第211話 ゲームとリアル、その違いと盲点
2年目の最初の懸念材料を確認した私は、翌日の授業の後、魔法型の後輩の様子を見に行く。そこで私は、ミズーナ王女の姿を発見した。横にはおまけが居たけれどとりあえず気にしない。私はミズーナ王女に近付いて声を掛ける。
「お話がございますわ、ミズーナ王女殿下」
「アンマリア? 一体何の話でしょうか」
ミズーナ王女が反応すると、私は周りをきょろきょろと確認をしてから、ミズーナ王女に小声で話し掛ける。
「ミズーナ王女はご存じでしょうか。私のシナリオで2年目に出てくる禁断の薬の事は」
私が単刀直入にこう囁くと、
「ええ、知っていますよ。確か、ものすごく激痩せするという薬ですよね? 使用した場合は断罪コースまっしぐらっていうあれですよね?」
さすがというべきか、ミズーナ王女からはしっかりとした答えが返っていた。この薬の事は知っていたようだ。
「はい。ゲームでは私のシナリオの2年目開始のタイミングで出てくるものですが、ゲームとは違って現実となったこちらでは、もしかしたらミズーナ王女が煽りを食らう可能性があるのではと考えて、今日声を掛けさせにやって来た次第です」
「はっ! その可能性は盲点だったわ!」
私がやって来た事情を説明すると、エスカが驚いて声を上げていた。まあ、あんたはまったく関係ないからね。
そんなわけで、エスカの反応は無視して、私はミズーナ王女と話を続ける。ミズーナ王女は真剣に私の話を聞いている。
なんでこんな話をしていて、ミズーナ王女が真剣なのか。それというのもゲームの拡張版がスタートしたばかりの現時点では、ミズーナ王女の体重は私のゲーム時間開始の時と同じ120kgなのである。私の方が発生させない条件を満たしているとはいえ、1年遅れのゲームスタートとなるミズーナ王女は嫌でもその条件を満たしてしまう。これがシナリオの独立したゲームとは違う点だ。リアルというものは、すべてが繋がっているので往々にしてこういう事が起こりえてしまうのだった。
「というわけですので、1の月と2の月に関しては、城下町を出歩くのは避けた方がいいと思います。アンマリアシナリオの方ではそういう設定になっているのですから」
私がこのように伝えると、ミズーナ王女は少し考え込んだ後、
「分かりました。忠告ありがとうございます」
とお礼を言ってきた。さすがに厳しい条件かも知れないけれど、学園とかを直行直帰していればかなり回避できるかと思われる。
まったく、スタート時点で体重120kg固定っていう設定、本当に頭を抱えるしかないものよね。
とりあえず、これで危険性のひとつは潰せたと思うけれど、ミズーナ王女が100kgを切るまでは油断できないわね。ミズーナ王女と別れた時点から、私はエスカと一緒に対策を考える事にしたのだった。
――
アンマリアたちがそうやって対策を考えている頃、王都のとある一角。
「クヒヒヒヒヒ……。今こそこのわしの力を示す時が来た……」
怪しさ満点の声が響き渡る。
そこは平民街のちょっと外れた場所にある、少々薄暗い場所だった。貧民街というほど治安の悪い場所ではないが、それでも光の当たりにくい場所であるがゆえに、人が近付く事があまりない場所である。
「クヒヒヒヒ、あのアンマリアとかいう王太子妃候補を見た時に、わしに天啓が下りたのだ。世の女性を細く美しくしろという天啓がなぁ……」
ローブを着ていて、場所も薄暗いがために分かりにくいのだが、喋り方などから考えてみるに、それ相応に年のいった人物である事は間違いなさそうだ。
「理想の配合を求めたがゆえに時間が掛かってしまったが、ようやくでき上がったぞ。これがあればたちまち太った体は痩せていくだろうて」
目の前には大きな釜があり、怪しい液体がぐつぐつと煮込まれていた。まったく、一体どんなものを配合したというのだろうか。
「さてさて、この薬の効果を確かめるには、どうしたものかな。さすがのわしとて、もう太る事はできんからな……」
何かを口惜しそうに喋っている人物である。
「クヒヒ、そうじゃ。街の者どもにこっそり飲ませてやればいいか。わしの配合は理想的で完璧だ。万が一などあるわけなかろうて……」
怪しく喋る人物は、何やら自信満々のようである。にやりと笑った人物は、でき上がった液体を小分けにしながら瓶詰めしていく。
「我が身で試し続けてきたからな。害はない事は確実だ。クヒ、クヒヒヒヒヒ……」
怪しく笑う人物。その一瞬部屋の中を月明かりが照らし出す。光に照らされて浮かび上がったその姿は、それはもう目を覆いたくなるような酷い有様だった。頬はこけ、手足などを見ても完全にガリガリや骨と皮という表現が合うくらいにやせ細ってしまっていたのである。もはや正確な年齢や性別すらも分からないくらいである。
「クヒヒヒヒ……。ああ、この薬を売りに出す日が実に待ち遠しい。待っておれよ、アンマリア。理想の王太子妃になるために、わしの力を貸してやろうぞ。クヒヒヒヒヒヒ!」
怪しい笑い声が、すっかり陽の落ちた王都の片隅に響き渡ったのだった。




