第114話 エスカも転生者だって改めて認識する
その日の夜、エスカが家に戻ってくるなり、私に対して詰め寄ってきた。
「どどど、どういう事なのよ、説明してちょうだいよ、アンマリア!」
「どうどう、落ち着いてちょうだい、エスカ王女殿下……」
家族の前なので、とりあえずちゃんと敬称を付けて呼ぶ私。だけれども、エスカは完全に冷静さを失っていた。この分だと、城に居る間はずっとやきもきしていたのだろうと推測される。なにせ、私の胸倉を掴んで前後に揺さぶってきてるんですもの。本当に落ち着きがなくなって混乱しているわね。というか、そろそろ揺さぶるのやめてくれないかしら、吐きそうになるわ。
「え、エスカ王女殿下。もうやめて頂けませんか。お姉様の顔色が悪くなっています!」
エスカが止まらないので、モモが止めに入ったわ。さすが私の妹、よく見ているわ。
モモが必死にお願いしているので、それでようやくエスカの手が止まったわ。私は正直言って気持ち悪い。
「ごめんなさい、ちょっと席を外すわ」
私は必死に吐き気を堪えながらよろよろとスーラに支えられてその場を離れた。
さて、私が居ない間はどうなるのやらね。
どうにか酔いが治まった私は、自室のベッドで横になっていた。さすがに結構吐いちゃったし、そのせいでせっかくの気分は台無しになってしまったので、半ばふて腐れているのよ。さすがにエスカはお説教ね。
そうやってごろごろとしていると、部屋の扉がコンコンと叩かれた。
「誰かしら?」
私が呼び掛けると、
「エスカです。先程は失礼致しました」
扉の外からはそのように返事があった。
「どうぞ、お入りになって下さい」
お説教する気満々の私は、冷静を装って声を掛ける。すると、ゆっくりと扉が開いてエスカが入ってきた。だけども、次の瞬間、またエスカは私の度肝を抜いてくれた。
「本っ当に、申し訳ありませんでした!」
まさかのスライディング土下座である。
最初の一瞬こそ呆気に取られたものの、そんな風に謝るなら最初からして欲しくなかったわね。それが私の率直な感想である。
「はあ……、そこまでされたら怒る気が失せたわ。そこの椅子に腰かけてちょうだい、エスカ」
私は額に手を当てながらため息を吐くと、エスカにそのように声を掛けた。伯爵令嬢と王女だからエスカの方が身分は上だけれども、この場では対等な関係なので、私は命令的な口調でエスカに伝えたのだ。エスカはそれに従って、おとなしく椅子に腰掛けていた。
「リブロ王子って、大変な事になっていたのね」
「ええ。よく無事だったと思わうわよ。廃人寸前で死んでてもおかしくなかったわ」
エスカの問い掛けに、私はすっぱりと言い切った。エスカは肩をすくめて唇を噛みしめていた。
「でも、どうしてそんな事に……」
「事情はよく分からないわ。でも、間違いないのはあの城の中にリブロ殿下を追い詰めた奴が居るって事ね。引きこもりから魔力循環不全だから、相当な精神的負担を強いられていたんだわ」
私は推測ながらにも、リブロ王子の身に起きた事を話している。
「アンマリア、本当によく救えたわね……」
「ほとんど賭けだったわよ。昔読んだ小説か何かだったかで見た、魔力循環を感じさせるための方法が役に立ったわ」
「そう、なんだ……」
私がその時を振り返って話すと、エスカは下を向いてしまった。
「治癒魔法で一気に治す事もできただろうけれど、滞っていた魔力の流れを一気に開放すると、それはそれでどんな副作用が出るか分からないものね。だから、無理やり魔力を流して少しずつ循環を開通させる方法を取らせてもらったわ」
私がここまで話すと、エスカは黙り込んだままで会話が途切れてしまった。これがどういう反応か分からない私は、同じように黙り込んでしまった。
しばらく沈黙が続いたのだったが、それを破ったのはエスカだった。
「それにしても、あの車椅子ってすごいわね」
話題を変えるためにエスカが持ち出したのは、リブロ王子が使っている車椅子だった。しばらくは体が不自由なリブロ王子のために、私が前世の記憶を一生懸命引っ張り出しながら作り出した、ちょっと大型の魔道具である。確かに、そういうものだと納得すればそういうものだと思い込めるが、なまじ魔道具に精通しているエスカだからこそ、興味津々に話してこれるのだろう。
それに対しての私も、この車椅子の技術を隠すつもりはなかった。魔石に覚え込ませたのは風の魔法のみ。それでもかなり複雑なので、エスカに再現は到底不可能だと踏んだからだ。
「うん、それは無理!」
エスカもこう言い切っていた。スマホもどきに使った魔法は闇属性らしく、エスカは闇と水の2つに適性を持っているようだった。水属性を持っているとは、さすがはミール王国のお姫様ね。ただ、エスカが闇属性を持っている事はトップシークレット。対外的には水属性のみの公表をしているそうだ。まあ、闇属性っていいイメージをほぼ持たないものね。仕方ない。
とまあいろいろあったものの、スーラが声を掛けに来るまでの間、私たちはなんだかんだと魔道具を中心として話が盛り上がっていたのだった。




