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月子の場合  作者: ヒスイ
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日野月子の場合⑨

それから私たちは放課後はなるべく一件だけこなし、遅くならないように二人そろって私の家に帰るようになった。

最初の月末にアキラが祖母へ、お世話になっているからと三万円を渡そうとしたが祖母は頑なに受け取らず


「将来の為に使いなさい。」


と突き返した。

それでも恩返しがしたいアキラは炊事や洗濯を手伝うことが増え、私も合わせて行なうため祖母は楽になったと笑いながら夕食の品数が日に日に増えていった。

佐々木さんも頻繁に訪れては旬の果物や東京にいる息子夫婦から贈られてくる洒落たお菓子を私たちにくれ、夕食を共にした。


休日になると朝から夕方まで二人で出かけ、複数件の相手を済まし家に帰るのがお決まりに。

私が進路の話を何気なくアキラに振ると、月子についていく、とだけ返された。

私は悩んだ末に東京の大学に指定校推薦をいくつも持っている偏差値がそこそこの高校を選択した。

傍から見たら売春ばかりでプラプラしている私たちだが学力はそこそこ優秀だったのだ。

私とアキラは授業を聞けばそれで充分という地頭の良さがあり、同級生たちがこの田舎にある数少ない塾に行く意味が分からなかった。


季節は巡り、受験シーズンになって周囲がピリピリしだしても私たちは変わることなく売春を続け、入試が終わった日もそのままラブホテルに向かっていた。

合格発表も同様。

祖母たちと暮らす家での日常、街中では売春学生として稼ぐ日常に学校行事や入試はほんの些細な行事ごとのようなものでしかなかった。

もちろん結果は合格。その日はお祝いをしてくれるとのことで早々に帰宅した。


帰宅すると町に二件しかないケーキ屋で注文したのであろうケーキがリビングのテーブルの真ん中に鎮座しており周囲にはたくさんのお惣菜が置かれている。

朝から祖母と佐々木さんで用意してくれたそうだ。

乾杯をし、私たちはそれらを次々と平らげていく。

ケーキはここにきて久しぶりの洋菓子の甘さに脳が痺れた。

終始笑いが絶えない食卓はいつも通りだが今日は特にみんなが陽気な気がして楽しかった。


私とアキラは入浴を済ませ、布団の上に転がる。

お互い食べ過ぎたのはわかっていて、同様にお腹を擦っていた。


「ねえ、アキラ見て。妊娠した。」


私はパジャマを捲り上げぽっこりと膨らむお腹を露出する。

アキラもニヤっと笑い、同じくお腹を見せてくれる。


「私も妊娠した。責任取ってよね、月子。」


「アキラこそ責任取ってよ。名前は月明かりちゃんね。」


「まじでネーミングセンスの欠如が…。」


顔を見合わせて笑い、どちらからでもなく手を繋ぐ。

アキラの手は私より少し大きくて細長い指が絡まるから大好きだ。


「東京行ったらさ」


アキラが絡まる指をきゅっと握りしめる。


「月子と一緒に暮らして、一緒に大学に行って、一緒に就職して、一緒に働きまくって、一緒にご飯食べて寝て、一緒におばあちゃんになりたい。」


さっきまで天井を見ていたアキラはいつの間にか私の顔をじっと見つめている。

純粋すぎるプロポーズに私は少し戸惑う。

私が東京に行きたいのは復讐の土台を作るため、そして後々は全員に復讐するためだ。

彼女にはそこまで話していない。それに彼女をそんな血なまぐさいことに巻き込みたくない。

どう返事をしたらいいものか、と思案しているとアキラが私を抱きしめる。


「私に言えないことがあるのは分かってる。私を巻き込まないようにしようとしてくれるのも分かってる。無理に言わなくていい、聞かないから。だけどそれでも私は月子と生きたいんだよ。それくらい月子のことが好きなんだよ。」


ああ、この子は私と同じかそれ以上に勘がいい子なんだ。

きっと私の汚れた願望もお見通しなのだろう、それでも私を愛してくれている。

私も答えなければ。


「アキラには迷惑かけないようにする。だからこれからもずっと一緒にいよう。私もアキラが好きだ。」


「バカ、迷惑かけていいんだよ。」


アキラの唇が私の唇と重なる。

幸せなキスは久しぶりだ。

アキラが唇を離した瞬間、今度は私から唇を重ねる。

そのまま私たちは熱く淫靡に夜へ溶けていった。



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