天野月子の場合②
姉の葬式は簡易的なもので親戚も呼ばず家族だけで執り行なった。
白い布に包まれた箱に入った姉は、生前と同様に彼女の部屋に祭壇を作って祀った。
姉の部屋に入ると優しい匂いに包まれた。
私は遺影に向かい合うように座る。
遺影の中の姉はとても朗らかに笑っており、私が最後に見た潰れたザクロをつい忘れてしまうほどに可愛らしく、美しかった。
遺書はあったらしいが父と母に何度頼んでも見せてもらえなかった。
「お姉ちゃん、なにがあったの?どうして死んじゃったの?私、気づいてたのになにも出来なかったのがいけないんだよね?」
遺影に問いかけるももちろん返事など返ってこない。
虚しく部屋に響き渡った言葉は部屋の壁に染み込まれて消えた。
カチャリ、と部屋の扉が開き心がゆっくりと入ってきて私に抱きつく。
「玲子お姉ちゃん、もう会えないんだよね。どうして…どうして…。」
心の声に段々と涙が混じる。
それにつられて私の目頭も熱くなり、涙が溢れる。
妹の手前、泣くのは我慢しないといけないとは思っているが止められない。
そう言えば、姉の死体を目撃してから今まで涙が出なかったと気づいたのは今更だった。
私と心は姉の遺骨と遺影の前で日が暮れるまで、涙が枯れるまで泣いて、気づくと心と抱き合って眠っていた。
それから一週間ほど経って私は登校した。
本当はもっと休みたかったが陰鬱な家の空気、姉の部屋に行くと香る姉の匂いと面影から逃げたかったのも事実だ。
私にとっては初登校になる。
一年三組、それが私に割り振られたクラスだ。
深呼吸して教室の扉を開ける。
教室内には既に大半の生徒が登校してきており、一斉に私のほうを見て静かになる。
私は座席表に記載されている席に座る。
座ってからすぐに小学校時代の友人たちが声をかけてくれる。
みんな、聞きたいことは山ほどあるのだろうが核心には触れず私の体調のことを気にかけてくれた。
私はそれが心地よかった。
「姉を亡くした可哀想な月子」ではなく、「天野月子」として接してくれているのが何よりも私の見えない荷物を軽くしてくれた。
しばらく雑談していると始業のベルが鳴り響く。
また後でね、と言って友人が散り散りになっていった。
一息ついた私に隣の席の男子が声をかけてくる。
「天野さん、はじめまして。俺、山田。山田陸人。よろしくね。」
清潔感のある短髪でにこやかな彼は名前を名乗りに柔らかい笑みを浮かべ、手を差し出してくる。
隣の地区の小学校出身の生徒だろう。
私も彼の笑顔につられて私も笑顔になって差し出された手を軽く握った。
同年代の男子の手に触れたのは久しぶりでその温もりと逞しさに少しだけ胸が跳ねた。
彼は少し毛恥ずかしそうにしながらはにかむ。
そんな笑顔がどこか可愛らしかった。
担任の教師が入ってきたため私達は慌てて手を離す。
担任は私の顔を見て驚きの表情を見せた。
しかしすぐに笑顔に変わり、出席を取る時には優しく私の名前を呼んでくれた。
だから私も精一杯の笑顔で返事をした。
自分の居場所が家とは別にあることが何より嬉しかった。
休み時間は常に数人の友人たちが私の席を取り囲んでくれて楽しく話しをしてくれたり、別の小学校出身の子を紹介してくれたりと笑いが絶えなかったし、何より新しい友人が増えていくのが楽しかった。
隣の席の山田君は授業が始まる前になると必ずノートを見せてくれて丁寧に解説もしてくれた。
幸い、入学式から一週間しか経っておらず遅れを取り戻すことも容易で登校して本当に良かったと感じた。
まだ友人グループが完成していないのも私からすれば有り難く、男女関わらず気軽に話せるのが楽しく教室内はなんだかキラキラして見えた。




