日野月子の場合⑦
「アキラはさ、やっぱりあそこら辺でやってるの?」
私たちは畳の上に足を放り出して座り、寛いでいた。
アキラもだいぶ緊張が解けているようだ。
「そうだね。私は別に門限があるわけでもないし、オフィス街も近いから相手側もアクセス良くて結構釣れるよ。月子もあっちがメイン?」
「私は〇×駅がメインかなあ。家からそんなに離れてないから門限に合わせやすいんだよね。」
「えー、あそこってボロいラブホ一個だけじゃん。県庁駅なら綺麗なとこいっぱいあるよ。」
「私は別にそこ重要視してないし。恋人とするならそういうホテルが良いのかもしれないけどさ。」
「でもさ、ご飯おいしいところもあるから夕飯もそこで済ませてること結構あるよ。」
およそ普通の女子中学生が話す内容ではないのだが私たちにとって普通の女子中学生が話す内容が非日常であり、私たちが話す内容が私たちの日常なのだ。
「おいしいの?どっかの出前とかレンジでチンするだけのご飯のイメージがあるんだけど。」
「そういうところも多いし、私が好きなところも冷凍食品なんだろうけど結構おいしいよ。パフェとかもあるし月子も今度おねだりしてみたら?月子がパフェ食べてるところとか可愛らしくておじさんウケ良さそうじゃん。」
自分がラブホテルで行為後にのんきにパフェを食べているところを想像して笑ってしまう。そういえばこっちに来てから祖母と一緒なのであまり洋菓子を食べてないな、と思い閃いた。
「おねだりしてまで食べたくないし、食べるならアキラと二人で食べたほうがずっと美味しいと思うよ。」
アキラが露骨に私から目を逸らして窓の外を向く。
夕陽で誤魔化しているつもりなのだろうが耳が赤い。
「お祖母ちゃんと二人だからあんまり洋菓子食べないんだよねえ。アキラと食べたいなあ。」
私が腕を掴んで彼女の肩に頬を寄せる。
「暑いから離れろ!」
強引に離されそうになるが私はしがみつく。アキラの二の腕は肉付きが良く、柔らかく、柔軟剤と彼女の体臭が混ざった甘酸っぱい匂いが私の鼻をくすぐる。
「アキラがいいって言うまで離さん!」
「わかったわかった!今度の休みにでも行くから離せ!」
勝った。私は満足そうな笑みを浮かべてアキラの顔を覗き込む。
私が想像していた倍は真っ赤で少し驚いた。
「なにこの小悪魔。そりゃおじさんたちも釣れるわ。」
「なにこの意外と純情娘。そりゃおじさんたちも釣れるわ。」
アキラの売り言葉を買い取って投げつけた。
彼女は再び窓の外を向く。
「意外と、は余計だし。私、友達あんまりできたことないから慣れてなくてごめん。」
「気にしなくていいよ。私らはもう売春同盟っていう立派な友達じゃん。」
ぷっ、とアキラが吹き出す。一瞬見えた影もどこかに消える。
「ネーミングセンス最悪じゃん。もっと可愛いのがいい。」
「小春組とか?」
「やってることは汚い春で汚春だけどね。」
私たちは笑いあった。親族以外の誰かとこうして笑いあうの久しぶり心地よかった。
アキラもそう思っているのか表情が何倍も柔らかい。
私たちの笑い声は晩夏の蝉の何倍もにぎやかだった。
夕食は佐々木さんも加わりとても賑やかなものになっていた。
アキラについて佐々木さんはまるで昔から知っているかのようにすんなり受け入れている。
最初はおどおどしていたアキラもすぐに慣れて楽しく談笑する。
私が祖母にアキラが卵焼きが好きなことを伝えていたため、祖母と佐々木さんがそれぞれ卵焼きを作ってきて味比べもさせてくれ、アキラは幸せそうに頬張っていた。
食後は二人でお風呂に入る。
アキラは拒否していたが私が無理やり連れ込んだ。
これは私もそうなのだが祖母の家は昔ながらの檜風呂で入った瞬間から木の温もりと天然の良い香りがして驚く。アキラも例に漏れず驚いて喜んでいた。
きょろきょろしているアキラを尻目に私はシャワーで体を清めていた。
「月子の家ってすごいね!」
「私も初めて入ってた時驚いたよ。浸かる前にちゃんと体洗ってよー。」
「わかってるって。」
泡まみれの私からシャワーヘッドを奪い取り、汗を流していく。
鏡越しにアキラの身体を見る。本当に同い年かと思うほどスタイルが違い過ぎる。
これだけ出ているところが出ており、引っ込むところが引っ込んでいるのならお金を払ってでも抱く価値はあると私から見ても思った。
そんなことを考えているとアキラと目が合う。
「目がいやらしいんだけど、本当に中学生女子?」
「泡を流したいから見てただけだし。早くシャワー返せ。」
私がシャワーヘッドを奪い取り、体中の泡を流していく。
「月子ってやっぱちんちくりんだね。」
鼻で笑いながら言うセリフに私はカチンときてアキラの顔面にシャワーを噴射する。
突然の攻撃に驚きながら体勢を立てなしたアキラは冷静に、しかし勝ち誇った顔をしながらシャンプーと洗体を澄ましていく。
一足先に湯舟に浸かる私はあえて気にしないように立ち上る湯気をなんとなく眺めていたがその湯気がかききえアキラが現れる。
「ちょっと横に詰めてくれる?ぺちゃぱいちゃん。」
「贅肉多いと幅取るから大変ね。」
お互いにふんっと鼻を鳴らして湯舟に浸かって笑いあう。
湯面に二人の裸体が揺らぐ。蒸気のせいか、なんのせいか、二人の頬は朱に染まっていた。




