第220話 お見舞いに行ったら土下座をお見舞いされた件
激痩せ事件の対応を大人たちに任せた私は、学園の講義が終わると再びサキの家へと向かった。今度はミズーナ王女もついて来ている。一国の王女を伴うのはどうかと思うんだけど、ミズーナ王女も今回の事は反省しているようなので、そのお詫びを兼ねた訪問というわけなのだ。実際、命の危険すらあったわけなのだから、これは当然と言えよう。
「いくら事件の対応でのお詫びとはいえ、ミズーナ王女がいきなり家に来たらびっくりすると思うわよ?」
「先触れはしておりますから、そこまで大事にはならないと思いますけれどね」
心配な私に対して、どこか楽観的なミズーナ王女である。
馬車に揺られてサキの家までやって来た私とミズーナ王女。先触れがあったとはいえ、やっぱり門番は驚いていた。
それにしても、門番が再び雇えるくらいにはテトリバー男爵家は持ち直しているようである。やはり、ボンジール商会が勢いを取り戻した影響がここにきて出てきているようだ。それでもさすがに貧乏時代に染みついた生活は変わらなくて、結構質素な生活を送っているのよね。下手をすると領民の方がぜいたくな暮らしをしているんじゃないかしらね。
ミズーナ王女が居る事で、私たちはすんなり中へと入れてもらえた。そして、サキの部屋へと案内してもらう。
「サキ様、ミズーナ王女殿下とアンマリア様がお見えになっております」
「えっ、ええ?! ちょっと、ちょっと待って頂いて!」
使用人がサキに話し掛けると、サキは部屋の中で慌てたようにドタバタとしている。病み上がりなんだから、もう少しおとなしくしていて大丈夫なんだけどね。多分、服装やら髪やらいろいろ乱れているから、それを直しているんだと思う。
しばらくすると、
「お、お待たせ致しました。どうぞ、お入り下さい」
さっきまでのドタバタが嘘のように静まり返っていた。入室の許可が出たので、使用人はゆっくりと扉を開けて私たちを部屋へと通していた。
部屋に入って私たちが目にしたのは、ベッドの上で状態を起こしている姿ではなく、ショールを肩にかけて椅子の脇で立って待つサキの姿だった。
「お二人とも、お見舞いに来て頂いて本当に感謝致します」
サキはぺこりと頭を下げていた。いや、こっちの方がお礼を言いたいくらいだわ。
何と言っても無理を言ってサキに来てもらって、その上で王都中を浄化してもらったんだもの。サキが最終的に倒れた原因は、張り切り過ぎて力を制御できなかったサキ自身の落ち度ではあるけれど、その発端は私たちなんだからね。謝罪はしても、謝罪をされるのは何かが違う気がした。
「いえいえ、私たちの急な呼び掛けに応じて頂いたのですから、そこまで畏まる必要はありませんよ」
ミズーナ王女もにっこりとサキを諫めている。
「ありがたく存じます。それで、あの食堂はどうなったのですか?」
サキは再び頭を下げると、先日の一件の事をやはり気にしているようだった。
「まだ2日しか経っていないので詳しくは申し上げられませんが、おそらく普通の食堂に戻るかと思います。あの食堂以外は確認しておりませんが、サキのあの光は王都中に広がりましたので、他の食堂もおそらくは解決していると思いますから」
「そ、そうですか……」
まだはっきりしないという話に、サキは明らかに落ち込んでいた。
「一応、引き続き調査を王国の方でして下さるそうなので、私たちはおとなしく待ちましょう。王族と王子の婚約者を危険に晒したくないという事でしょうからね」
「わ、分かりました。そう致します」
どんどんと落ち込んでいくサキだが、さすがにこれはよろしくない。私は心を鬼にする。
「それはそうとサキ様?」
「な、何でしょうか、アンマリア様」
私の声の調子を聞いたサキが、ばっと顔を上げて反応していた。
「ふふふ、張り切り過ぎて死にかけるなど、正直言って言語道断な話でしてよ? まずは自分の限界をしっかりと把握して下さいませんこと?」
私はサキに対して怒っていたのだ。
あの食堂での一件、浄化したいという意思が強すぎて、あの食堂一軒だけで済ませるはずが王都全体にまで効果が及んでしまった。その上、サキは顔面蒼白で倒れ、ミズーナ王女も近しい状態になり、私も疲労感が酷かった。私が一番ダメージが少なかったけど、本当に一歩間違えばみんな死んでいた可能性すらある。だからこそ、私は本気でサキに対して怒りを向けているのである。
「も、申し訳、ございませんでしたっ!!」
サキはその場で深々と土下座をしていた。よく思えば、この世界も土下座っていう文化があるのよね。
「まったく、モモやエスカ王女殿下もしている魔力トレーニングに、サキも参加させる必要がありますね」
「あら、その魔力トレーニング、私も興味がありますわ」
「ミズーナ王女殿下も試されてみます?」
「ええ、ぜひとも」
土下座したままのサキの目の前で、私とミズーナ王女が話し込んでいる。きっと使用人が見ていたら困惑するだろう光景である。
とりあえず、サキもすっかり元気になったようなので、これでひと安心といったところね。
「では、サキ様。明日登校されるようでしたら、その時にでもそのための道具をお渡ししますわ」
「はい、よろしくお願いします」
こういう約束をしたところで、私たちはサキのお見舞いを済ませ、帰路に就いたのだった。




