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月子の場合  作者: ヒスイ
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日野月子の場合⑥

翌日の昼休みも宮川明は非常階段に来た。

昨日と同じように私の少し下の団に座って、今日はあんぱんとパックのミルクティーを飲んでいる。

彼女の顔をよく見ると田舎っぽさはあるもののかなりの美形だ。身長も私より高く、制服の上からでも分かるほど発育がいい。確かにこれなら客はつくだろう。


「なに?」


私の視線に気づいた彼女が振り返る。


「ううん。宮川さん、よく見たら綺麗だなと思って。あ、良かったら卵焼きどうぞ。」


「あ、ありがとう。」


頬を少し染めながら卵焼きを頬張った。


「日野さんだって可愛いじゃん。チビでちんちくりんだけど。」


「褒めたのに悪口で返さないでよ。それと月子でいいよ。」


彼女は少し目を見開いてこちらを見た後、


「私もアキラでいいよ。カタカナでアキラね。」


照れ隠しなのか言い終わるとすぐにあんぱんを齧る。


「アキラはさ、なんで売春やってるの?」


「唐突だし直球過ぎるでしょ。月子、デリカシーないってよくいわれない?」


アキラは苦笑いするが嫌がっている様子はなかった。


「んー、簡単に言うと生活費かな。うち、母親が離婚して出て行ってさ。父親と二人暮らしなんだけどコイツも相当クズで、というか離婚の原因もコイツだし。父親が何してるのか知らないけど、たまに帰ってきて一万円だけ置いてすぐに出て行っちゃうんだよね。月に二回帰ってくればいい方かな?一万円なんかご飯もまともに食べれないし、光熱費とか払ったら吹き飛ぶし。だから中学生の私が手っ取り早く稼ぐにはこれしかないかなって。抵抗がないわけじゃないし、嫌な目に遭ったこともあるけど生きてくにはしょうがないよねって感じ。」


最後に乾いた笑いが含まれているが私が想像していたより何十倍も切実な理由だった。

話し終えた彼女はあんぱんの最後の一口を放り込み私の方に身を乗り出してくる。


「で、月子はなんでやってるの?」


どこまで話したらいいものか迷ったが、話したくもない家の事情を赤裸々に話してくれたアキラに嘘はつきたくなかった。

私はここに来るまでの地獄の三年間を少し簡略化して彼女に話した。途中からアキラの顔色が悪くなっていくの感じたがとりあえずは聞いてもらえた。


「ごめん、なんか軽々しく聞いちゃって。」


「アキラが謝ることないよ。最初に聞いたのは私だし。」


大きな丸い目と長いまつげが申し訳なさそうに伏し目がちになる。

冷たく嫌な空気が漂ったため私はアキラに提案してみる。


「ねえ、アキラ。よかったら今日うちに来なよ。」


さっきまで伏し目がちだった目が今度は大きく見開かれてぱちくりしている。


「あ、もしかして会う予定入れてた?」


「いや、今日はないし大丈夫だけど、本当にいいの?いきなり行って迷惑じゃない?」


「お祖母ちゃんは賑やかなの好きだし嫌がらないと思うよ。家で一人でいるのもいいけどたまにはいいでしょ?色々話したいこともあるし嫌じゃなかったら泊まってもいいよ。」


「え、いやそれはさすがに月子のお祖母ちゃんが迷惑なんじゃ…。」


戸惑い続けるアキラの目の前で私は祖母に電話する。

私が友人を招き、お泊り会をしたいと言ったら祖母は喜んで受け入れてくれた。


「だってさ。」


「だってさ、じゃないよ!私、友達とかできたことないからこんなの初めてだし…。」


「え、私は友達だと思ってたけど。カッターナイフ向け合った時から。」


アキラの目がこれ以上ないほど見開かれた後、盛大なため息を吐いた。


「あんた、ほんと変。」


ああ、人間関係は難しい。私はプチトマトを奥歯で潰しながら酸味を嚙み締めた。



放課後、アキラと二人で教室を出る。

初日から教室内を観察して気付いていたがアキラは腫れもの扱いのようだ。本人は田舎あるあるで家庭環境も自分の行いも知れ渡っているから誰も声をかけてこないから、だと言う。

なるほど、転校生の私に誰も声をかけてこないのはそのせいかと納得したら


「転校初日に爆弾発言した人と一緒にされたくない。」


と一蹴されてしまった。

まあ、元からクラスメイトと仲良くなるつもりなんてなかったのだが。

腫れ物同士が一緒に歩いている様子はまるで珍獣を見るように注目を集めたが私たちは気にせず校門を出る。

まず向かうのはアキラの家だ。

学校から十分ほど歩き到着したそこはまだ新しい一軒家だ。白で統一された外壁にオレンジ色の屋根が映える二階建て。この辺りにしては珍しい西洋風の家に目を奪われる。


「ちょっと待ってて。」


そういうとアキラは家の中に入っていった。

私は家を眺めながら、アキラの家族にも幸せな時期があったんだろうな、と思いを馳せた。

家の外装は母親の趣味なのだろうか。庭には枯れたチューリップが散見される。

少し待っていと少し大きめの手提げカバンを持ってアキラが出てきた。パジャマや下着の替えだろう。

私は先導して自宅に向かう。道中、アキラは言葉に出さないものの少しわくわくした様子だったがそれを指摘するともう二度と私の前でわくわくしてくれないのではと思いやめた。


十五分ほど歩くと到着した。

私はいつも通り、引き戸を開く。


「ただいまー。」


「お、お邪魔します…。」


パタパタとスリッパの音を立てて祖母が台所から出てくる。


「月子ちゃん、おかえり。アキラちゃんは初めまして、あといらっしゃい。今日と明日はゆっくりしていってね。月子ちゃんの部屋に荷物置いて、二人でゆっくりしてるといいわ。夕食は佐々木さんも来るから騒がしくなるわよ。」


ふふふ、と楽しそうに笑う祖母。この笑顔を見れただけでもアキラを連れてきてよかった。

当のアキラは緊張でがちがちなのだが。

私はそんなアキラを引っ張って自分の部屋へ連れていく。部屋にはアキラ用の布団がもう用意されており祖母の手際の良さに驚いた。


「荷物、テキトーに置いていいよ。」


「うん、ありがとう。」


アキラは通学鞄と手提げカバンを部屋の隅に置く。


「月子のお祖母ちゃん、いい人そうだね。」


「うん。いい人だよ。」


私たちは並んで畳に座る。窓から心地良い風が入って来る。


「明るくて楽しそうで。月子は全然似てない。」


アキラは余計な一言を言う性格だと分かった。

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