山田陸人の場合②
ラブホテルなんて来るのは初めてだったがなんとか室内までたどり着く。
彼女は部屋に入るまで終始僕の手を握っていた。
部屋に入ると彼女が先にシャワーを浴びに行く。
そういう施設らしく、浴室が薄いスモークの貼ったガラス張りで天野さんの肌色の曲線美が艶めかしく映っている。
しばらくすると彼女が浴室からバスローブだけを羽織って出てくる。
「次、山田君の番だよ。」
まだまだその姿を見たいという欲求をなんとか押し殺して浴室へ入る。
さっきまで彼女がいた温もりと香りが湿気となって僕を覆う。僕は念入りに身体を清める。今後も彼女と関係を持ちたいのでここで嫌われるわけにはいかないのだ。
バスローブを羽織り、浴室から出ると天野さんはベッドに横たわりスマホを眺めていたが僕に気づくとすぐにスマホを枕元に置き微笑む。
ここで縛の我慢は限界だった。寝転んでいる彼女に覆いかぶさりキスをする。必死に舌を彼女の口腔内に入れるとふんわりアルコールの味がする。
「天野さん、あの時は本当にごめん。僕、あれからも君のことが忘れられなくて…。」
「月子でいいよ。大丈夫、全部なかったことになるから。」
彼女はそう言って僕を抱きしめる。
この瞬間僕の罪が洗い流された気がした。
心が軽くなった僕は更に彼女を求める。バスローブを剥ぎ取り、あの頃と変わらないまるで純真無垢なその裸体に釘付けになる。
「恥ずかしいよ、山田君。」
彼女の羞恥の言葉がさらに興奮を掻き立てる。
「綺麗だよ、月子。」
僕は欲望の赴くままに彼女の体を貪る。
何も分からなかったあの時とは違う感覚に心の底から高揚感と満足感で満たされる。
彼女はすっと起き上がり、僕を押し倒す。
「今度は私の番。食べちゃってもいい?」
月子は僕の下半身を見て呟く。僕は黙ってうなずく。
その瞬間、彼女の顔が歪に歪んだ気がしたが下半身に押し寄せる快楽の前ではどうでもよかった。
淫靡な音とともに段々と絶頂に向かっていく。そして絶頂を迎える瞬間
ぶちり
まるで分厚い骨付き肉を嚙み千切る音が聞こえ、下半身に激痛が走る。
僕は絶叫せずにはいられなかった。何が起こっているのか分からないが陰部に焼けた鉄の棒を押し付けられたように熱く鋭く、そして鈍い痛みが走り回る。痛みで叫びと涙が止まらない。
「天野君、ご馳走様。とっても不味かったよ。」
彼女の口は血に塗れており手には僕の陰茎が血を滴らせた状態で握られている。
まさか月子は僕のを嚙み千切ったのか?
ゆっくりと笑顔で近づいてくる彼女が拳を振り上げる。
その拳が何度僕の顔面を殴りつけた頃だろうか、薄れていく意識の中で彼女は呟いた。
「せっかく食べていいか聞いてあげたのに。」
目が覚めると真っ白なタイルで覆われた天井が視界に映る。
気絶前の光景を思い出し逃げ出そうとするも手足が拘束されていて動けない。
周囲を確認すると自分は全裸で手術台のようなものに拘束されており、月子に食い千切られた股間には多量の出血痕があるがなぜか止血しており痛みもない。
部屋の壁には棚が並べられており薬品のような液体や刃物や鈍器を収納している棚など所狭しと不吉を発する物品が鎮座している。
天井には監視カメラが何台かと眩しいほどの照明。部屋の片隅には場違いなほど豪華な革張りのソファーとワインセラーがある。
不意に自動ドアが開く。
「山田君、おはよう。目覚めはどう?麻酔かけてもらったから痛みはないと思うけど大丈夫?」
可愛らしく小首をかしげながら僕の顔を覗き込む月子。
その光も感情もこもっていない瞳に心の底から恐怖する。
「ど、どうしてこんなこと…。これから僕はどうなるんだよ!」
恐怖からか錯乱しているからか大声を張り上げる。
月子は目を細め、口を歪める。
「元気そうでよかった。どうしてこんなことになったんだろうね、自分の心に聞いてみたらどう?私たち姉妹の動画、尾形たちに流したよね?私たちの動画まだ持ってるよね?和解交渉になる前にコピー取ってたんだよね?あなたのおかげで私はとても素敵な売春ライフを送るようになったの。それはそれは素敵でいま思い出しても吐き気と殺意がわくくらいのね。」
僕は悟った、月子はなぜか全てお見通しなのだと。恐らく荷物も全て回収されておりスマホの中身も見られたのだろう。
「でもね、私はあなたたちみたいにクズでバカでゴミでどうしようもない人種と違うから一回だけ救済のチャンスをあげる。私が今から出す料理を残さず吐き出さずに完食出来たら痛い思いをせず楽にして開放してあげる。もし出来なかったら痛い思いをして楽にしてあげる。あ、開放もそのあとしてあげるよ。どうする?」
答えなんか決まっている。ここから出て警察に突き出してやる。
「わかった。どんな料理でも食べきってやるからその料理を出してくれ。」
「ふふ。じゃあどうぞ。」
月子が背後から取り出した皿にはサラミを輪切りにしたような丸い肉が焼かれてソースをかけた一品が乗っていた。どんなゲテモノ料理が出てくるか怖かったが普通の料理じゃないか。
「拘束されて動けないもんね。私が食べさせてあげる、はい、あーん。」
月子が何枚も輪切りにされたそれをフォークで突き刺し僕の口に運ぶ。
迷わずに口に入れて数回咀嚼して飲み込む。少し癖の強い味だが触感は普通の肉と変わらないしソースも独特の味だがスパイスのせいかあまり気にならない。
難なく食べきり、月子を見上げる。
「た、食べたよ。これで解放してくれるだろ?」
「うん。お疲れ様。どうだった?自分の陰部の味は。ソースもあなたの血を使って作ってもらったんだよ。」
は?いまなんて言った?自分の陰部を自分の血のソースで?
一気に嘔吐感が押し寄せ、我慢できずに吐いてしまった。
「あーあ、吐いちゃった。残念。」
とても嬉しそうに微笑む彼女。
吐しゃ物の中に自分の一部だったものが混じっており、さらに吐いてしまう。
これから待ち受ける自分の運命が何より怖かった。




