第208話 魔力とイメージ
結論から言うと、ミズーナ王女は魔力循環には問題はなかった。これはさすが拡張版のヒロインというべきかしら。圧倒的に足りていなかったのは、……想像力でした。
理系人間だったらしいんだけど、理系人間でも想像力はあるものよ。何て言うか、現実主義者なところがあったらしい。世間一般でいうところの支離滅裂な思考みたいなところがあったと本人が語っていた。異世界転生してきてから王族として育っているうちに、その点はだいぶ薄らいだらしいんだけどね。ただ圧倒的に何かを想像するっていう能力が足りない模様。そのせいで魔法がそんなに使えないようだった。使えるのは生活魔法の一部だけらしい。
「よくそれで生きてこられましたね。魔力循環不全になっていないのもすごいですし、魔力過剰症も発症してませんし、これがヒロインってものなのですかね」
「アンマリア、それってどういう病気なのよ」
エスカが私に確認してくる。
「魔力循環不全というのは、血液の循環のように行われている魔力の循環が滞ってしまう症状です。これって最悪死にますからね。なにせ、動かなくなった魔力が体を傷付けますから」
私が説明すると、エスカもミズーナ王女も血の気が引いた顔をしていた。あっ、死ぬっていう状況は想像できるんだ。
「その真逆とも言えるのが、魔力過剰症ですね。私はミズーナ王女の体の状態もそれだと思って下さい」
「あっ、それで太っているのですね」
「はい、こっちもこっちで最悪死にます。体に異常がというよりは、太り過ぎて動けなくなる事による弊害ですけどね」
「な、なるほど……」
私の説明にミズーナ王女は納得していたようだった。
「ただ、この魔力過剰症は、個体差があります。私たちは元々の器が大きいので、太っていても平気なのですが、人によっては通常の体型でも起きている可能性があります。例えるなら、風船といったところですね。伸縮性の高い素材の風船ならよく膨らみますが、そうでなければ少し大きくなっただけで限界を迎えます。その先は、さすがに分かりますよね?」
私の言葉に、ミズーナ王女は言葉を失った。さすがの彼女でもこれは想像できたようである。
「ですので、適度に魔法を使うというガス抜きを行う事で、私はこのように痩せていけたというわけですよ。ミズーナ王女殿下も、努力すればきっと痩せていけます。諦めるのは早すぎますよ」
私が励ますと、ミズーナ王女はきゅっと表情を引き締めていた。
「もしかしたら、ミズーナって魔法少女ものとか戦隊ものとか、見た事のない人だったのかもね。それなら想像力が多少足りなくなるって事はあるかも知れないわ」
「あっ、そうですね。私の家は漫画もアニメもダメでしたから。何て言うか、ひたすら勉強しろっていう親でしたね」
「うげっ、教育ママゴンとかそういうやつ?! 毒親じゃん」
エスカはミズーナ王女の証言を聞いて、ものすごく嫌な顔をしていた。というか、あんたも王女なんだからそういう言葉遣いはやめなさいよ。周りに誰も居ないからって、油断し過ぎじゃないの? というか、毒親は分かるけど、教育ママゴンって何よ。
それはそうと、このままだと前世の話で盛り上がってしまいそうなので、いつ人が来るか分からない屋外という事もあるので、私は話を打ち切りにする。
「はいはい、前世の話は打ち切りですよ。さっさと魔法の訓練をしてしまいましょう」
私は手を叩きながらエスカとミズーナ王女を黙らせる。
私が魔法の訓練にと取り出したのは、トレント木材だった。
このトレント木材は、魔力によって変形するという、およそ木材らしからぬ特性を持っている。トレント自体はその気になればいくらでも狩ってこれるし、結構集中して魔力を通さなければならないので、いい魔法の練習になるのである。
あっ、これならサキやモモたちにもいい練習になりそうだわねと思った私は、二人にしばらく待ってもらってモモを呼んできた。
「何でしょうか、お姉様」
庭に呼び出されたモモが、訝しそうにしながら私に尋ねてくる。
「モモ、これを使って魔法の練習をしましょう」
「これは?」
「トレント木材よ。魔力を通すと思うように形を変えられるの。イメージする力と魔力と両方を鍛えられるから、ちょうどいいと今思ったのよ」
にっこりと微笑む私に、更に表情を険しくしてジト目を向けてくるモモ。だけど、私はそんな視線には屈しない。
「まあ、見せてあげるから見ていなさいな」
私はトレント木材を目の前に出す。そして、目を閉じて魔力をだんだんと通していく。すると、トレント木材が魔力を吸って白く光り始める。なんという事でしょう、トレント木材がぐにゃぐにゃと、まるで生きているかのようにどんどんと形を変えていくではないか。この光景に、モモたちは驚きの声を上げていた。そういえばこれを見たのってフィレン王子くらいかしらね。うーん、いろいろあり過ぎてあまり覚えてないなぁ。
それはともかくとして、私の手の中ででき上がったのは、なんとハリセンだった。あれ、2本目作れちゃったわね。
「お姉様、それって一体何なのでしょうか」
当然ながらこの世界の住民であるモモには分からなかった。ところが、これで叩かれた事のあるエスカは頭をさっと押さえていた。
「エスカ王女殿下?」
モモが不思議そうに首を傾げている。
「わ、私は何もしてませんからね」
明らかに怖がっていた。いや、叩かないから。
「なるほど、思ったように形を変えらえるというのは、いいイメトレになりそうですね」
ミズーナ王女が乗り気である。なので、私はまずは手に収まる扇くらいの大きさのトレント木材を渡した。
「まずは小さい物から練習です。一気に魔力を使うと、それはそれで魔力酔いを起こしますから」
私がにっこりと笑うと、ミズーナ王女はこくりと頷いていた。
こうして、魔法の特訓はトレント木材を使って進められる事が決定したのだった。あとで補充しとかなきゃ……。




