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月子の場合  作者: ヒスイ
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岡慶太の場合・終

最初に檻の中に入ってきた女はナイフを握りしめていた。


「あんたのせいで知らない国で色んな男に犯された、絶対に許さない。」


迷わず俺の太ももにナイフを突き刺す。

刃が肉をかき分け、深く抉る痛みが全身を駆け巡る。

盛られた毒のせいなのだろう、悲鳴も出ない。


次に来た女はのこぎりで俺の腕をゆっくり引き裂く。

じっくり時間をかけて肉を切られる痛みに気を失いそうになったが次に来た女が俺の首筋に当てたスタンガンの電流で強制的に覚醒させられた。

何人かの女は共謀して俺の指の爪をペンチで剥がし、別の女が睾丸を踏みつぶし、さらに別の女が尿道に鉄の棒を射しこんだり、俺は数時間でこの世の様々な苦痛を味わうことになった。

気を失いそうになるたび冷水やスタンガンで意識を引き戻されるため苦痛は続く。


「先輩、気に入ってもらえました?みんなからのおもてなし。」


天野月子が入ってきてしゃがみ込んで俺の顔を覗き込む。

少女のような顔なのに狂気に塗れているそれは俺が見た人間の中で最も常軌を逸していた。

コイツは壊れている。いや、壊したのは俺たちか。


「質問に答えてくれたら私のおもてなしは軽くしてあげる。最初の質問、天野家に直接火を点けたのはあなた?首を振って答えて。」


天野月子の声のトーンが低くなりドスを帯びる。

俺は必死で首を横に増る。火を点けたのは三田だ。俺がガソリンを撒いて、三田が火を放ったのだ。


「そっかあ。じゃあ誰だろ。尾形?三田?大西?中野?松井?」


三田のところで何とか首を縦に振る。

月子はそれを見てさらに笑みを歪める。


「三田かあ…。あの女どうやって殺してやろうかな。」


人を殺すことをこんなにも楽しそうに考えるなんて、天野月子はやはり狂っている。

溢れ出る狂気と先ほどから手に持つ銃、もし身体の自由がきいたとしてもコイツの前で俺が抵抗できたのかは今になって疑問となった。

この世界に足を突っ込んでからヤクザやマフィア、薬でおかしくなった連中、様々な人種を見てきたが目の前にいる少女の姿をしたそれは明らかに別の生き物に見えた。

狂っているが中途半端に狂っているわけではない。俺たちの復讐のために心を捨てたのか、それとも狂っているのが正常になってしまったのか。

ただ一つ正解を言えるとすれば、この化け物を生み出してしまったのは間違いなくあの日の俺たちだということ。

その事実に心底後悔していると天野月子の目がぎょろりと俺を見る。


「ああ、ごめんなさい。先輩を前に別の獲物のことを考えるなんて失礼でしたよね。さて私のおもてなしは先輩が素直に白状してくれたので軽くしてあげます。」


天野月子は腰に提げたポーチから長い針のようなものを取り出す。


「右眼、左眼、どっちがいいですか?」


針先が両方の眼球すれすれを行ったり来たりする。

こんなもの選べるはずがない。


「はあ、仕方ありませんね。右眼でいきましょう。」


ずぶり。


針が迷いなくまっすぐに俺の眼球を貫く。

味わったことのない苦痛に涙なのか血なのかわからない液体が目から溢れ、失禁する。

だがこれで終わる。どうせ最後は後ろで見ているヤクザに殺されるのだろうがこの地獄よりはずっとマシだ。


「はーい、次は左眼ですよー。」


は?今コイツなんて?


「うん?不思議そうな顔してますね。姉を自殺に追い込み、私の家族を焼き殺したんですから全員分のおもてなし、ですよ?」


そう言って笑いかける天野月子の表情は純粋無垢な子どもがおもちゃで遊ぶような愛らしささえ感じさせるものだった。


「左眼に針を突き刺して、両方の鼻の穴に熱湯を流し込んで、最後は舌をハサミでちょん切るんです。まだまだ楽しんでくださいね?ゲス野郎。」


俺の地獄はまだまだ続く。



全てが終わり意識を失った俺が次に目覚めたのはテレビドラマでよく見かける手術室で手術台に乗せられている状態だった。

相変わらず身体は動かせないのに感覚だけはある奇妙な状態。

まばゆい明かりに照らされ、目がチカチカしていると扉が開き術衣を着た数人の男たちが入って来る。


「おお、目が覚めたか。君には今から人類の進歩のためのお手伝いをしてもらう。これはとても貴重で名誉なことだから誇りに思うといい。」


その中で一番偉そうなジジイが偉そうに、嬉しそうに話す。

何を言っている?人類の進歩?


「まずは四肢を切断。次に切断面から炭疽菌、エボラウイルス、狂犬病ウイルス、劇症型溶結性レンサ球菌を投与。頭蓋骨は切開して脳を直接弄り回そうか。」


ジジイの言葉に従い、術衣の男たちは物品を用意していく。

この世の地獄には続きがあったらしい。

人を弄び、焼き殺し、売りさばいた罪はまだまだ許されそうになかった。

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