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月子の場合  作者: ヒスイ
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日野月子の場合⑱

鼻歌混じりに私は物品棚を物色する。

背後では痛いだの、助けてだの、苦しいだの、泣き叫ぶ声が聞こえるが私にとっては心地良いBGMだ。

いくつもある鈍器や刃物から私は五寸釘と金槌を選ぶ。

処刑台の横にあるサイドテーブルにそれらを置き、彼に釘と金槌を見せる。


「アキラはあの事件以降、目を覚ますことなく今も病院のベッドにいます。自分で寝返りも打てないんです。まるで今のあなたのようですね。でも私はもっと動けなくしようと思います。少しでもあなたがアキラへの懺悔が芽生えるように心を込めて打ちますね。」


にっこり笑って、まずは右の肘関節にそっと五寸釘を当てる。


「お、おい、やめてくれ、頼むから、やめてくれ!!!」


「嫌です。」


釘の頭を叩けるように正確に、力加減を調整して金槌を打ち込む。

ゴリュッ、という音とともに堅い物体が釘の先端に当たる。骨だろか。私はそれも貫くように次は少し力と勢いを込めて打ち込む。

パキッという感触が釘越しに伝わり骨を貫通したのが分かった。

相変わらず悲鳴が愉快に耳元で聞こえる。


「じゃあ次は左肘。今度はゆっくり打ち込むので少しだけ痛いかもしれませんね。」


反対側に回り、左の肘関節に五寸釘を当てる。

宣言通り、私はコンッ、コンッ、コンッ、と少しずつ五寸釘を関節に食い込ませていく。

釘の先端が肉を抉り続ける感触は今までにない多幸感を私にくれる。

骨に当たったのでそこは勢い良く砕くように、貫くように金槌を振るう。

ちらりと彼の表情を見ると涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりつつも怨嗟を込めた目で私を見つめてくれている。

私はもっと嬉しくなり、彼の関節にたくさん釘を打ち込むことに決めたのだった。


どれだけ時間が経ったのだろう。

まるで昆虫標本のように彼の関節という関節に五寸釘を打ち終えた私は手近にある椅子に腰を下ろす。

叫びすぎて声も枯れかけている彼が呟く。


「殺してくれ、頼む、殺してくれ。」


ここまでしてもアキラへの懺悔がないことに私は落胆する。

出血量から考えても残り数時間の命だ。

ちらっと薬品棚に目を移すと面白いものを見つけてしまう。我ながらセンスがいい。

椅子から立ち上がり、防護服にマスクとゴーグル、そして手袋を装着する。

薬品棚という宝石箱から取り出したとっておきの宝石は、濃硫酸だ。

瓶の蓋を慎重に開封し、ピペットで少量取り出す。


「これ、なあんだ?」


私がピペットに入った液体を彼に見せる。

もうこちらを見る気力もないような遠い目で虚空を見つめている。

可哀そうなので意識を戻してあげることにする。

腹部に刺さったままの包丁を引き抜き、床に投げ捨て、空いた穴に数滴の濃硫酸を落とす。

血液中の水分と濃硫酸が反応し、ジュッという音がして煙が上がる。


「あ、がっ!ああああああああああああああ!!!」


「ほらほら、寝てたらもったいないですよ?」


私はどんどん濃硫酸を腹部の穴に流し込む。

肉が溶け、煙が上がり、奇妙な匂いと絶叫が処刑室に蔓延する。


「次は釘を打ち込んだ場所に垂らしてみましょうね。」


五寸釘に沿って各関節に濃硫酸を垂らしていく。

釘を伝って体内に浸食する酸はさぞかし痛快なものだろう。

おさまっていた絶叫もここにきて盛り上がる。

全ての部位に濃硫酸を流し終えた私は彼の顔を覗き込む。


「これで反省する気になった?」


「もう無理だ、殺してくれ、早く殺してくれ…。」


「はあ。」


私は深い深いため息を吐く。

何度聞いても同じことしか言わない。それならそんな舌いらない。

棚からハサミと鉗子を取り出してきて、彼の舌を鉗子で摘まみ上げる。

そして、できるだけ根元に近い位置にハサミを当てて


ジョキッ


切除した。

最初は絶叫していたが血液で口腔内が満たされ、ごぽごぽと泡が弾けるような音しか聞こえなくなる。

ハサミと鉗子と舌を適当に投げ捨て、私は最後の仕上げにかかる。

白目を向いている目に五寸釘の先端をそっと押し当て金槌で一気に貫く。最初は右眼、次に左眼。まるでゼリーにでも打ち込んでいるのかと思うくらいスムーズに釘が入って少し驚いた。

彼の体は痙攣しており、もう何も聞こえない。

私は額のちょうど真ん中に五寸釘を当てる。


「閻魔様がいるなら私より優しいかもね。」


そう言って今日一番の力を込めて金槌を振り下ろした。

頭蓋骨を打ち抜く感覚がこんなに気持ちいいなんて私は生まれて初めて知ったのだ。

仕上げを終えた私は椅子に座る。

それとほぼ同時に天井に設置されているスピーカーから春の声が発せられる。


『お疲れ様、月子。もう終わりで大丈夫そう?』


「うん、大丈夫だよ。」


私は意味もなくスピーカーに向かって話しかける。

スピーカーの他に監視カメラが取り付けられており、春はそこから見ているのだ。


『オッケー。じゃあ他の皆さんでお片付けお願いしまーす。廃棄場所は事前に伝えている場所で。』


入口に立っていたスーツの三人組がそそくさと死体に群がる。

私は防護服等を脱ぎ捨て処刑室を後にする。

地上へ続く廊下を歩きながらアキラに語り掛ける。


「もう大丈夫だよ。だから目を覚ましたらまた一緒に暮らそうね。」


虚しく廊下に響く声だったが私の心は真冬の澄んだ空のように晴れ渡っていた。

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