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月子の場合  作者: ヒスイ
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天野月子の場合⑱

それからの私の日々は地獄だった。

大西からはピルを飲むことを強制され、その副作用に体が慣れた頃に中野に連れられて繁華街の外れにあるラブホテルで平日は一日で三人ほどとセックスをする。休日は朝から夕方までなので多くて八人くらいの相手をする。

平日はほとんど高校生や大学生、休日は社会人が多い。

何人かの男は私が天野玲子の妹だと分かったようで姉と比べるようなことを言いながら私を弄んだ。

中野に聞くと、姉が犯されていたのも同じホテルらしい。

私は姉と同じ地獄を忠実になぞっているのだ。

誰に抱かれている時でも私は姉のことに思いを馳せた。

私がのうのうと家で過ごしている間も姉はここで心と体を欲望にまみれた汚い男たちに壊されており、私たちを陰ながら守ってくれていたんだ。

改めて私は姉を誇りに思う。誇りに思いながらも姉と同じ道を辿らないように注意深く振舞った。


季節が幾つか過ぎ、私が中学二年生になり尾形たちは卒業したが私の生活に変わりはなかった。

学校が終わると門限の夕方六時ぎりぎりまでは売春の強要。それが終わると即帰宅して家事の手伝いと勉強。

幸い、両親の仲は健全なものに修復し家庭内の空気も悪くなかった。

私は知らない男に抱かれた体で心と一緒に寝ることが申し訳なく感じたため姉の部屋を使わせてもらうことにした。

生前と同じ家具の配置。マットレスだけ新調してもらった姉のベッドで夜を過ごすたびに彼女がどんなに苦しい思いをしながらこの部屋にいたかを想像しては死にたくなる。

だけど私は生きたかった。生きて、私と姉にこんな地獄を見せたやつらにいつか復讐してやりたかった。

姉の布団に包まれて今日も私は眠る。


行為の際、心を殺して男が喜ぶような演技をすることを覚えた。

山田とのセックスでは愛情を感じていたので演技なんてする必要もなかったが知らない相手ともなると別だ。私がある程度の反応を示さないと怒って帰る男もいて、それが続くと中野やその彼氏の岡に殴られる。

時間が空いている時にホテルの備え付けの大型テレビで岡が無理やり私にそういうビデオを見せてきて、こうやるんだよ!と見ながら無理やり犯された。

それ以来私は心を殺しながらも行為の最中は演技に勤しむことにした。

その甲斐があってか私を何度も抱きに来る男が複数現れた。

私のことを気に入ってくれた彼らは中野たちに支払うお金とは別に私に「お小遣い」と称して数万円をくれる。

ロリコンで最低なことには変わりないが中学生の私にとってそれは貴重な資金源だったし、いつか尾形たちに復讐をする際必要となるものだったから私はありがたく受け取った。


売春を続けていくうちに私は変に要領を得た。

まず高校生や一部を除く大学生は絶対にお小遣いをくれないし性欲を満たしたいだけの猿なので最低限の演技で済む。相手も出せればそれでいいのだから多少乱暴な時もあるが楽だ。一部の大学生は親が裕福な家庭の出身もいるので媚びると憐れむように多少の金額はもらえる。

次に二十代から三十代。ここが判断の難しいところになる。猿のパターンと真正のロリコンのパターンに分かれる。前者は出せればそれでいいので私の負担も軽い。しかし後者の場合は今後の収入減に繋がる可能性が高いため見極めて愛想を振りまくか決める。

そして私が最も狙いを定めているのが四十代以降の男だ。中野や岡のコミュニティーがどんなものか知らないがこの年代の男性でわざわざ私を指名してくる場合はロリコン且つ金持ちが大半を占める。その為、金払いも非常に良く私は彼らに対しては従順で愛想良く振舞い続けて頻繁にお小遣いをもらえた。

中には自宅に招待されたこともあったがそれは身の危険を感じたため断った。皮肉なことにホテル内に限っては私の身の安全は中野と岡によって保障されているのだ。私が嫌がることや悲鳴を上げれば駆け付けて対処してくれる。

この安全保障がなく私の時間を削る行為などまっぴらごめんなのだ。


そうこうしているうちに私は中学生活のほぼ全てを売春に捧げた。

山田の件以来、厄介者扱いだっため友達は少数だったしテストの成績も上から数えた方が早かったため教師は私を無理に取り扱わない。

家に帰ってからはラブホテルの私と別の本来の私になれたため両親も私がどういう状況に陥っているか知らないし、知られないように必死だった。

「お小遣い」に関してはいつか必要になるだろうと思い、大きめのペンケースを買いそこに入れていつも肌身離さず持ち歩くようにしていた。数えたこともなかったがリビングで両親が観ていた映画のワンシーンに出てくるまとめられた札束に近い分厚さに似ていた。


売春婦にされた私、学校での私、家での本来の私。

そして復讐心にいつも身を焦がされている私。

四人の私はそれぞれが別々の人間かのように振舞い、騙し、演じ、天野家の平和は成り立つ。


事件が起きたのは私が十五歳になって少しした夏の夜のことだった。

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