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月子の場合  作者: ヒスイ
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日野月子の場合④

翌日、朝食を食べてから私は祖母に昼食を外で食べることと、夕方に帰って来ることを伝えた上で自転車に跨り駅に向かった。


まず向かったのは県庁の最寄り駅だ。

四十分かけていくと田園風景から一気に都会になった。ちなみに途中から満員電車になった時に私の脇腹からお尻にかけてなぞるように触ってきた馬鹿がいたので腕を掴んで足を思いっきり踏みつけた。男の情けない声を聞くのは爽快だった。

改札を通り抜けるとオフィス街、その反対側には繁華街が広がっている。

オフィス街に向かうサラリーマンたちを横目に繁華街へと歩みを進めた。


朝の繁華街は存外、静かなものだ。

営業しているのは一部のチェーン店のみでカラオケボックスや居酒屋などはまだ閉まっている。

人通りも無いわけではないがみんな暗い顔をしてオフィス街へと向かっている。

しばらく散策してみるも特にめぼしい場所はなく諦めて別の駅に向かおうとした時だった。

視界の片隅に制服姿の女子と中年男性が路地裏に入っていくのが見えた。

私は息をひそめて後を追う。

会話無く歩く二人と絶妙な距離感、そして人目を避けるように大通りから外れていく様子。

私の勘は的中した。路地を抜けたところ、恐らく繁華街から少し外れたところにラブホ街が出てきた。

どこの街でもこういうところにあるのかという発見と記憶のフラッシュバックでめまいがした。

だが、これはいい収穫だ。問題があるとすればやはりここまで来るのに時間がかかりすぎるということくらいか。

ホテルに入る二人を眺めていると一瞬、振り返った女の子と目が合った。

長い黒髪にセーラー服、猫のように丸くて大きい目が私をほんの少し見つめてホテルの中に消えて行った。


私は最寄駅から二十五分のターミナル駅を訪れた。

街の雰囲気としては以前住んでいた街に似ているベッドタウンのような環境。

駅前は綺麗に整理されておりスーパー等の商業施設も一通り揃っている。

さっきの街の要領でにぎやかな場所から少し離れたところを散策する。

駅から歩いて行ける範囲には一件だけひっそりと佇むホテルを発見。十分すぎるくらいだ。

歩き疲れた私は駅前に戻りハンバーガーショップに入る。

暑さと湿気から解放され、寒すぎるくらいに冷房が効いた店内はオアシスのように感じた。

一番安いセットメニューを注文して受け取り窓際のカウンター席に座る。

窓からは幸せそうに手を繋いで歩く親子や忙しそうに携帯で話しながら歩くサラリーマン、寄り添って歩く老夫婦など穏やかな日常が流れている。

さっきまで売春の為の宿を探していた私にとってそれはスクリーンに見立てた窓から眺める映画やドラマの風景のように感じられた。

どこで食べても均一なそれをもごもごと食べていると私の横にスーツ姿の小太りの男性が座った。

店内をさらりと見渡すがそこまで混雑しているように見えない。なのに私の横に座ってきたということは


「君、中学生?夏休み中?」


やはりそういうことなのだろう。荒い息遣いとねっとりした喋り口調が鼓膜を撫でる。

こういう男性のほとんどが活発な子よりも大人しい子を好む傾向にあるという私の実体験から演じる。


「うん。夏休み中なんですけど、お父さんもお母さんもお仕事でいないから夕方まで暇なんだあ…。」


遠くを見ながら呟く。

すると彼は獲物でも見つけたような狩人の目になり私を上から下まで舐め回すように見た後、携帯電話に文字を打ち込んで私に見せる。


『おじさんといい所にいかない?』


ニタニタしている。

確定だ。


「いい所ってどこですか?」


私が尋ねると彼は驚いて周囲を見回し、誰もこちらを見ていないことを確認した上でさらに文字を打ち込む。


『楽しいことしようよ。本当はわかってるんでしょ?OKなら僕がお店を出た後、ついてきて。』


彼はハンバーガーを口に押し込み、ドリンクで流し込んだ後に一度だけこちらを振り向いて店を出た。

私は彼が窓から見える位置まで来たのを確認して店を出る。

つかず離れずの距離で私の予想通りの場所まで先導してくれた。

もちろん到着したのは先ほどのラブホテル。

自動扉をくぐるとちょうど彼がパネルから部屋を選んだところだった。それなりにいい値段の部屋を取っていたので実入りは悪くなさそうだ。

手を引かれ、エレベーターに乗せられる。脂汗が不快だ。

向こうは待ちきれないのかもう私のお尻や腰を撫でまわしている。

部屋に着くと、私は値段の交渉に入る。


「おじさん、いくら?」


少し面食らったような顔をしつつも彼は万札を三枚、財布から取り出した。


「これならどうかな?」


「おじさん、そっちの病気とか持ってる?持ってないなら生でいいよ。その代わり追加で二万ね。」


病気は持っていないと言いながら目がギラリと輝き、財布からさらに万札が二枚合計五枚がテーブルの上に並べられた。

私は肩掛けのポーチから財布を取り出してそれを突っ込んだ。


「じゃあ先にシャワー浴びて来るね。」


そう言って彼はバスルームへ消えた。

その間に私は彼の鞄の中から免許証や名刺を取り出して携帯電話のカメラに収めた。

これは自衛策だ。ピルの残量はまだまだあるので妊娠の確率は低いがもしもの時と性病にかかった時の保険。

素早くそれらを鞄に戻し、ベッドに沈んでいると全裸で彼がバスルームから出てきた。

私が交代でバスルームへ行こうとしたら彼が引き留める。そのままでいいとのことなので私はお気に入りの黒のワンピースを脱ぎ、身を委ねた。

ここから先は引っ越す前と変わらない。心を殺し演技をする。それだけ。

防音がしっかりしているせいもあり蝉の音は聞こえず、室内には彼の雄たけびのような声と私の偽物の喘ぎ声が響いた。


約束通り夕方になると解放され、別々に外に出ることになった。

連絡先を交換し、また連絡するね、と言い残した彼が部屋を出た数分後に私がホテルを出た。

夕暮れ時のこの時間帯、駅に近づくほど人が多くなるがこの土地で初めてのカモを見つけた私は少し浮足立って改札をくぐり電車に乗った。念の為、ホームに着く前に周囲を確認したが彼の姿はなかったので電車に乗り込み自宅の最寄り駅までサラリーマンの間に入り込み過ごした。


こうして私の新しい土地での売春生活は始まったのだった。

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