第117話 夏休みに向けて
エスカがミール王国に帰った後も、しばらくの間は国王の爆弾発言のせいで私の周りはしばらくの間賑やかだった。まあ、魔法系の学生たちは私のとんでも魔法を目の前で見ていたからそれほど騒ぎにはならなかったけれど、騎士系の学生たちはそれを知らないからだいぶ騒がしくしていたみたい。フィレン王子やサクラがその辺の火消しに回っていたみたいだけれど、迷惑掛けちゃったわね。まっ、私は私で迷惑被ったからね!
そういえば、ひと月もしないうちにモモが誕生日を迎えるわね。大事な妹の誕生日は今年もちゃんと祝ってあげなきゃ、姉としての沽券にかかわるわ。
ただ、このモモの誕生日も厄介な時期にある。それというのも翌週から夏季休業に入ってしまうのだ。そこからは4ターン……じゃなかった4週間にわたって学園はお休み。その間にもリブロ王子とサキの誕生日もある。意外とイベントは目白押しである。まあ、2週間もあれば領地に戻って数日過ごして王都に戻ってくる事は可能といえば可能。そんなわけなので、貴族によってはこの前後に自分の領地に戻って、子どもと一緒に往路か復路かのどちらかを移動する事になるらしい。ホント貴族って大変ね。
私の家も伯爵家なので、当然ながら地方に領地がある。ただ、父親が城で大臣を務めているので、領地は信用できる家の人間に任せているのが現状なのよね。父親が大臣とはいっても、原作ゲーム通りなら領地経営もそう問題はないはず。でも、これは現実だし、私の魔道具のせいで家は思った以上に潤っているのよね。となれば、少しは心配になってきてしまうものなのよ。モモの誕生日をお祝いした足で、すぐにでも戻りましょうかね。瞬間移動魔法があるわけだし。
そんなわけで、私は早速1年目の夏休みの計画を立て始めたのだった。リブロ王子の誕生日もあるから、それをちゃんと考慮に入れるのを忘れないようにしなきゃね。
さてさて、あれから2週間が経ったある日の事、私はなんでかまた城に呼び出されていた。今度は一体何だというのだろうか。こちとら太ってるんで移動するだけでも大変なんですけどぉ?!
私は叫びたい気持ちを抑えて、国王の執務室に向かった。
「ご機嫌麗しゅうございます、国王陛下。アンマリア・ファッティ、招集に応え、馳せ参じました」
私はカーテシーをしながらご丁寧に挨拶をする。ぶっちゃけ内心は苛ついている。だけれどもそれを表に出すわけにはいかないので、とにかく平静を装い続けた。
「すまないな、アンマリア。急に呼び出してしまって」
国王も一応申し訳ない気持ちがあるらしく、あまり気持ちのこもっていない謝罪をしていた。いや、本当に気持ちがまったく感じられないんですけれど!?
「いえ、これくらい国王陛下の臣下として当然でございます」
とにかく突っ込みたい気持ちを抑えて、私は貴族らしく挨拶をする。そんな私を見て、国王は少し考え事をしているようだった。
「いやはや、フィレンの誕生日パーティーでの事はすまなかったな。フィレンからものすごく怒られたぞ」
国王がそんな事を言ってきて、私はやっぱりかという気持ちになった。
実はあの後数日間、いつもの時間よりも遅く城から帰ってきた父親がものすごく疲れた表情をしていたのだ。あれは城勤めの他の人たちからいろいろ聞かれたものだと睨んでいたのだけれど、まあ1週間も経ったあたりからそういう様子が無くなったのだ。おそらくあのタイミングで国王から何かしらのアクションがあったのだろう。うん、判断が遅すぎるわね。
それにしても、どうにも国王の言葉が軽く感じられて仕方がない。あの軽々な発言で私はおろか父親にまで被害を出したのだ。もうちょっと考えられなかったのかと私は心の中で頭を抱えていた。
「怒られて当然です。あの発言で我が家がどれだけ被害を被ったか、陛下もお考え頂けると助かります。少なくとも、お父様に対する状況は確認が取れるはずですから」
さすがに頭に来ていた私は、国王相手にしっかりと言い放ってやった。これぐらい言っても不敬には当たらないわよね?
まあ、国王も反省しているようだし、言いたい事は言ったし、私はとりあえず気持ちの区切りをつける事にした。
「それで、私を城に呼び出した別の理由は何でしょうか」
私がそう尋ねると、国王は面食らったように目を丸くしていた。いや、用件それだけだったんかーい!
「陛下?」
あまりにも拍子抜けをした私は、国王に詰め寄っていく。さすがに13歳の令嬢とはいえども、100kgオーバーの巨体である私が凄めばなかなかに怖いものがある。でも、さすがに国王が青ざめてきちゃったので、私はそれ以上はやめておいた。
「リブロ殿下の経過を観察させて頂きますね。もうそろそろ足の方も感覚がかなり戻っていると思いますし、誕生日までにはその足で立てるようになるかと思いますので」
私はため息を吐いた後に国王にそう告げると、
「ああ、頼むぞ。本当にリブロの件は感謝している。その気持ちだけは嘘ではないからな」
国王が頭を下げてきた。いや、13歳の小娘に頭を下げるとは思わなかった。そのくらいにリブロ王子の件では本当に心を痛めていたという事なのだろう。
私は国王のその気持ちを汲み取ると、一礼をしてそのまま部屋を出ていった。




