第215話 虎穴に入らずんば?
城へとやって来た私たちは、あっという間に国王と王妃の前に連れ出されてしまった。何がどうしてこうなった?!
「サーロイン国王陛下、王妃殿下。ミズーナ、ただいま戻りました!」
「どうしたんだ、ミズーナ王女。それに、隣に居るのはアンマリアではないか」
ミズーナ王女の挨拶に、国王はものすごく驚いていた。
「ご、ご無沙汰しております、陛下……」
私は少し青ざめた状態で国王に挨拶をする。とても姿勢を正す余裕などなかった。120kgの巨体だというのに、ミズーナ王女のどこにあの足の速さが出せるのだろうか。不思議で仕方がなかった。
「それにしても、そんなに慌てた様子で一体どうしたのですか?」
この状況も見ても、王妃は冷静にミズーナ王女に問い掛けている。さすが王族、いかなる時も簡単に動揺しないものなのだ。
「はい、現在の王都で起きている不思議な現象についてのお話です」
「うむ? 何か起きているというのか?」
ミズーナ王女の言葉に、国王が首を傾げていた。どうやらまだ国王の耳までは届いていないようだった。
「一部の食堂で食事をした人々が、いきなり痩せるという現象が発生しております。まだ噂を聞いた程度ですので詳細は不明ですが、事実であるのなら大変な事になりますので、早急に調査をすべきだと考えます」
ミズーナ王女は必死に訴えていた。
「して、その情報の出所は?」
ミズーナ王女の訴えに、国王が冷静に問い返す。それを聞いたミズーナ王女は私へと視線を向ける。あっ、私が伝えたんだものね、これは私が答えるべき話ですわね。
「恐れ多いですが、発言させて頂きます。実は学園内ではこの話が広まっておりまして、私もそこで耳に致しました。そこでの噂を総合すると、次のような情報に集約されるかと思います」
ミズーナ王女から話を振られた私は、国王たちに自分が聞いた限りの噂の情報を総合して伝える。挙げるとするのなら、次の通りだろう。
それまでなんともなかったというのに、ある日を境に食堂の料理を食べると痩せるようになった。
場所は貧民街からさほど遠くない平民街にあるお店。こういう場所のは安いので冒険者や労働者たちに重宝されるので、相当数の証言が上がっている。
こんなところのはず。
私からの報告を聞いた国王は、顎を抱えて悩み始めた。被害が限定的とはいえども、被害者の職業を考えれば手を打つべきだと思われる。
「平民街の限定的な被害とはいえ、冒険者や職人に被害が出ているとなると、さすがにちょっと看過できない状況だな。すぐに調査隊を送り出そう。二人も協力してくれるか?」
国王のこの問いに、私とミズーナ王女はこくりと頷いた。
正直言うと、手伝いたくはない。私がヒロインであるルートで発生する破滅への瘦せ薬である可能性が高いのだから。巻き込まれるのは勘弁してほしいのだけれど、将来的に王妃か公爵夫人となる私なのだから、ここで依頼を断る事は無理な話なのである。それに、こういう話になったのは私がミズーナ王女に話した事が原因だものね。そんなわけで、私は渋々引き受けたのだ。
こうなると、私とミズーナ王女は早速変装して、問題の平民街へと向かい聞き込みを開始する。私はモモとエスカからもらった誕生日プレゼントの木の棒も携帯している。何かあった時の護身用よ。ちなみに、城からも何人か派遣してもらっている。さすがに私たち二人だけでは危険だものね。
やって来た王都の平民街。私ですらあまり来る事がないので、正直ここら辺の地理は怪しい。それでも何とかなっているのは、ゲームの知識のおかげ。公式ホームページには、なんと舞台となる王都のマップが描かれていたのである。やり込んだ私は、当然ながらその地図も丸暗記しているのよ。自分が住む街って事もあって、今でも鮮明に思い出せるわ。
「あ、アンマリア? ずいぶんと迷いなく進みますけれど、大丈夫なのですかね」
ミズーナ王女に心配されてしまう私。
「大丈夫ですよ。今でもしっかり公式ホームページに出ていたマップが鮮明に思い出せますから。それよりも調査ですよ」
私はこう言って、ミズーナ王女を落ち着かせる。この話を聞いている限り、彼女はそこまでやり込んだというわけではなさそうだった。まっ、拡張版の話は私が知らなかったわけだし、拡張版の頃にはホームページが改修されているって事もあるものね。
本当に幸いなのは、そのホームページ通りの街並みが広がっているって事なのよ。おかげでまったく迷わない。
さて、私たちがある地点までやって来た時だった。
「……空気が変わりましたね」
「……そうですね。何か、痛いような魔力を感じます」
ピキッという音がしたような気がして、一気に街の雰囲気が変わったのだ。私たちはそれに対して思わず足を止めてしまった。この張り詰めた空気……、ここが問題の平民街の区画なのだろう。
「警戒して進みますわよ。最悪私たちの今後に関わる話ですからね」
「分かりました。案内は任せましたよ、アンマリア」
私の言葉に対して返ってきたミズーナ王女の言葉に、私は黙って頷いた。
突然発生した王都の一角で起きた奇妙な出来事。それに対する私たちの調査がこうして始まったのだった。




