第22話 甘い衝撃
あっという間に茶会の日が来てしまった。天気がいいために、無事にファッティ家の庭園で行う屋外の茶会となったのだ。
私はというと、初めての主催による茶会とだけあって、もの凄く緊張していた。母親であるフトラシア・ファッティ伯爵夫人も居るとはいえ、なかなかのプレッシャーなのだ。私は手の平に人の文字を書いてごくりと飲み込んでいる。
この日の私の体重は56kg。緊張で食事が喉が通らないとかそんな事はなかった。むしろ普通に食べていたのだけど、いやはや、2kgも増えるなんて思ってみなかったわよ。スーラに合わせてもらった服も危うくパツパツになるところだったわ。でも、今回ばかりは太る理由ははっきりと分かっていた。
「ようこそおいで下さいました。今回の主催である、アンマリア・ファッティでございます」
来客を目の前に、挨拶をする私。地味に足が緊張と体重で震えている。
目の前にずらりと集まっている少女たち。私と同い年か少し上の令嬢たちから一斉に視線を浴びており、私は思わず吐血しそうなくらいに緊張しているのだ。
それにしても、集まってくれた中にはラム・マートン公爵令嬢の姿がしっかりあった。そのおかげで、私のこのまん丸ボディとぶよぶよほっぺが笑われる事はない。正直これだけでも心強かったのだ。
「おほほほ、本日は皆さんお集まり頂き、誠に光栄でございますわ。娘のアンマリアは初めての主催で緊張しておりますので、ここは母親である私が代わって進行させて頂きますわね」
私がガッチガチに固まっていると、横から母親が出てきて仕切り始めた。ナイス、お母様。
「さて、今回皆様にお集まり頂きました庭園でございますが、実は特殊な庭園でございますのよ」
母親は実に上機嫌で話し始める。何を話すのか想像がついた私は、正直恥ずかしくなってきていた。心の中でやめてと、つい叫んでしまう。
「実はこの庭園、アンマリアが丹精込めて手入れをした庭になりますの。さあさ、みなさん。しっかりと見ていって下さいまし」
母親がこう言うと、庭園の中が騒がしくなる。そりゃもう、貴族令嬢が庭いじりなんて聞いた事ないのだから仕方がない事よね。でも、普通に運動したところで私には続かないだろうから庭をいじる事にしただけなのに、なんか趣味・特技にされちゃってるわね。私はにこにこしながら母親に心の中でツッコミを入れておく。
しかし、集まっている令嬢の反応は思ったより悪くなかった。正直バカにされると思ったけれど、予想外に好印象のようだった。丹精込めてお手入れしたかいがあったというものだ。
つかみはオッケーという事で、私はすぐさま次の手を投入する。お茶会に向けて作ったお菓子をここで披露させてもらう事にしたのだ。
私は母親に目で合図をすると、それに伴って私の侍女であるスーラたちメイド勢が一斉に動く。そうやってお茶会の場に出されたお菓子はチョコレートだったのだが、このチョコレートをただのチョコレートだと思ってくれるなという話なのだ。
こうして茶会の席に出されたチョコレートは2種類である。1つは普通のチョコレート。もう1つが私が手を加えたチョコレートになる。見た目には色が違っている。
この世界ではまだカカオの生産はほどほどの量である。そして加工されてできるチョコレートもやはり流通が少なく、貴族の間では高級菓子として通っているのだ。庶民にはとても手の出る代物ではなかった。ただ、普通のチョコレートでは甘みを加えるための砂糖が多かったのだ。単体では苦いチョコレートは敬遠されていたので、どうしてもお砂糖多めなチョコレートが好まれてしまう。だが、そうなるとカロリーが多くなってしまうので、ひとつ違ってた手を加えたのが、今回出した色の違うチョコレートだった。
見た事のない色のチョコレートに、令嬢たちはざわざわとしている。未知との遭遇なのだ。騒ぐのは当然の流れよね。
「今回お出ししたのは、普通のチョコレートと蜂蜜を使ったチョコレートになります。基本的な作り方は変わりませんが、お砂糖代わりにはちみつを使ったのが黄色い方のチョコレートとなります」
チョコレートというだけで令嬢には刺激が強いのだが、同じような攻撃力を持ったはちみつを使っているチョコレート出てきて、茶会に集まった令嬢たちには思わず倒れてしまいそうなくらいの衝撃となってしまったようだった。本当にここまでだけで情報量が多い。
前世ではクソゲーハンターだったとはいえど、料理は嗜みの一つでひと通りこなせるのよ。さあ、私にひれ伏しなさい!
内心でドヤ顔を決める私に対し、令嬢たちからの反応は様々だった。素直に感動している令嬢が多いようには見えるものの、厳しい目を向ける令嬢も居た。まあ、少なくとも令嬢は庭いじりはしないものね。私はしみじみとしながら令嬢たちの反応を楽しんでいた。まあ、さすがに同伴していた令嬢の母親たちは一様に厳しい表情だし、なんかダメ出ししていそうな雰囲気だわね。
あとの話題にしたかった庭園の手入れを秒で母親にばらされはしたものの、こうして私が主催となる初めてのお茶会はスタートしたのだった。




