尾形達也の場合
告白を断った玲子の後ろ姿を見送りながら尾形の拳に力が込められる。
尾形はこの町の市長の息子であり、成績も優秀、スポーツ万能、クラスメイトに限らず学年中の生徒からの人望も厚く次期生徒会長に名を連ねており、ルックスも美形で女子からの人気が高い。
本人もそれらを自覚しているためプライドの高さと傲慢さを満たすには十分すぎるほどのステータスであった。
天野玲子は大人しい女子ではあったがルックスや発育の良さは校内でもトップクラス。
自分に釣り合う女子だと思ったから尾形は告白した。 他の有象無象と同じで彼女も自分のことを好いてくれているだろう、告白は当然受け入れてくれるだろう、その慢心がプライドと共に一言で崩れ去った。
ベンチに座り込むと、尾形の体の内側から血が沸騰するくらいの熱がこみ上げてくる。
怒り、憎しみが熱源なのは確実だった。
「尾形くん!」
そんな尾形の元に走り寄りながら名前を呼ぶ声が聞こえる。
声の主は見なくても分かる。
同じクラスの三田透子だ。
クラスの中でも目立つタイプの女子であり天野には劣るが華やかなタイプのルックスを持つ女子、自分に好意を寄せているのも知っていた、というかそれが普通だと思っていた。
しかし、尾形は三田のことをそこまで好きではない。
彼女の外見や家柄などで人間を判断する浅ましさを尾形は見抜いていたからだ。
三田は尾形の隣に寄り添うように座る。
「大丈夫?顔色良くないよ?天野さんに何か言われたの?」
心配そうに覗き込む三田の目には弱っている男につけ込む浅はかさが滲み出ていた。
つけ込むくらいなら逆につけ込んで利用してやる、尾形は自分のブライドを踏みにじった玲子に復讐するために目の前の女を利用することにした。
「実は天野さんに告白したけど振られちゃってさ…。三田さん、心配してくれてありがとう。」
尾形は三田の手を握る。
三田は頬を赤らめ、手を握り返す。
「私に何か出来ることある?こんな時に言うのもなんだけど…実は私…尾形くんのことが好きで力になれたらなぁ…なんて…。」
もじもじして話す三田の様子を見て利用が出来ると確信した。
尾形は彼女を抱きしめる。
「じゃあ、今からうちに来て色々と話そうか。今日は時間ある?」
「うん!一回帰ってからすぐ行くね!」
三田は嬉しそうに走り去っていく。
その夜、三田は尾形の家に泊まり一夜を過ごした。
尾形は事の顛末を脚色し、玲子が自分のことを拒絶して罵った上で振ったと伝えた。
三田はベッドで彼の胸に顔を埋めながら、怒りに震えてそれを聞いている。
そして二人は共謀して玲子への復讐を話し合った。
大人へなり切れない思春期の狂気は時に大人よりも醜く残酷なものだった。