第255話 夏は来るか?
さてさて、ミール王国の建国祭から戻ってきた私たちに襲い掛かってきた次の試練は、前期末試験だった。
正直言って、私はまったく問題はないんだけれど、我が家には約二名ほど頭を悩ませている者が居た。
……モモとエスカである。
モモは去年も苦戦していたので予想通りなのだけれど、まさかエスカまで頭を抱えているとは思わなかった。こんなので大丈夫なのかしらね、ミール王国って。
フィレン王子たちに話を聞く限り、アーサリーもそれほど成績がいいわけでもなさそうなので、本気で心配になってきちゃう。これはどうにかしなきゃいけないわね。
夕食を済ませると、私はモモの部屋を訪れた。
「モモ、勉強頑張りましょうかね」
「ひっ!」
私が部屋の中に入って言葉を掛けると、モモは驚いた声を出して背筋を伸ばしていた。どれだけ勉強が嫌なのかしらね。
モモはネスに泣きつこうとしていたものの、ネスからも勉強を頑張るように言われてしまう。これにはモモは膝から崩れ落ちてしまっていた。
その様子を私が微笑ましく見ていると、バーンと扉が開く。
誰が入って来たのかと思えば、やっぱりあんたか、エスカ王女!
「アンマリア! 私の勉強も見てちょうだい!」
(あんたもか!)
エスカの言葉に、心の中でツッコミを入れておく私である。
あまりの衝撃だったものの、私は落ち着いて勉強道具を持たせていたスーラを見る。すると、スーラはテーブルにその道具を置くと、こくりと頷いて部屋を出ていった。あれは、去年の分を持ってくる動きだわ。
「し、仕方ありませんね。エスカ王女、一国の王女たるあなたに赤点を取らせるわけにはいきませんからね。厳しくいくのでご覚悟なさいませ」
私が睨み付けると、エスカが小さく言葉を漏らしながら青ざめて引きつっていた。
……自分から助けを求めておいてその態度かーい!
しばらくすると、私の部屋から去年のノートの類を持ってきたスーラが戻ってきた。そして、部屋の中の様子を見てぎょっとしていた。そりゃまあ、モモはさっきから膝から崩れたままの状態だし、エスカも青ざめて放心しているんだものね。驚かない方が無理って感じかしらね。
「アンマリアお嬢様」
「何かしら、スーラ」
「差し出がましい話ではありますが、よろしければ私も一緒に勉強を見てもよろしいでしょうか」
おっと、スーラから予想外の申し出だった。
確かに私一人で二人を見るのは少し厳しい。手伝ってもらえるのだったらこれほど助かるものはない。
それに、スーラも貴族で学園は出ているので、多少なりと対応は可能でしょうね。
「分かりました。では、お手伝いをお願いします」
「畏まりました」
こうして、私とスーラによる、モモとエスカの勉強会が始まったのだった。
今は18ターン目に入ったところなので、テストが行われる19ターン目は来週だものね。正直言って時間がないに等しい。
私とエスカにいたっては2週間勉強飛んじゃってるものね。ラムのノートのおかげで座学の遅れはどうにか取り戻せたからいいんだけど、それがなければ一体どうなっていたのか分からないわ。
でも、泣き言言っている場合じゃないわ。なんとしてでも、赤点だけは回避しなきゃね。夏休みが潰れちゃうもの。
私たちは1週間、とにかく必死に頑張ったのだった。スーラとネスにも手伝ってもらいながらね。
そして、ついに迎えたテストの週。
最初は座学試験からだった。座学とはいっても教科の種類が多いものね。歴史に法律、語学にその他もろもろと。私だってさすがに全教科満点は難しいわ。
でも、私には王子たちの婚約者としての立場と意地がある。満点は無理でも、それに準じた成績を取る事は可能なのよ。
覚悟を決めて、私たちは机に置かれた問題用紙に立ち向かったのだった。
あっという間に座学の試験が終わる。私はやり切った表情をしているのだが、モモとサキは燃え尽きたような表情をしていた。まるでどっかのアプリで見た事があるような顔をしているわ。
「まったく、サキ様、モモ様。この時点で燃え尽きてもらっては困りますよ。まだ実技試験が残っています」
二人を窘めるのはラムだった。
「本当にそうだね。気を抜くには早すぎるよ」
それに反応したのはなんとカービルだった。なんでここに居るわけ?
「カービル様。令嬢の集まりに顔を出すのはいささか節度に欠けるのでは?」
「すまないねラム嬢。でも、つい君の顔を見たくなってしまったんだよ」
「そうですか。ですが、まだ婚約者の段階です。節度をしっかりと持って頂かないと、わたくしの両親から婚約解消を申し渡されますわよ?」
「そそそ、それは困る。わ、分かった。今日のところは退散しよう」
ラムに睨まれたカービルは、そそくさとその場を立ち去っていった。どうやら、私の知らない間に、だいぶ親しくなったようだ。
「サキ様、モモ様。やるだけやりましたので、後は実技試験をしっかりこなして結果を待ちましょう」
「そ、そうですね……」
ラムに励まされても、二人は結局落ち込んだままだった。
はてさて、こんな状態で無事に赤点を回避できるのだろうか。私はなんとなく不安になってしまったのだった。




