第121話 前期末魔法試験、本番!
魔法試験で行われるパペットは、なんと動き回っていた。
「どうした。さっさと当てなければ点数はないぞ?」
呆然とする男子学生に試験官が声を掛ける。
「ふ、ふざけるな! あんな奴にどうやって魔法を当てろと言うんだ!」
男子学生が声を荒げている。しかし、さすがに教官は大人だ。まったくそんな脅しには応じていない。
「ふむ、ならば魔法試験は落第点を付けられて、夏休みは要らないというのだな?」
まるで蔑むように教官は言い放った。その目は明らかに見下しているようだ。
「だがまあ、君には言っていなかったのは悪かったな。ここから再び2分間だ。しっかり魔法を当てるようにな」
「くっそう! いいだろう、見てやがれっ!」
試験官に軽くあしらわれてしまった男子学生は、ぷんすかと怒りを爆発させてパペットを睨み付けた。
頑張って魔法を放ちまくった男子学生だったが、結局一撃も命中させる事なく時間切れとなってしまった。
「まあ頑張ったんじゃないかな。当てられなかったのは悔やむな。ちゃんと評価はしてやるから」
試験官はこんな事を言っているが、男子学生は愕然とした表情で、友人に抱えられながら退出していった。
試験官はそんな様子にお構いなしに、試験を続ける。まったく性格の悪い試験官ね。
「さて、次は……、サキ・テトリバーか」
そうしているうちにサキの出番が巡ってきた。はてさて、サキは大丈夫かしらね。
「ルールはもう分かっているな?」
試験官の確認に、黙って頷くサキ。その様子を見た試験官は開始の合図をする。
その刹那。何が起きたのか分からない。多分、この光景を目で追えたのは私だけだろう。あとはこの試験官くらいかしら。
「な、何が起きたんだ?」
そう騒ぐ学生の前で展開されているのは、会場の地面が凍てつき、数本の光の短剣が的であるパペットに突き刺さっている光景だった。うん、ずいぶんと腕を上げたわね、サキは。
サキの今のポーズを見れば分かるだろうけれど、サキは杖を前に突き出しているのだから、ちゃんと魔法を使っているのよ。これは私との特訓の中で身に付けた無詠唱だ。自分の中の魔力循環をしっかりと把握した事で、瞬時に魔法を具現化させるだけの魔力を集める事ができるというわけね。
「これが、殿下の婚約者の力というわけか……。アンマリア・ファッティだけじゃなくて、こっちも隠れた実力者だったとはな……」
試験官が冷や汗を流しながらも不敵に笑っている。その言い方はまるでどこかの裏切り者や間者のような言い回しなんですけれど?
それにしても、サキがここまでの実力を身に付けていたとは、ちょっと意外だった。それに、いくら無機物であるパペットとはいっても、あんなに躊躇なく刺さるような魔法を発動させていた事に驚かされた。問題は魔物や人間相手にあれができるかというところだろう。とはいっても、それだけの腕前はあるわけだし、これは防御系も練習させればあっという間に身に付けちゃいそうだった。
「合格だな。即戦力を期待してもいいのだが、殿下たちの婚約者だと思うと、無理強いは不可能だな」
本当に悔しそうな試験官である。そのせいか、その言葉はその場に居た全員に聞こえるほどのでかい声だった。それ、言っちゃいけない言葉なような気がするんだけど?
まあ、それはともかくサキはあっさりと合格していた。
それからというもの、数名を挟んでラムが登場。ラムの属性は風と水だったけれど、さすが公爵令嬢。サキと同じように拘束してからずばんと攻撃を命中させていた。センスだけなら私よりは上よね。
そこからまた10人くらいを挟んで、いよいよ妹であるモモの登場よ。ただ、モモはサキやラムとは違って、属性が火属性の一つしかない。彼女がどうやってこの試験をパスするのかは、私もだけれども、他の学生たちからも視線が集中していた。
そして、試験官が開始の合図を叫ぶと、モモは小手調べのごとく、杖から火の玉を連発していく。それに対して、パペットは回避行動を取っている。
モモの魔法は弾速が遅い。そのせいでパペットは余裕で躱せているのだ。あと、火属性が苦手な節があるのか、かなり余裕をもって回避しているようだった。とはいっても、私はそれを口にする事はできなかった。だって、今試験を受けているのは義理とはいえ妹なんですもの。ひいきと取られるかも知れないからね。触らぬ神に祟りなしよ。
無情にも時間はどんどん過ぎていく。
だが、この中にモモの魔法がただの無駄撃ちじゃない事に気が付いているのは、一体どのくらい居るのだろう?
よく見ると、ここまでモモの魔法が着弾した位置に、奇妙な模様が残っているのだ。
そして、試験時間が半分経過した時点でその仕掛けた魔法を発動する。
「さあ、出番よ!」
その掛け声とともに、地面に付いた模様から火柱が上がる。そのせいでパペットは行動範囲が一気に狭まってしまった。学生たちがその不思議な光景に驚いている。
ざわめきの中で燃え上がる炎の壁。これだけの炎の壁に囲まれてしまえば、もうパペットには逃げ道は残っていなかった。
「おしまいです!」
モモが放った渾身の火球弾が、ついにパペットを捉えたのだった。




