第119話 長期休みの前の風物詩
夏休みも近付き、学園の中の空気がぴりつき始めている。それというのも、前期末試験が近付いているためなのよ。なんといっても、もう来週の話だものね。試験前の追い込みは、どこの世界でもあるものなのね。
ちなみにだけど、私はまったくもって余裕。婚約者だから王妃教育を受けているし、結構そこで知識をガンガンに叩き込まれてるものね。ちなみにこれはサキも同じ。ただ彼女にはきつかったようで、時々ダウンしてたわね。まあ、そこそこ裕福な伯爵令嬢と貧乏な男爵令嬢とじゃ、環境が違い過ぎるものね。本当にご苦労様よ、サキ。
私はそれでいて、リブロ王子の経過観察をしたり、ボンジール商会に魔道具を作って提供したり、モモの勉強のお手伝いをしたり、結構忙しく動いてるのよね。その上に魔道具の材料を手に入れに、たまにクッケン湖やファッティ伯爵領内まで出向いて適当に魔物を間引いたりしてるもの。瞬間移動魔法万歳!
前期末試験が行われるのは19ターン目。モモの誕生日の一週間前よ。なので私は、モモも無事に試験を突破できるように、自分の復習も兼ねて勉強や魔法の面倒を見ている。赤点を取って補習なんて事になれば、せっかく誕生日パーティー翌日から計画している、ファッティ領への旅行がおじゃんになっちゃうもの。こっちとしても必死なのよ。
肝心のモモなんだけど、部屋では教本を眺めながらもの凄いしかめっ面をしている。いやまぁ、本を眺めていても頭に入るかって言うとそうならない可能性の方が高いからね?
そんなわけでも、モモを夕食に呼びに来たついでに、私はちょっとアドバイスを送る事にした。
「モモ、ずいぶんと根を詰めているわね」
「わわっ、お姉様?!」
私が声を掛けると、集中していたせいかもの凄くモモは慌てていた。だって、教本を両手の中でお手玉するくらいだもの。漫画とかでは見た事あるけれど、実際に見るとは思わなかったわ。
「落ち着きなさい、モモ。とりあえず夕食だから、呼びに来ただけなんだから」
「あっ、もうそんな時間なんですね」
モモが窓の外を見ると、もう日が沈んで空が暗くなっていた。
「モモ、根詰めて勉強するのもいいけれど、本を見ているだけじゃだめよ。せめて要点をまとめてみるとかしてみたらどうかしらね。目からの情報は印象に残りやすいけれど、長く見ていたからといって残るとは限らないわ。記憶なんてものはそのくらいに曖昧なんだから」
私はモモの前で変わった魔法を披露する。魔法が使えるなら大体使える光源魔法をアレンジしてみたのだ。それを見たモモが顔を明るくする。
「す、すごいですわ、お姉様。これってどうやるんですか?!」
モモが見たのは発光する文字列。生活魔法の一種、明かり取りである光源魔法で文字を書いてみたのだ。ちなみに目の前に浮かぶ文字は『モモ』と書いてある。カタカナじゃなくてこの世界の言葉で、だけれどもね。それでも、モモの興味を引くには十分だった。
「簡単じゃないけれど、光を作り出す際に、その形をイメージして変化させるのよ。通常は空にある光のせいで丸くなっちゃうけれど、それを自分の想像力でアレンジするのよ」
「な、なるほど……」
「慣れたら他の魔法でもできるようになるかも知れないわ。そもそも魔法は魔力をイメージで変化させるものだしね」
私の言葉に、モモは「ふむふむなるほど」と考え込み始めた。
「まあ、それよりも今からご飯よ。お父様とお母様を待たせるわけにはいかないわ」
「あ、はい。すぐに支度致します」
モモはそう言って、バタバタと教本を閉じて机の上を整理していた。
食堂に到着すると、すでに両親は席に座っていた。
「お父様、お母様、お待たせ致しました」
「申し訳ございません、私がちょっと勉強に集中してしまったようです」
私とモモは両親に頭を下げて謝罪する。
「そうか、学園入って最初の期末試験か。それだったら無理に同席する必要はないぞ」
「ええ、事前に言っておけば、使用人に食事を部屋まで届けさせますからね。私たちも苦労した覚えがありますから」
両親も学生時代は苦労したらしく、私たちを咎めるような事はしなかった。
「フトラシアは学生時代魔法型の生徒だったから、お前たちの相談にも乗ってやれるかも知れん。私は大臣の仕事もあって忙しいが、フトラシアなら相談に乗ってくれるだろう」
「ええ、これでも母親なのですから、いつでも相談に乗ってちょうだい」
両親の言葉に、つい私は感動してしまった。うん、転生先がこの両親の元で本当によかったわ。私はしみじみとした気持ちで夕食を味わったのだった。
そして、迎えた前期末試験。初日は歴史や語学、算術などの学問の筆記試験に、2日目は魔法や武術の実技試験が行われる。実技試験は主に見るのは武術型は武術、魔法型は魔法、つまりは体系がそのまま実技試験になる。もう一方の型も一応見るは見るけれど、そっちはあくまでおまけである。だって、使えない人だって居るんだからね。
まぁ、久しぶりの試験だけれども、楽しませてもらいましょうかね。
こうして、楽しい夏休みを確保できるかどうかの、私たちの戦いが始まったのだった。




