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月子の場合  作者: ヒスイ
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月子の場合①

初めての処刑から四年が経った。


私は大学を卒業し、表向きは春が経営する会社の社員として就職した。

出勤なんてしたこともなく私は春からもらった情報を元にターゲットたちの監視や今後の計画を練っている。

生活費は全て春が出してくれており、おかげさまで売春時代に稼いだお金は学費と家賃の支払い程度にしか使わなかった。

アキラの面会には毎月欠かさず行っている。彼女はまだ目を覚まさない。当時の美しさを残したまま眠り続ける彼女は童話に出てくるお姫様のよう。

病院に行った帰りは必ず祖母と佐々木さんに会い、一泊してから都内に戻ってくるのがルーティンだ。

東風会との関係性も続いており彼らの催し事がある際は必ず呼んでもらっている。会長も武蔵さんも変わらずお元気そうで本家に顔を出すと世間話に花を咲かせるくらいの仲になれた。


四年間という空白期間を作ったのは大学を卒業するため、というのが主な目的だ。私も彼らも。

二十代という人生で一番華やかな時期に私が彼らに終止符を打つためじっと我慢した。

大手の会社に就職した者もいれば、結婚を控えている者、警察官になった者、変わらず女性を食い物にしている者、様々な人生を送っている。

彼らの最も幸せなタイミング、もしくは最悪なタイミングで私が処刑する。

その為に人体の構造や薬学、拷問の知識などを学んだ。我慢の期間であると同時にそれ以上の実りある期間でもあったのだ。


そういえば、春との関係性も変化した。

あれは大学三年の秋だったか、彼女が急に私の部屋に来て、私をベッドに押し倒したのだ。

私の唇を強引に奪いながら愛の告白をこれでもかとしてくれた。この頃には信頼し合えるパートナー的存在と私は認識していたが彼女はそれよりずっと私を深く愛してくれていたらしい。アキラのことも気にしていたそうだがそれでも感情が抑えられなかったと言った春を見てかなり驚いた。

彼女が損得勘定抜きで人に好意を持つなんてあり得ないと思っていたからだ。

私は勇気を出してくれた彼女を抱きしめ、心の中にはアキラがいることを伝えるも、「それでもいい、月子の傍にいさせてほしい。愛させてほしい、できるなら愛してほしい。」と涙ながらに訴えられる。

アキラには少しの罪悪感があったが、目の前で泣いてまで気持ちを伝えてくれた彼女の気持ちに応えるのが私のできる精一杯のことだと思い、彼女の気持ちに応えた。

それからというもの、私は彼女の求めにはできる限り応じるようにしている。復讐も処刑も彼女無しでは成し遂げれないことばかりだし、その恩を私なりに返したいと思っているのと、私も少なからず春に性愛を感じているからだ。アキラが起きたら三人で今後のことを話し合って仲良く暮らせたら、なんて都合よく思っている私の頭はお花畑なのだろうか。


変わらないものもある。

まずは私の家だ。アキラと選んだコンクリートむき出しのアパートに今も住んでいる。といっても週の半分は春の家に作られた私の部屋で過ごしているのだが、どうしても一人で過ごしたいときを含めて週のもう半分は帰って来るようにしている。

そしてもう一つ。私の体型と服のセンスだ。身長は百五十センチで止まってしまい、そのほかの部位の発育もさっぱりである。髪型も一切変えないため春からは中学生みたいとよくからかわれる。

ちなみに夜間に出歩いているとよく職務質問もされる。春から貰った免許証(お金の力で強引に発行してもらったため私は教習所すら行っていない)があるのだが護身用の拳銃を持ち歩いているため基本的に春お抱えの弁護士を呼ぶことにしている。

あとは服のセンス。黒のワンピースがどうしても気に入ってしまい手放せず、春からはそれに似合うようなコートや靴などを定期的にプレゼントしてもらっている。これに関しては特に困っていない。


そして今日は春の家の庭で優雅にコーヒーとケーキをいただいている。

コーヒーはバリスタ、ケーキはパティシエを専属で雇っているようでそこら辺のお店でいただくものより何倍もおいしい。

私がそれらに舌鼓を打っていると春がタブレットの画面をこちらに見せる。


「月子、そろそろ計画の再始動に移りたくてうずうずしてるんでしょ?どれからやる?」


画面をスクロールしていく。そして私は決めた。

私と心の尊厳を最初に踏みにじった男、山田陸人。

名前の部分をタップすると詳細な情報が出てくる。


「やっぱり彼ね。今は郊外の会社に勤務して二年目だけど社内ではあまりうまくいっていないみたい。地元からこっちに出てきたはいいけど友人もろくに作れず、毎週末居酒屋で飲むのが楽しみらしいわ。しょうもない男。男女関係についてはあなたが最初で最後の恋人みたいよ。さぞかしあなたのことを今も恋かがれているでしょうね、ああさもしい。」


春の口からすらすらと罵詈雑言が流れる。これは嫉妬も含まれているのだろう。そんな彼女が可愛く思えてしまう。

眉間に皺が寄っているので優しく春の頭を撫でる。深紅の口紅を引いた唇から安堵の吐息が漏れ、表情がどんどん蕩けていく。

春は本当に綺麗な顔をしている。逆三角形の輪郭に大きく鋭い目、唇はぷっくりと膨れており、大きな黒縁眼鏡が良く似合う和風美人さんだ。眼鏡は伊達眼鏡だが最新鋭の技術が搭載されているらしく、簡単な操作で望遠になったりカメラ、録画、録音機能も備えている、らしい。私が使っている素振りを見たことないため半信半疑なのだが春なら本当に思えてしまう。


そんな彼女を撫でながら私は計画を練っていく。

毎週末の居酒屋での一人酒、恋人は私が最初で最後、郊外で一人暮らし…。

面白い計画を思いついた私は色とりどりのケーキの中から輪切りのバナナが乗せられたチョコケーキをフォークで突き刺し、口いっぱいに頬張る。ダークチョコレートが滲みこんだスポンジの表面をミルクチョコレートが覆い、最後に熟しきっていないバナナの絶妙な酸味と歯ごたえが味覚を彩る。


「春、とっても楽しい夜になりそう。」


ケーキをコーヒーで流し込んだ私はゆっくりと計画の説明に入るのだった。

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