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月子の場合  作者: ヒスイ
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日野月子の場合⑳

時刻は深夜一時前。

春と一緒に来たとあるふ頭。

駐車場に到着すると武蔵さんが車を横付けして停め、私と春は武蔵さんの車に乗り換える。

車はコンテナが乱立する中を迷いなく進んで行き、とある倉庫の前に到着した。

既に何台かの車が乱雑に停められており、重たそうな鉄扉からは光が漏れている。


「到着しました。…私も日野さんの動画は拝見しましたので大丈夫かとは思いますが、念のため忠告させていただきます。私たちはもう慣れたものですが少々刺激が強い光景になるかと思います。ご気分が悪くなりましたらすぐに仰ってください。」


本当にこの人はヤクザなのだろうかと思うほど紳士的だが、こういうタイプほど冷徹で感情に委ねることなく組織の運営や汚れ仕事を引き受けれるのかもしれない。

私はゆっくり頷く。


「私はパス。興味がないわけじゃないけど仕事が溜まっててね。武蔵さんもいるし、私のボディーガードもそこら辺にいるだろうから月子の安全は任せました。月子、なにかあったらすぐに車に戻ってきてね。」


春が私の手をギュッと握る。

私もそれを握り返し、大丈夫だよ、と呟いた。


「では、行きましょうか。」


武蔵さんについて車を降り、倉庫の前に立つと扉が開く。

だだっ広い倉庫の中にはいかにもな風貌の男たちと、直立したドラム缶に入れられた男、浴槽に横たわり拘束された女。

男と女はどちらとも服は着ておらず、男は顔に、女は全身に赤黒いアザが多数。男の方もドラム缶で見えていないだけで身体中アザだらけで身動きが取れない状態なのだろう。二人とも意識が朦朧としている。


「女の方はうちの風俗店で働いていた従業員です。男の方はうちの元組員。女が店の金をちょろまかしたり、男がうちの内部情報を関西の組に売ったようでね。見せしめに死体だけ送りつける算段です。」


武蔵さんが丁寧に説明してくれるが私はこの後に起こる光景の方が楽しみで仕方なかった。


「若頭、準備が整いました。」


群れの中から一人の男が武蔵さんの元まで駆け寄り告げる。


「ご苦労さまでした。それではもう一仕事よろしくお願いします。」


「はい!お前ら!まずは蟹風呂だ!」


その号令に従い、クーラーボックスがいくつか運び込まれてくる。

私と武蔵さんが近くまで行き中身を確認すると、そこには拳大から小指大まで様々な蟹がところ狭しと生きたまま詰められて蠢いていた。


「や、やめてくれ!それだけはやめてくれえええ!!!」


意識を取り戻した男が絶叫する。

それを聞いた一人の若い組員が顔を殴りつける。

群れの中でもリーダー格らしき男性がクーラーボックスの蟹たちをドラム缶の中に入れるように指示をする。

投入されていく蟹、ドラム缶の中からはそれらがひしめき合うガサガサギチギチという音が聞こえる。

全ての蟹を入れ終え、ドラム缶に蓋をする。蓋は真ん中に穴が開けられておりちょうど男の顔だけが出る仕組みだった。

しばらくは蟹たちの蠢く音しか聞こえなかったが急に男が喚き始める。

なにが起きているのか武蔵さんに尋ねる。


「蟹って生き物は雑食性でしてね。なんでもハサミで摘まんで食うんですよ。あの男の体には無数の裂傷。腹を空かした蟹たちは柔らかい肉を摘んで食い進めて体の中に入って体の中から人間を食い散らかす。まあ昔からある拷問の一種ですね。次は女の方に行きましょうか。」


叫び続ける男を無視して武蔵さんが女の横たわる浴槽に向かう。浴槽にはちょうど胸の高さまで冷め切った湯が張られており、男の絶叫で意識を取り戻した女が必死に命乞いをしていた。

浴槽の周囲には三個のバケツ。中には小さなドジョウのような魚が大量に泳いでいる。


「この魚はカンディルっていいましてね、アマゾン川に生息する獰猛な肉食魚です。アマゾンの肉食魚といえばピラニアを連想されるかもしれませんが、こいつはピラニアよりもタチが悪い魚で原住民にも恐れられているんですよ。水中のアンモニアに反応して獲物の穴の中に侵入。そこから一気に体内を貪り食う。幸い、女性は男性よりも穴が一個多いもんですから今回はこの方法を採用しました。汚い話ではありますが事前に浴槽の水には組員に放尿してもらっています。それでは皆さんお願いします。」


武蔵さんの号令と共にバケツから大量のカンディルが浴槽に流し込まれる。最初は右往左往していたそれらはアンモニアに反応したのか動きが素早くなり女性の股間をめがけて押し寄せる。

そして絶叫とともに湯舟の水が赤く染まりだした。


それからの光景はとても残虐で悪虐で暴虐でグロテスクだった。

椅子に座って眺めてる私は感動すら覚えた。私の知らない世界にこんなに酷く醜く美しいものがあるなんて。

二人の体は内側から生き物に貪り食われ、体の至る所から流血している。痙攣に合わせて空いた穴から蟹や魚が飛び出してくるのは新しいおもちゃを見ているようで本当に飽きない。

痙攣が止まると体は脱力し目や耳からそれぞれの生き物が放流される。

気付けば私は椅子から立ち上がり感動と歓喜の拍手を送っていた。

組員は私を化け物でも見るような目で見ている。


「日野さん、ご満足いただけましたでしょうか?」


「はい!とっても!」


武蔵さんの問いかけに満面の笑みで答える。


「それはよかった。また機会があればぜひご鑑賞に来てください。それとこの先、私たちのような連中と関わることが増えると思います。柳さんも少し心配されていましたが本名ではなく偽名を名乗ったほうがいいと思います。」


確かにそうか。私の名前を聞いた連中が万が一にでも祖母に迷惑をかけるようなら私は怒りで自分を保てなくなる。

天野も日野も私にとっては大切な苗字だが全てが終わるまで苗字は空に沈めよう。沈めた苗字の代わりに私は夜空に浮かぶ月になる。

太陽の下で歩けない人たちを優しく冷たく照らし、太陽の下で隠された真実を暴き裁きを下す月になる。

私は笑顔で告げる。


「私は月子。」

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