第216話 原因を探れ
正直言うと、私もミズーナ王女も、違法な薬である痩せ薬に関係していると思われるこの事件に近付きたくはなかった。しかし、これを放っておくとおそらく犠牲者が出る可能性がある。実にもどかしい気持ちながらも、私たちは騒ぎの起きている食堂へと入っていく。
「ご免下さい。ちょっとお話よろしいでしょうか」
変装して一般平民に化けた私たちが、食堂の主人に声を掛ける。
「なんだ、あんたたちは。こちとら変な事が起きて大変な事になってるってのによう」
騒ぎのあおりを受けた主人は、ものすごく不機嫌そうだった。
店の中のお客の様子は、どうも変である。ものの見事に太っている人ばかりが集まっていたのだ。おそらく痩せたい一心で噂を聞いてやって来たのだろう。だが、そんな効果があるはずもないわけだから、食堂の主人は不機嫌極まりない状況になっているのである。
そこへやって来た太っている私たち。なおさら怒りを募らせるというわけである。でも、私たちの正体を知ったら卒倒しちゃうんでしょうね。
「私たちはその大変な事の調査のためにやって来たのです。少しお話をお聞かせ願えませんか?」
ミズーナ王女がちょっと語気を強めて食堂の主人へと言葉を掛ける。さすがにこれには食堂の主人はちょっと後退ったようだった。
「ま、まあ……。解決してくれるってんなら、協力してやってもいいぞ」
言葉がちょっと震えているものの、どうにか私たちは話を聞き出す事に成功する。
食堂の主人からの情報はこうだ。
食堂で食事をした人物が痩せるという事象が発現し始めたのは、年明け2週間くらい経ってかららしい。今は5ターン目に入ったところだから、約2週間前からという事らしい。
明らかに太りそうな食事をしていた人物まで痩せていたので、さすがにこれはおかしいと思ったそうだ。主人の対応は即営業自粛だったのだが、痩せたいという太り気味の客が押し寄せるようになって今に至る。ちなみにこういう店は他にも数店舗あるようだ。
「変な話ですね。ちょっと店の食材などを見せて頂いてよろしいですか。食材に原因があるのか、食器に原因があるのか、はたまた水か。詳しく調べてみる必要がありますね」
ミズーナ王女は顎に手を当てながらぶつくさと呟き始めた。
「とりあえず、中に入れて頂いてよろしいでしょうか」
「ああ、この変な事を解決してくれるってんなら、まったく構わねえよ。このままじゃ商売あがったりだ!」
食堂の主人は喚くように許可を出してくれた。実際原因は分からないし、このままの状態が続けばこれで生活をしている主人にとっては死活問題である。
「えっと、主人は無事なようですね」
私はある事に気が付いた。
「ああ、俺は貴族街寄りの平民街ぐらしだからな。そっちの方は被害が無くてこの通り俺も無事ってわけだよ」
そう、この変な状況の中でも食堂の主人の状態はまったく問題なかったのである。理由は住んでいる区画が違うためだという事が分かった。という事は、この食堂の主人は自宅周辺を含めてもこの騒動とは無縁という事になる。となれば、とにかくこの店の中を調べる事が重要になりそうだった。
「アンマリア、鑑定魔法は使えますか?」
「もちろんですよ」
「では、手あたり次第調べていきますよ。アンマリアのおかげで私も使いこなせるようになりましたからね」
ミズーナ王女の指揮の下で、私たちは店の中をひたすら鑑定魔法に掛けていく。店の中はかなり物が多いので、ひとつひとつ掛けていくのも面倒だわ。情報量の洪水はある程度我慢して、一定範囲ごとに鑑定していくしかなさそうね。これによって何が原因か特定されるだろう。私たちはそう思っていた。
しかし、これがまた異様な結果が導き出されたのだった。
「変ですね。食材からも食器からも異常はまったく出てきませんでした」
「まったくですね。念のため調理器具も全部調べましたけど、どれも異常なしでした」
そう、店内の至る所から異常なしの結果が出てきたのよ。これははっきり言って分からない
「水ってわけでもなさそうだわ。水だったら食器にも残留しそうですし、水を使っていない食事もありますから……」
はっきり言って、完全に手詰まりだった。まさか、鑑定魔法でも洗い出せないなんて一体どういう事なのだろうか。
「申し訳ございません。鑑定魔法でもまったく原因が分かりませんでした」
「くっ……、そうか。はあ、一体いつまでこういう状況が続くんだよ……」
食堂の主人は完全に落ち込んでしまった。
「はあ、こうなったら、原作通りにするしかないですわね」
「原作通り?」
私がやむを得ないと呟いた言葉に、ミズーナ王女がきょとんとした顔で聞き返す。
「ええ、あのゲームで断罪の場面で出てきた人物、覚えてらっしゃいますか?」
「えっ……。ああ、そういう事ですのね」
私のヒントでミズーナ王女は思い出したようである。
「すぐにでも連れてきましょう。もう私たちが頼れるのは彼女しか居ませんからね」
「ええ、善は急げですね」
こうして、私たちは食堂の主人に頭を下げると、とある場所へ向かって太った体を一生懸命走らせたのだった。




