第100話 魔法を使いこなそう(前編)
魔法学の実技演習は、専用の場所で行われる。なんでも不思議な結界で囲まれていて、その中に居れば怪我をしても一瞬で治るし、致死量の怪我をしても無傷になる。施設の破損も時間はかかるものの完全に修復してしまうという、相変わらずの謎仕様を引っ提げていた。こういう異世界ものだとよく見る設定だけど、改めて自分の目で見てみると訳が分からないものだわね。まあ、地球に居た時にもオーパーツなんていう妙ちくりんなものは存在していたんだし、そういう物が一つや二つあっても不思議じゃないわよね。私は無理やり納得していた。
いつもは座学で習っていた事を初めて実践に移すという事で、多くの学生たちが緊張している様子だ。はっきり言って、緊張していないのは私とラムぐらいなものよ。あれだけストーブで魔法を使いまくっていたモモですら緊張している。まあ、これだけの人数の中で実演するのだから、おそらくモモの緊張は人に慣れてないだけだろう。落ち着いていたら、火の魔法に関しては間違いなくトップクラスなんだからね。義理とはいえど姉の私が言うんだもの、間違いないわ。
「よし、とりあえず全員集合だ」
教師がパンパンと手を叩いて学生たちを集める。
「今日から魔法学の実技の授業を始める。座学で学んできた事を実際の行動に移すのだが、最初は難しいだろう。アンマリア・ファッティ、ちょっと見本を見せてやってくれ」
「はい、分かりました」
教師からご指名を受けた私は、分かりやすいように右手を前に差し出す。その様子に、学生たちはざわざわとしている。何かしらの魔法制御のための道具を持つ中、私は何も持ってないものね。驚くのも無理はないわ。
「先生、ご希望の魔法はございますでしょうか」
「うんー? そうだな。みんなが分かりやすい魔法を使ってくれ」
「分かりました」
ものすごく曖昧な答えを返されたけれど、分かりやすいとなると火か土といったところだろう。となると、見た目も派手な火魔法の方がいいかも知れない。私はその右手に魔力を集中させる。
「さあ、しっかりと刮目なさいな」
私は右手の指先に火を灯す。これだけで歓声が上がっている。ただ、一本じゃ面白くないかなと私は少し調子に乗ってみた。
右手を開き、その指先すべてに今灯したものと同じ火の魔法を発現させる。そして、その5つの火の玉を、目の前に見える的に向けて放った。
的に当たった火の玉は、激しく燃え上がっている。さすがに5つ分の威力が合わさるとシャレにならない威力となった。それを見た私は、思いっきり虚無となったのだった。
(やっば、やりすぎたああああっ!!)
というわけで、慌てた私は同等の威力になるように水の魔法を使い、的の上空から水の玉をぶつけて火を消し去ったのだった。
ゆっくりと振り返った私の目には、黙り込んでしまっている教師と学生たちの姿が飛び込んできた。目を輝かせているのなんてモモとサキくらいなものである。はい、完全にやり過ぎました。
「う、うん、制御は完璧だね。まあ、みんなもあそこまでとは言わないけれど、立派に魔法を使いこなせるようになってくれ」
教師はどうにか正気に戻って学生たちに声を掛けていた。だけれども、その声は間違いなく戸惑っている。はい、すべては私のせいですよ。
この後は数人ずつに分かれての演習である。的の数はたくさんあるので、全員で一人一つ使っても余るくらいだ。
ちなみに私が班を組んだのはライバル令嬢たちで、ラム、サキ、モモの三人である。とにかく私は、ライバル令嬢たちとのトラブルの芽はさっさと摘み取っておきたいのである。だからこその、この人員なのである。
「まず、魔法を使う前に体内の魔力循環を把握しておきましょう」
「魔力循環?」
私の言葉に首を傾げたのはラムだった。サキとモモはしっかりと教え込んでいたが、ラムだけは知らなかったのだ。
「魔力循環とは体の中を巡る魔力の流れです。それを知る事によって、スムーズに魔力を放出できるようになるんです」
「あら、そうなのですわね」
ラムが可愛く首を傾げる。ゲームと違ってものすごく痩せているから、その仕草が可愛すぎる。いや、太っていても私と違って可愛いんですけれどね、ラム様は。
「ラム様、失礼致します」
私はラムの手を握る。そして、私から魔力を流して、ラムにその流れを感じさせる。
「ラム様、分かりますでしょうか。体の中をぐるぐると巡る魔力の流れ、それが魔力循環なのです」
「これが、そうなのですか」
ラムの表情が驚きに満ちている。
「そして、魔法を使う上でもう一つ重要なのが、想像力です。魔法をどのように使ってどうしたいのか、これをはっきりさせる事で、循環から魔力を引き出して魔法を使う事ができるのです」
「なるほど、だから魔力循環を感じ取れる事が必要というわけなのですね」
「その通りです」
さすがはできる公爵令嬢。私の説明を一発で理解してくれた。実は、これができてしまうと、魔法を制御するための道具が不要になってしまう。むしろ、暴走を抑えるために道具が必要になってくるのだ。
「では、モモ。実演を見せてあげて下さいな」
「分かりましたわ、お姉様」
モモが的に向かって立つ。的から立ち位置まではおおよそ10mだ。
果たしてモモはちゃんと魔法を制御して、的に魔法をぶつけられるのか。ドキドキの一瞬を迎えるのだった。




