第111話 さあ、始まるわ
煌びやかな内装にこれでもかと並ぶ豪華な料理。転生を理解してから何度目の王宮でのパーティーだろうか。だけれども、今回のパーティーはフィレン王子の誕生日パーティーだ。それゆえに、いつものただの集まりとは雰囲気が違う。
さすがに王子たちの婚約者が正式決定している現在では、玉の輿をなんていう令嬢はほとんど居ない。私とサキの実力は社交界に結構広まっているのだ。令嬢としての作法などにも問題はない。ただ、私は太っている、サキは男爵家というつけ入る隙はあるのだが、それでもほとんどの令嬢は諦めていた。まあ、無駄な争いがないのは平和で助かるものだ。
さて、そんな空気の中、私もパーティー会場に顔を出している。父親は大臣としての仕事があるのでやむなく欠席。私の家族は母親とモモの三人で会場に出ていた。|王子の誕生日パーティー《こんな時》なんだから、仕事放っておいても問題ないでしょうに、本当に父親は律儀なんだから。
さて、乙女ゲーム『アンマリアの恋愛ダイエット大作戦』でも、この誕生日パーティーはいろいろイベントが起きていた。フィレン王子は3回、リブロ王子は2回あるんだけど、リブロ王子の誕生日は夏休みのターンだから、選択肢によっては完全スルーなのよね。そもそも登場してなければ出てきやしない。それにパーティーに出ても好感度が上がるとは限らないしね。さすが隠しキャラだわ。
フィレン王子の1回目はほぼ消化イベント。ゲームの時だと遠目に眺めて終わりなんだけど、選択肢次第じゃ一応スチル回収ができるのよ。
ひとつは、会場の空気に馴染めずに外に行こうとして、そこでモブ令息にぶつかって飛んでいったハンカチが木の枝に引っ掛かるのよね。それをなぜか体を張って自分で取ろうとして、そのまま転落。そして、なぜかそこに居たタンの上に落っこちるというもの。いやよく生きてたわね、タン。
もうひとつは、ダンスをしようとしてホールで立っていると、カービルに声を掛けられて一緒に踊るっていう奴。彼はデブ専ですものね。まあ、結果としてはゲームのアンマリアは足を踏みまくっていたんだけど、彼は笑顔でいたわね。いやこっちもこっちで「あんた、足大丈夫?」な事案だったわけなんだけどもさ……。
この時のターンでは最軽量でも100kgを超えている巨体だもの。タンは筋肉があるとはいっても、2階か3階から落っこちてきた巨体を受け止められるわけがないし、いくら靴が踵の低いものとはいってもその体重で踏まれた足が無事なわけがない。まったくゲームってのは都合よくできているわね。
ちなみに今の私の体重は109kg。少し痩せたわよ。
それはいいとして、今の私はライバル令嬢たちと話をしているわ。モモは義妹だから当然として、ラム、サクラ、サキの三人は気が付いたら私のところに来ていた。この辺りの関係性もすっかりゲームとは乖離していて、ラムとサクラが結構仲がいい。ゲームでは太った令嬢と脳筋令嬢だからすこぶる相性は悪かったんだけど、今の二人の仲はとても良好よ。
サクラの教えた運動でラムはものすごく痩せて、それは公爵令嬢たる気品を備えた目のくらむような立派な美少女になっている。多分、エスカが見たら……って、もう学園で見てるわね。紹介もしてあげたもの。しばらくとんでもない叫び声を上げてたっけかな。失礼だと思わないのかしらね。
ラムとサクラが仲良くなった事で、北西のバッサーシ辺境伯領の状況も好転している。やっぱりバッサーシ辺境伯領産の馬の価値が認められたのかしらね。ラムも馬術を習っているみたいだし、その乗っている馬はバッサーシ辺境伯領産の馬らしいし。
「お姉様?」
「うん、どうしたの、モモ」
いろいろ考え事をしていると、モモから声を掛けられる。
「先程から何やら考え事をされているみたいですけれど、ちょっと心配になってしまいます」
「ああ、ごめんなさい。殿下にどのタイミングで贈り物を差し上げようかと考えていましてね。婚約者たる私とサキだけの特権ですもの。つい、考えてしまいますわ」
ほとんど嘘だけれども、やっぱりプレゼントのタイミングというのは大事だものね。
一応、フィレン王子が出てきて挨拶をした後、婚約者、つまり私たちと踊るタイミングがある。そこで渡すのがいいのだけれど、要は踊る前か踊った後か、どちらがいいのかという話である。まあ、私とサキの交代するタイミングがちょうど良さそうだとは思うんだけどね。ちなみにどちらが王子と先に踊るかというのは聞かされていない。つまりは国王たち次第という事だ。
ま、どっちでもいいかと思った私は、とりあえずサキに声を掛けておく。すると、サキはそれを快く了承してくれた。
歓談が交わされている中、突如として音楽が止まる。
さて、いよいよゲーム本編1回目のフィレン王子の誕生日パーティーが始まるわ。ゲームでは特に事件も何も起きないけれど、ここは現実。イレギュラーな事は起こりうるものね。
私が警戒に表情を引き締める中、会場のバルコニーに王族たちが姿を現したのだった。




