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月子の場合  作者: ヒスイ
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日野月子の場合⑤

それからの私は匿名掲示板や出会い系サイトを使って、夏休みの期間中は週二から三のペースで売春を行なった。

当初の予定通り、ターゲットは四十代から五十代に限定し、ゴム無しの五万で自分を売り出す。

これが相場より安いのか年齢とゴム無しという付加価値がそうさせているのかは分からないが客を絶やすことはなかった。

もらった現金は交通費のみ手元に残して自室の押し入れの中に鍵付きの小さな金庫をディスカウントストアで購入しそこに入れていった。

本当はお気に入りの黒いワンピースで出かけたかったがせっかく佐々木さんから大量の洋服をいただいたのでその日の気分に応じて自分なりのコーディネートを楽しんだ。

もちろん、毎回黒のワンピースで駅前からおじさんとホテルに行くような少女がいれば噂になりそうだったので警戒したという面が大きいのだが。

祖母には駅で知り合った友人と遊びに行ってくると嘘をついて外出するのだけ苦しかった。


夏休みも残り数日に差し掛かったある日、祖母と転校先の中学に行き教科書や制服の受け渡しがあった。

その後校舎の案内がありクラス数の少なさや老朽化した校舎をまるで他人事のように眺めている自分がいた。

一応教師陣には私のここに来るまでの出来事は伝わっており配慮はしてくれるとのこと。と言っても具体的なことは言われなかったし自宅近辺や駅までの道のりで同い年くらいの男女に何回も奇異な目で見られているためよそ者が引っ越してきたことは知られているだろうとは思った。しかも親がおらず祖母と二人暮らしなのだから初登校するよりも早く私は何らかの噂になっているのかもしれない。

どうでもいいことなのだが。


家に帰ってから祖母と佐々木さんの前で制服姿を披露した。

祖母はもちろん、佐々木さんも自分の孫のことのように喜んでくれて少し照れくさかった。

その日の夕食には佐々木さんも加わりいつもより豪華なものだった。


登校初日、始業式が終わるまで別室で待機し終わった後に生徒が教室に戻ってから私は担任の指示に従い教室に入った。

教室内の生徒たちはまるで奇異な生物を見るような眼差しで私を射抜く。


「日野月子です。よろしくお願いします。」


ぺこりと頭を下げたあと、まばらな拍手が起き私は指定された席に座りホームルームが終わった。

休憩時間には恒例の転校生を取り囲む時間になったがみんなの興味はなぜ私に両親がいないかだった。

それを遠回しに聞いてこられることに業を煮やした私は簡潔に


「前の家が火事になって、家族全員死んじゃった。私はお祖母ちゃんに拾われてこの町に引っ越してきた。」


と答えたら教室は恐ろしく静まり返った。

私を取り囲んでいた輩は気まずそうな笑みを浮かべながら自分たちの席に戻っていく。

そんな中、私のことを見つめる視線を感じ、その元を辿っていくと


「あっ」


と無意識に声が出た。

長い黒髪に猫のような丸くて大きい瞳。

県庁最寄りの駅、繁華街の路地裏で見かけた女子生徒が教室の端から私を観察していた。

私が軽く会釈すると彼女はぷいっと窓の方を向いてしまう。あんな現場を見られたのだ。当然私には関わってほしくないのだろう。

私も見なかったことにして次の授業の準備に取り掛かった。


昼休み。

以前の中学とは違い、ここではお弁当となる。

私は祖母に作ってもらったお弁当を片手に教室を出て人気の少ない場所を探した。

入学前の案内で目星を付けていた校舎の隅にある非常階段は私の想定通り人の気配がなく日当たりも悪いため快適な昼休みを送れそうだ。

ランチョンマットを膝の上に敷き、その上にお弁当を乗せて食べ始めようとした時、校舎と非常階段を繋ぐドアがゆっくり開かれて予想外の人物が顔を出した。

さっき私から目を逸らした子だ。私を見つけるなり非常階段を下りてきて私の後ろに立つ。


「日野さんだっけ?」


凛としたその声に私は祖母手作りの卵焼きを頬張りながら答える。


「うん。日野月子。久しぶりだね。」


さらに階段を下りてきて私の目の前に立つ。

大きな丸い瞳が私を睨んでいる。


「やっぱあの時の子か…。学校にも他の子にも言わないでほしいんだけど。」


彼女はポケットからカッターナイフを取り出して私に向ける。


「あ、お揃いだね。」


私は箸を置き、ポケットからカッターナイフを取り出し彼女に向ける。

大きな目をさらに見開き私を見つめる。眼球が零れ落ちないか不安になるほどだ。


「なんなのあんた。」


「一緒だよ。私も売春やってるし。護身用にいつも持ち歩いてるんだ。あの、お弁当食べていい?お腹空いてるし、お祖母ちゃんのご飯好きだから。」


彼女は困惑しながらカッターナイフをポケットにしまって、私の数段下の段に腰を下ろす。


「なんなのあんた、訳わかんない。とりあえずさ」


「言わないよ、売春のことなんて。理由あるんだろうし。それよりお弁当ないの?」


彼女の言葉を遮り、彼女を安心させ、彼女を心配する。

我ながら妙な話の繋げ方だと心の中で笑った。


「ありがとう。お弁当、今日は寝坊して買い忘れちゃって…。」


「じゃあ、はいどうぞ。」


私は祖母特性の卵焼きを一切れ箸で摘み、彼女の顔の前に差し出す。

鳩が豆鉄砲をくらったときの顔なんて見たことないがこういう顔なんだろうなと思った。


「卵焼き嫌い?お祖母ちゃんのはあまじょっぱくて美味しいよ?」


「卵焼きは、好き。…いただきます。」


パクリと一口で頬張り、彼女は目を輝かせた。


「ね、おいしいでしょ?よかったらおにぎりもどうぞ。」


三個あるうちの一個を彼女に渡し受け取ってくれる。


「ありがとう…。私、宮川明。よろしく。」


これが私とアキラの出会いだった。

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