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月子の場合  作者: ヒスイ
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天野月子の場合⑲

中学三年に進級し、十五歳になった私はその日も変わらず男の相手をし終えて足早に帰路に着く。

「お小遣い」の分厚さもそろそろペンケースでは入りきらなくなってきたのでどうしようかと考えていると、私は急に路地裏に引っ張り込まれた。

声を上げようにも太い腕が私の首を締め上げており息をするのがやっとだ。


「月子ちゃん、おじさんともう一回しようよ。」


それは最後に相手していた男性で私のリピーターになっている人の声だった。

ねっとりした声が私の鼓膜にまとわりつき、汗をかいている腕が力を増していく。

私は薄れゆく意識の中、スカートのポケットからカッターナイフを掴み、刃先を出して男の腕を切りつけた。


「うわっ!」


相手はとっさに腕の力を緩め、私はその隙に息を整え相手を見据える。

男は顔を真っ赤にして血を拭い私に向き直りながら


「悪い子だねえ。さっきまでの可愛い月子ちゃんはどうしたんだい?お仕置きが必要だねえ。」


ニタニタと笑いながらつぶやく。

そしてそのまま私を押し倒そうととびかかって来るが、躊躇なく私はカッターナイフで彼の顔を切り裂く。


「ぎゃああああああああああああ!!!」


顔を押さえながらその場に倒れこむ男。

声を聞きつけ、何人かの足音が聞こえてきたと思ったら私は拘束された。

傍から見たら私が通り魔のように男性を襲った構図に見えているのだろう。

何度か見たことのある高校生らしき男が男性を看病する。


「お前、何やったんだよ!」


私を拘束しているのは岡だった。

唾がかかる勢いで私を問い詰める。


「帰ろうとしたらこの路地に連れ込まれて襲われました。だから切りつけました。」


「まじかよ…。」


ため息を吐きながら男性のもとに行きなにやら話をしている。

岡は私の方をちらっと見て、手で「帰れ」と合図したため私はカッターナイフをポケットにしまい込み帰路に着いた。


翌日の放課後、私がいつも通りラブホテルの部屋に行くと高校生になった尾形、三田、大西、中野、松井がいた。中野以外は市内でトップクラスの偏差値の高校の制服であり、中野は偏差値が低くく不良が集うことで有名な私立高校の制服だ。室内にはいないが岡はラブホテルの外で待機していた。


「とりあえず座れよ。」


私は尾形の声に従いソファーに座る。


「昨日お前が切りつけた相手さ、まあまあいいところの会社の専務だったかでさ。お前の年齢のことも考えて通報はしないけど俺らに責任取れって言ってきてるんだわ。」


「そうですか。」


私は当然だと思った。なんならいつかはこういうこともあるだろうと予想していたので私はポケットにカッターナイフを準備していたのだ。


「そうですか、じゃねえんだよ!お前のせいで俺らに迷惑かかってんだよ!」


尾形が私の胸倉を掴む。顔面に唾が飛び散るのが不快だ。


「お金なら私で稼いだ額が山ほどあるんじゃないですか?それで解決すればまた私で稼げるんだからいいじゃないですか。そもそも私を商品として扱うならこれくらいのトラブルは想定してほしかったです。あなたたちの落ち度のせいで私は自衛する羽目になったんですよ。」


「てめえ!!」


「やめとけ、尾形。」


私を殴ろうと拳を振り上げたのを見て松井が止めに入った。


「確かに今回は俺たちの落ち度だ。今後は他の女にも何かしらのトラブル回避の方法を考えないとな。天野、お前はもう家に帰れ。念のため岡さんが大通りまでは同伴してくれるから。」


「わかりました。」


私は尾形の手を払って部屋を出た。

松井の言った通り、外で待機していた岡が大通りまでついてきて何も言わずに私と別れた。

その後、私はいつもより早く家に帰る。

慣れない時間の帰宅に心が戸惑いながらも出迎えてくれた。


「お姉ちゃん、どうしたの?今日はやけに早いね!お勉強会は中止?」


両親と心には心配をかけないように売春をしている時間はクラスの友人と一緒に勉強会に参加していると伝えている。

心はこの一年で急激に背が伸びて今では私と変わらないくらいになっている。

長い髪は相変わらずポニーテールにしてまとめておりクラブ活動では男子に混じってサッカーをしているのだとか。

私と姉にはなかったスポーツの才能に驚きながら、それでも中身は末っ子気質で甘えん坊のままの心が私は大好きだ。


「うん、今日は中止。久しぶりに宿題見てあげよっか?」


「ほんと!?じゃあ早く行こ!」


心の表情がぱあっと明るくなり手を引いて自分の部屋に私を連れ込む。

私が姉の部屋に移ってから久しく入ったことはなかったが中はきちんと整理されていて驚いた。

心は学習机に座り、開いていた問題集の分からないところを私に尋ねる。

私は横に座り一緒に解いていく。

一問解けるたび心の頭を撫でた。


「お姉ちゃんに撫でられるの久しぶりで嬉しい~。」


目を細めながら喜ぶ妹。ストレートな感情表現も私と姉にない心の才能の一つだ。

私には持っていない才能という宝石をたくさん持っている心は本当に私の宝物なのだと改めて思う。

宿題が終わってから、心が久しぶりに私と一緒にお風呂に入りたいと言ってきたときは何度も断ったが心もしつこくねだるので最終的には私が根負けして一緒に入浴する形となった。

自分の穢れが心に移ってしまうようで嫌だったが彼女はそんなことも気にせず髪の毛を洗いあったり、湯舟ではお湯をかけあったりして私は久しぶりに心から笑った。

お風呂上り、心の髪の毛をドライヤーで乾燥させていると彼女がぽつりと


「お姉ちゃん大好き。これからも玲子お姉ちゃんの分まで私と一緒にいてね。」


と呟いた。

私はゆっくりと、しっかり心を抱きしめる。

私が心を守るんだ。何度も心で唱えた言葉をもう一度刻み込む。

彼女は私の宝物なのだから。


夕食を終え、就寝前まで二人でテレビを観て、おやすみなさいと挨拶をする。

何気ない日常だった。

本当に何気ない日常だった。

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