第129話 ファッティ伯爵領の謎
さて、私は学園の合宿へ向かうまでの3日間、領地の確認に奔走する。飛行魔法で空飛ぶ姿はまるでピンクの豚を想起させる。そのくらいに私はまだ太っているのだ。
(いくら瞬間移動は魔力を大きく消費するとはいっても、たかが知れてるわね……)
光魔法で光を屈折させて、周りからは自分の姿が見えないようにしている。モモは一人残される事を不安にしていたけれど、私もずっと付きっきりというわけにはいかないもの。だからこそ、誕生日プレゼントとしてあの魔石のリボンを渡したんだからね。
実は防護魔法とだけ言ったけれど、あらゆる悪意からモモを護るように魔法を掛けてあるのよ。それこそ甘言だって対象よ。
モモはあのハーツ子爵夫妻の娘ではあるけれど、その後の成長は実におとなしくていい子に育ってくれた。世間知らずってわけじゃないけれど、どことなく気が弱くてお人好しになっちゃったから、コロッと言葉に騙されちゃいそうな気がしたのよね。だからこそのリボンというわけ。
(モモには家でおとなしくしてもらいながら、様子を見てもらってるんだけど……。はあ、心配よねぇ)
気が気でならない私だけども、伯父であるデバラたちの事を信用しているわけではないのだ。やっぱり何事もこうやって自分たちの目で確認しなきゃいけないわよね。
ところが、1日目2日目と、いくら見てみたところでおかしなところは見当たらない。重税や貧困というような苦しい生活を強いられているようにも見えない。どこまで見に行っても、領民たちはとても幸せそうに生活しているのである。
その上、街道もちゃんと整備されているし、警備にあたる兵士たちとも領民はとても気さくに挨拶や話を交わしている。これを見る限りは、父親の元に送られてきた収支表や報告書に嘘偽りはなさそうである。
(うーん、これは疑っちゃって悪かった気がするわ。完全に疑惑を晴らすには具体的な話は聞いてみたいけれど、こんなぽっちゃりした令嬢が突然現れたらびっくりするでしょうからね。うまくお父様と来られる時があるといいんだけど……)
私は上空で留まりながら、うーんと唸っていた。
とりあえずあまり遅くなるわけにはいかないので、私は瞬間移動で領主邸へと戻っていった。
領主邸の扉から入り、2階の自室へと移動する私。すると、
「お姉様ーっ、お帰りなさいませっ!」
モモが部屋に入った私にいきなり飛びついてきた。モモやめて、心臓に悪いわよ。そうは思いつつも、私はそのふくよかな体でしっかりとモモを受け止める。私は優しいお姉さんなのだからね。
私はモモの頭を撫でて、部屋へとモモを押し込んでいく。そして、扉を閉めると念のために鍵を掛けておいた。
「さて、モモ。屋敷な様子はどうだったかしら」
椅子に座って、腕を組みながらモモに確認を取る私。
「はい、さすが伯爵家です。ものすごく立派な内装で驚いてしまいました。王都だけだけじゃないんですね」
求めていた答えと比べると、何とも斜め上の答えが返ってきた。そういえば、ハーツ家は子爵だったし、領地もそれほど立派ではありませんでしたものね。モモがそこに感心するのも無理はないか。
「でも、王都のお屋敷に比べれば、少々質素な感じがします」
確かにモモの言う通りだ。修繕などはちゃんと行き届いているものの、家具などの室内設備は最低限だけを揃えているような感じなのだ。食事もお金のかかるものは控えているようだし、これなら結構な貯蓄がありそうなものだった。
ところが、収支に関していえば、トントンになっている。そこで私はふと思い出す。
「そういえば、街の状態はかなり良かったわね。自分たちの贅沢を抑える代わりに、領民のためにお金を掛けているって事なのかしら」
まったくこういうところは兄弟そろってそっくりである。
「王都の屋敷が豪華なのは、国王の臣下としての立場があるからでしょうね。お父様は仕事の虫ですから、あまり自分にお金を掛けたがらないもの」
そのしわ寄せが妻のフトラシアと娘の私にいってるんだけどね。私は自分の体を見ながらため息を吐く。
そういう父親もぽっちゃりとしてるんだけど、多分運動不足よねえ、あれは……。大臣だからほとんどデスクワークだもの。
「モモ」
「はい、お姉様」
「明日1日は、私と一緒に居ましょう。伯父さまから直接お話を伺うわよ」
どう考えたところで埒が明かないので、せっかく会った親族だ。1日びっちり話を聞いてみる事にしたのだった。
ああ、余談だけれども、昨日今日の魔法のおかげで、また1kg痩せたわよ。食事で太りやすいっていう体質さえなければもっと痩せてたと思うと、悔しい限りだわ。
その日の夕食。
「おじ様、おば様」
「なんだい、アンマリア」
私は思い切って伯父夫婦に声を掛ける。
「明日は、領地の事についてお話を伺いたいのです。領地はすごく久しぶりでしたし、モモも居ましたので、ちょっと遠慮をしておりましたが、改めて直接聞いてみたいと思いました」
「そうかい。確かに、書面だけでは信じられないところもあるだろうからね。いいよ、仕事をしながらになるけれどそこは我慢しておくれ」
「ありがとうございますわ、おじ様!」
そういうわけで、翌日、滞在3日目。私は伯父夫婦たちと話をする場を設ける事ができたのだった。




