ始まったばかりである。




