天野月子の場合⑤
あれから数日が経過した。
尾形には姉の遺書は両親が持ち歩いておりなかなか手に入れることが難しいと伝え、時間稼ぎをしていたが彼の態度を見るにそろそろ限界だろう。
私は意を決して姉の形見を鞄にしまって登校した。
教室に入るとみんながいつものように挨拶をしてくれる。
男子も女子も大まかにグループができており、それぞれが固まってホームルームまでの時間を楽しんでいる。
私は主に小学校からの同級生と新しくできた友人数人でお喋りをすることが多かった。
少し不思議だったのは隣の席の山田君だ。
彼はどこのグループにも属しているようで属していない。
まるで宙に浮いている無色の透明人間のようにどのグループにも混じりは抜け、混じりは抜けを繰り返している。
彼と同じ小学校だった友人にこっそり尋ねると、当時から今のような立ち位置だったらしく交友関係は広いものの特別親しい人はいなかったようだ。
私の周りにはいないタイプの人間だったため彼は自然と私の興味を引いた。
彼もなぜか私に興味があるらしく休み時間や給食の時間にはよく雑談を持ち掛けてくれていた。
中性的な顔立ちで優しい声色は私にとって心地よかったし、無理に私の過去に触れようとしないところも好感を持てた。
終礼が終わり各々が帰る準備をする中、私は足早に教室を出た。
一年の教室は一階。二年は二階。三年は三階。
私が三階に着くとちょうど生徒が教室から出始めたところだった。
中学一年と三年。二歳しか違わないのにどこか別の生き物に見えたし、三階のフロアは私をしっかりと遺物扱いしていた。
通り過ぎる生徒が訝しげに私を見ながら通り過ぎる。
私はテキトーな女子生徒に声をかけて尾形の教室を教えてもらった。
彼の教室は廊下の突き当り、非常階段の手前。ドアの前で深呼吸をしてゆっくりドアを開ける。
「すみません、尾形さんはいますか?」
教室に残っていた生徒は静まり返り、一斉に私の顔を見る。
「お、月子ちゃんじゃん。いまこっちから行こうと思ってたところ。気が合うねえ。」
窓際に男女数人で固まっていたグループから彼が立ち上がり私に手を振りながら向かってくる。
相変わらず私の神経を魚でするような声と軽薄な態度にいらつきが湧いてくるが必死に押し殺す。
「見つかったの?例のもの。」
「はい。ここで話してもいいんですか?」
「旧校舎の中庭。そこで待っててよ。場所わかる?」
「はい。先に行きます。」
耳元で囁かれて寒気がしたが私は端的に返事をして指定された中庭まで向かった。
旧校舎の中庭は聞いていたとおり人通りがほとんどなく静かだった。
遠くで吹奏楽部の楽器の音色や運動部の掛け声が聞こえる。
少し待つと尾形を含めた五人の男女が中庭に姿を現した。
尾形の横にぴったりとくっついているのが三田だろうか。
あんな男のどこがいいのか私には理解不能だ。
「月子ちゃん、ごめんねー。こいつら、みんなお姉ちゃんと仲良くしてたんだよ。だからいいでしょ?」
「はい。」
勝手に連れてきておいて今更私に拒否権などあるのか。
「じゃあ早速、遺書見せてよ。」
尾形が右手を差し出す。
「交換条件のハズですよ。姉の遺品を渡してください。」
取り巻きの誰かが露骨な舌打ちをする。
「ごめんごめん。じゃあ、これ。同時に交換ってことで。」
中身が詰まった封筒のようなものを尾形が鞄から取り出す。
私は指示に従い彼の右手に姉の遺書を、私は自分の右手に謎の封筒を受け取った。
尾形は奪い取るように遺書を取ると広げて取り巻きと読み出す。
私は封筒の中身を取り出す。それはカラー印刷された何十枚もの写真だった。




