第135話 堪忍袋の緒が切れましたわよ
さてさて、私にけんかを吹っかけてきた男子学生をどうやって懲らしめてあげようかしらね。これでも文武両道のデブであるヒロイン様なのよ?
「一瞬で終わらせてやる!」
私があれこれ考えているうちに、男子学生が木剣で斬りかかってきた。まったく血の気の多い事ね。
「動きが単純ですね」
私は手に持った木剣で、あっさりと攻撃を受け止めてしまう。その様子を目の当たりにした男子学生が、驚きで固まっている。
「剣を止められたくらいで動けなくなるなんて、ずいぶんと甘く見てらしたのね」
私は木剣を払い、男子学生を弾き飛ばす。
「本当に、虫酸が走ります。いいでしょう、その鼻っ面を完膚なきまでに叩き折って差し上げます」
「調子に乗るな、デブがっ!」
完全に頭に血が上っている男子学生。だが、そんな状態で放たれる攻撃が、私に届くと思っているのかしらね。
当然だけれども、私は軽くその攻撃をいなし、軽く額に木剣を当てた。
「かはっ!」
それだというのに、私にけんかを売った大げさな反応を示してその場に倒れ込んだ。あれ、私まったく動いてないんですけれど?
「おい、一体何があったんだ!?」
ようやくフィレン王子が私たちの方に気が付く。どうやらサクラとタンも動きを止めているので、戦いに決着がついたっぽい。
「アンマリア。どうしたんだ、こいつは」
フィレン王子が私の足元に倒れ込む学生の姿に気が付いて、私に詰め寄ってきた。
「理由は分かりませんが、私に対して言い掛かりをつけてきたのです。しかも、剣の勝負を仕掛けてきまして、結果は御覧の通りです」
私は淡々とフィレン王子の質問に答えていた。
「多分、サクラ様にこてんぱんにされた憂さ晴らしでしょう。しかし、私を殿下の婚約者だと知らないような口ぶりでしたわ。本当に困ってしまいます」
「なんという事だ。すぐさまこいつを王都に送り返して謹慎させるんだ。こいつの家にも罰を与えろ」
フィレン王子がもの凄く怒っている。王子の剣幕に学生はもちろんの事、教官や警備隊の面々もたじたじのようだ。うん、一国の王子様を怒らせてはいけないわよね。
「はっ、婚約者への狼藉に対してその程度の処分か。サーロインは甘いな」
そこへ出てきたのは、ミール王国の王子であるアーサリーだった。
「アーサリー殿下。ここはサーロインです。そちらの尺度で考えるのはおやめ下さい」
すぐさま反論を入れるフィレン王子。
「はっ、そうだな。婚約者が絡まれてるのに気付けなかった甘ちゃんだもんな、はっはっはっはっ!」
アーサリーの暴言に、私はついカチンときてしまう。
「アーサリー殿下」
「なんだ、ファッティ伯爵令嬢」
「もしよろしければ、私と剣の勝負をなさってくださいませんこと? ええ、逃げませんわよね? 逃げたらエスカ王女殿下に言いつけておきますわよ?」
私は激おこでアーサリーに剣の勝負を持ちかける。その姿に、モモが絶叫して気絶しそうになっているけれど、今の私はこいつを許せない。さあ、どう出るかしらね。
「面白い……。そこまで言うのなら相手をしてやろう。泣きわめく事になっても知らないからな」
アーサリーが木剣を構える。しかし、そこにフィレン王子が割って入ってくる。
「ダメだ、アンマリア。これは私が許可できない」
「大丈夫ですよ、フィレン殿下。私は負けませんから」
私はそう言って、巨体を揺らしながらアーサリーと向かい合う。
「ふん、そんな太った体でやり合うというのか?」
「もちろんですわ。先程の私の戦いを見ていませんでしたか?」
「はっ、そんな下手くそと比べてくれるなよ。だが、俺も王子だからな、先手は譲ってやろう」
アーサリーは余裕たっぷりに私を見ている。まったく、ずいぶんと舐め腐ってくれるわね。いいわ、その傲慢な態度、前から気に入らなかったのよ。こてんぱんに叩きのめしてあげるわ、覚悟なさい。
私は木剣を構え、ひと呼吸置いてから一気にアーサリー王子に詰め寄った。
「はあっ!」
「なにっ?!」
私のあまりの足の速さに、アーサリーは驚いてまともに対応できていない。それでも私の剣をしっかり受け止めているあたりは腐っても王子ってわけね。
「くそっ、その体でこの速さ……。それになんでこんなに剣撃が重い。……魔法を使っているのか?」
「あらやだ、剣の勝負と言いましたでしょう? 私は一切魔法は使っていませんわよ」
焦るアーサリーに、私はにっこりと満面の笑みで言い返してやった。太っていると速く動けないのはそうだけれど、常に当てはまるなんて思わないでよね。
「くそっ、こんな事があってたまるか。本気で叩き潰してやる」
「あらあら大人げないですわ。言っておきますけれど、先にけんかを仕掛けたのはそちら。これだけ大勢の証人が居る中で、あなたの権威で押し通せるなんて思わない事ですわね」
「俺を脅すか!」
アーサリーは私の剣を弾いて、距離を取る。しかし、これだけ強く弾かれてよろけないあたり、私もずいぶんと鍛えたわね。
落ち着いて改めてアーサリーを見る。顔を真っ赤にして私を睨んでいるわね。本当に大人げないわ。
「たかが令嬢の分際で、許せん!」
アーサリーが私に襲い掛かってくる。だが、その時だった。
「はい、お兄様ストーップ!」
予想外な声が合宿所に響き渡ったのだった。




