第207話 王女が家にやって来たPart2
翌日の事、私とモモ、それとエスカは信じられない光景を見ていた。
「お邪魔致しますわ」
なんと、ミズーナ王女がファッティ家にやって来たのである。もちろん先触れはあったので心構えはできていたけれど、いざ実際にやって来ると違った緊張をするものである。エスカはほとんど緊張しなかったのに、ミズーナ王女だとなんでこうも緊張するのだろうか。もしかして、体格のせいかしらね。さすがに120kgもあってドレスを着ているとなると、扉を両方開かなければ家の中に入ってこれなかった。今の私は82kgとだいぶ痩せてきたけど、その光景に13歳になった頃の苦労がつい蘇ってきてしまった。
「あら、そちらの方はどなたかしら」
母親が顔を出す。お母様、先触れがあったでしょうに、なんでそんな事を言うのですか。と言いたいところだけど、初対面だからこうなってしまうのだ。
「初めまして、私、ベジタリウス王国の王女ミズーナ・ベジタリウスでございます。本日はアンマリアに用があってお伺い致しました」
ミズーナ王女がそう答えると、母親は慌てて姿勢を正していた。まったく困ったものである。
「うふふ、そんなに謝らないで下さい。私は気にしていませんから」
ミズーナ王女はそう言って、母親を咎めなかった。体も器も大きいわね。
とりあえずそんな事はあったけれども、私はミズーナ王女を応接室に案内しようとする。ところが、
「あら、アンマリア。自室に案内して下さらないの?」
なんと、ミズーナ王女は私の部屋への案内を所望してきたのだ。これには困ったものだけれども、王女の希望である。私は仕方なくミズーナ王女を自分の部屋へと案内する事にした。
すると、当たり前のようにエスカはついてくるし、今回はモモも同席したがっていた。同じ屋根の下で暮らしているせいか、自分が外されている事が嫌なのだろう。なので、今回は私も同席を許可する事にした。もちろん、エスカやミズーナ王女に許可を得た上でだけどね。正直転生者の集まりに転生者ではないモモはあまり参加させたくはないけれど、義理とはいえ妹なのであまり無下にしたくもない。私はそんな感情の間で揺れ動いていた。私がここまで痩せられたのも、モモのおかげなところもあるわけだしね。
しかし、そうやって集まったのはいいけれど、絵面が昨日同様に酷いものだった。私の部屋はそこそこ広いものの、82kgと120kgの巨体が二人も居ればそれなりに狭く感じてしまう。モモもエスカも圧迫感を感じていないかしらね。
私が気になって二人の顔を見てみるけれど、特に気にしていなさそうだった。
「そうですね。今日の話題はどうしてアンマリアは痩せられたのか、という事でいいでしょうか」
そんな私のよそに、ミズーナ王女がとんでも議題をぶち込んできた。いや、どストレートにそれなわけ?!
ミズーナ王女がこう言うと、モモとエスカが揃って私を見てくる。しかもものすごく凝視している。なんでそんなに見つめてくるわけよ。
「確かに、1年間で40kgも落とせるなんて並大抵の事では無理ですね」
「お姉様は太りやすいという風には聞いていましたが、そういった気配はありませんよね」
ずずいっと顔を近付けてくる二人。
「ちょっと待ちなさいよ。実際に軽度だけどリバウンドしたじゃないの!」
言い繕おうとする私だけど、それでも二人は顔を近付けてくる。やめなさいってば。
「ああもう、二人ともいい加減にしなさい!」
さすがに私はキレた。障壁を張って二人が近付けないようにしたのである。
「私がここまで痩せたのは、とにかく鍛錬と魔法を使いまくる事です。私に集まる恩恵を魔力に変換して、その過剰分を脂肪として溜め込むものですからね。魔法を使って消費しまくれば、過剰な魔力による脂肪が落ちていくって仕組みです」
私は洗礼式で受けた自分の恩恵を正直に話した。すると、ミズーナ王女は何やら考え込む仕草を取る。
「……私と同じですわね。という事は、魔法を使わない事には痩せないという事なのですね……」
ぶつぶつと言い始めるミズーナ王女。痩せたいという気持ちが強いらしく、ずいぶんと怖い雰囲気を醸し出していた。女性にとってはほぼ共通の願望であるがゆえに、私はともかく、モモやエスカもその気持ちがよく分かるようである。
「困りましたわね。私、魔法があまり得意ではありませんのよ」
「えっ?! ヒロイン設定なんだから万能キャラじゃなかったの?」
ミズーナ王女の言葉に、エスカが反応する。だが、モモが居る場でその発言はどうかと思う。
「ひろ……いん?」
モモが首をこてんと傾けている。可愛い仕草だけれど、ここはごまかすしかない。
「モモ、エスカ王女殿下の妄言は聞く必要ありませんからね」
「誰が妄言よ」
私がモモに言い聞かせると、エスカがもの凄い剣幕で私を見てくる。少しは空気を読みなさいな。
しかしまあ、魔法が苦手となるなら、私の出番かしらね。モモやサキに魔法の手解きをした私の手腕を見せてあげるわよ。
「でしたら、私に少々お付き合い頂けますでしょうか。こう見えても魔法は得意ですので、ミズーナ王女殿下の悩みを解決して差し上げられるかも知れません」
私がこう言うと、
「では、よろしくお願い致します」
ミズーナ王女からは即返事があったのだった。
そんなこんなで、こんな年末の時期に私による魔法の特訓が始まったのだった。




