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月子の場合  作者: ヒスイ
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天野玲子の場合⑧

それからの玲子の日々は耐え難く残酷なものだった。


ある日は同級生、別の日は高校生や大学生、また別の日は成人男性と行為を強制させられる日々。

何度か断ったが家族に対しての脅しや女子からの暴力により玲子の意思は否定され続けた。

尾形は取り巻き以外の人間が玲子と交わる場合は自分に金銭を支払うことを条件としており、玲子が体を交える度に彼の懐は潤っていった。

そのお金は全て尾形、三田、その他の数人で分け合った。

もちろん玲子に支払われる金銭は一切ない。


玲子が食事を摂れなくなったのはこの生活が始まってすぐだった。

食べれないわけではない。

家族の前では極力いつも通りに過ごしたが食後はトイレに籠もり嘔吐する。

学校でも同様に教師に怪しまれないように今まで通りに振る舞った。

しかし、この頃にはもうクラスの中で玲子に話しかけてくる人は居なくなった。

援助交際をしているという噂が学校中に知れ渡っており、大勢の生徒が玲子を汚物を見るような目で、見世物小屋の動物を見るような目で見てきた。


冬休みに入ると朝から夕方までをホテルで過ごす日がほとんどになっていた。

さすがに年末年始は家で過ごせたが体調が優れずほとんど部屋から出ることができなかった。

妹たちが何度か玲子の様子を見に来たものの、幼い妹に自分がやらされていることを話すわけにもいかず、適当な理由をこじつけては遠ざけた。

両親も彼女の変化に気づき、学校に相談したようではあるがイジメの事実など到底知らぬ担任教師との会話は無意味なものに終わり、それが余計に玲子を苦しめる。


冬休みが終わりを告げると同じような生活が再開し、玲子は徐々に頻回に自分の体を求めて来る大人たちの顔と名前を覚えるようになっていく。

いつか、どこかで、なにかの役に立てばいいと思いメモ用紙に記録して机の引き出しにしまった。


そんな日々を過ごしているうちに玲子は自身の身体の変化に気付いた。

生理が止まったのだ。

それを尾形たちに伝えるとすぐに同級生で医者の息子である大西へと伝わった。

大西賢吾は市内にある中規模病院の院長の息子であり、話が通ってから数日で検査を受けることになった。

結果は妊娠5週目。

玲子は心底ゾッとしたが、大西賢吾も玲子と関係を持った男子生徒の一人であることと、父親にバカ正直②玲子の事情と自分が関わっていることを話したようですぐに中絶手術を受けることになる。

もちろん極秘裏に行われたものであり、これ以降玲子は妊娠しないように常に薬を飲み続けることとなった。 


玲子が妊娠しないように薬を飲んでいることを知ると男たちはえらく感動し、今まで異常に彼女の身体を求める。

避妊しなくていい都合の良いおもちゃが手に入ったのだから嬉しかったのだろう。

薬の副作用で玲子の身体はボロボロになり、精神もだんだんと腐り始めていった。


季節は巡り、寒さが去り、桜がポツポツと咲く時期に突入する。

天野家では月子の進学祝いが行なわれた。

玲子と同様に父が買ってきたホールケーキを囲みお祝いをする。

玲子は妹に向かって精一杯笑った。

月子はそんな玲子の瞳の奥を覗くようにして見ていた。

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