女神様の使い、5歳からやってます SS ひな祭り
「はぁー、そろそろお雛様だなぁ」
美羽とクララとレーチェルはお城のティールームでお茶会をしていた。
そんな時に不意に美羽が物憂げな顔をして言う。
「おねえさま、なんですの? そのおひなさまって」
レーチェルが首を傾げて言う。
美羽が少し嬉しそうに言う。
「お雛様っていうのはね、私の世界の女の子のお祭りだよ。ひな祭りっていうの」
と、詳しく話した美羽、興味津々の二人。
しかし、憂えたような表情で美羽が言う。
「でも、この世界じゃなにも揃わないからできないな」
クララがにっこりとして言う。
「無ければ作ればいいのよ。ミウちゃん」
「ええ、作るの?」
「そうですわ、つくりましょう」
「でも、人形を作るのは職人が……」
「それなら、私たちが着飾ってその雛壇に上がろ」
「ええ! なにそれ、面白い」
「いいかんがえですわ」
クララは顔を輝かせながら言う。
「ミウちゃんがおひなさまやると可愛いね」
「そうですわ。それがいいですわ」
「え〜、そうかなぁ、えへへ」
すると、レーチェルが思案顔になり、
「そうするとおだいりさまはだれになりますの?」
「「誰かしら?」」
((私がお内裏様だ))
と、決意する者たちがいた。
「問題は衣装とか雛壇とか小道具とかどうするかってことだよ」
美羽は困った顔で言う。
「陛下に協力を要請するのはどうかしら」
「「それだ!」」
3人は揃って皇帝ウォーレンの執務室に突撃した。
「皇帝!」
バーン!
と、音を立てて扉を開ける。
「きゃー」
見知らぬ女性の声が響く
「ミ,ミウ様ー!?」
皇帝の絶叫が響く。
「「「うぎゃあああああああ」」」
美羽とクララとレーチェルの3人の絶叫がこだまする。
そこにいるのは半裸の皇帝と女性。
お取り込み中だった。
「こほん、それでなんの要件ですかな? ミウ様」
絶叫してから10分後、何事もなかったように取り繕う皇帝。
ソファーに座りながら喋り出す美羽。
「なんの要件っていうかさ、皇帝。ああいうの子供に見せちゃダメだよ。しかも自分の娘にまで」
「そうです。お父様。幻滅です」
「へいか、さすがにあれはひどいですわ」
「うぐ」
美羽がわざとイタズラっぽい言い方をする。
「そういうことすると、ちょんぎっちゃうぞ〜」
「自分たちが勝手に入ってきたんだろうがー」
「「「きゃー」」」
「ゼェー、ゼェー」
ウォーレンが荒い呼吸をする。
美羽が心底心配そうに言う。
「そんなに大声出すと体に悪いよ」
「そうです。お父様」
「へいか、おいたわしいですわ」
「いや、心配ご無用」
「歳なのに」
「加齢されているのに」
「おじいちゃんですわ」
3人とも心底心配そうな顔を作っている。
「一体誰のせいで叫んだと思ってるんだー!
あと、クララ、加齢とかいうのやめてよね。地味に傷つくから」
「「「おじいちゃんはいいんだ」」」
「……」
皇帝は疲れた顔で言う。
「いい加減に要件をお話しください」
「ふう、やっと話せる」
「くたびれたわ」
「ねむいですわ」
こめかみがピクピクとするが、皇帝は何も言わない。
「反応ない。面白くないね」
「「ねー」」
隠れて拳を握る皇帝だった。
「ひな祭りよ!」
「それは何ですかな?」
ひな祭りの概要を説明するとウォーレンは
「これだ!」
「な、何?」
美羽はビクッとする。
「イベント事を探していたのだ。帝都中で大々的にやろうではないか!」
勢いに押された3人だった。
「でも、皇帝。帝都中って言っても一箇所でやっても盛り上がらないよ」
「それなら雛壇を馬車にして都中を回れば良いのです」
「えー、重くて動かないよ」
「我が帝国の力をみくびりなさんな。20頭立ての馬車を作って見せましょう」
「「「20頭!?」」」
美羽の中のレスフィーナに与えられた、地球の知識では最大で16頭立てというのがあった。
が、20頭というのはない。
どれくらいの規模なのか、想像がつかない。
「異世界すご」
改めて異世界だと思い知った美羽だった。
執務室には衣装担当 細工担当 馬車担当 化粧担当
諸々の担当者が集められた。
しかし、集まってもイメージを伝えるのは至難の業だ。
違ったイメージが伝わってしまったら、せっかくの雛祭りが台無しだ。
「でも、だいじょーぶ」
美羽には念話があった。
「おお、すごい。頭にイメージが広がってくる」
「これがひな祭りですか」
「何とも不思議な。しかし、美しい光景ですな」
「これを御使い様たちがやるのですな」
各担当たちは念話でのイメージを見ながら様々なことを言うが、反応は概ね良好のようだ。
「それで、準備できるかなぁ」
美羽達は不安そうに担当者たちに聞く。
すると、担当者たちはニヤリと笑い、1人が代表して言う。
「海を渡った国の貿易船が来たばかりで、イメージにぴったりのものをおろして行ったんですよ」
「それじゃあ」
「ええ、準備できます」
「「「やったぁ」」」
3人は抱き合い喜び合う。
担当者たちも役に立てそうでニコニコだ。
「よーし、これからひな祭りの準備だぁ」
「「おー」」
美羽の言葉にクララ、レーチェルが意気込んだ。
一方その頃……。
薄暗い部屋で男が3人。
「それで、ミウ様の方はどうだジェフ」
「はい、準備は順調のようです。エルネスト様」
「ミウ様は僕のこと何か言ってる?」
「はい、一切言っていません。カフィ様」
いつもの2人とジェフだった。
「おかしいなぁ? ミウ様は僕のことを気にかけているはずだけど」
「おかしくありません、カフィ様」
「カフィ、それはないぞ。なぜなら私を愛しているからだ。ミウ様は」
「それもありません。エルネスト様。ところで、何をしようと言うのですか?」
「それなんだけどね。ジェフ君。ひな祭りのおひな様をするのは誰だか知っているかな?」
「? ミウ様ですか? エルネスト様」
「その通りだよ。そしてもう一つ席が空いている」
「それなんだけどね。ジェフ君。ひな祭りのおひな様をするのは誰だか知っているかな?」
「? ミウ様ですか? エルネスト様」
「その通りだよ。そしてもう一つ席が空いている」
「お内裏様ですか?」
「「そう、そこに座るのが……」」
「私だ」「僕だ」
エルネストとカフィは睨み合う。
「カフィくーん。君は伯爵家の三男だよねぇ。君にミウ様の隣は荷が重いよ」
「エルネスト様ぁ。もういい加減ご結婚されてはいかがですかぁ? たくさんの方とお付き合いしたんですよねぇ」
ジェフは眉間の皺を揉んだ。
「どうあっても、君は僕がミウ様の隣に相応しいと認めないのかい?」
「エルネスト様こそ、僕がミウ様に相応しいとわからないのですか?」
2人は険悪な空気を作る
ジェフはため息を吐く。
「「こうなったら仕方ない」」
2人は睨み合う
「ジェフに聞こうじゃないか」
「そうですね。ジェフ君、どっちがミウ様の隣に相応しい?」
急に振られたジェフ。
どちらも相応しいと思っていないのだから、答えられるわけがない。
しかし、逃がしてくれそうもない。
「「さあ、どっち」」
どちらをたてても角が立つ。
そもそも信奉する美羽をこんな男どもに任せられるわけがない。
しかし、立場が上の2人に迫られると、なんとか答えが必要だ。
窮地に立ったジェフは言った。
「クララ様かレーチェル様です」
エルネストは呆れる。
「ハァ、クララは可愛いが、女性を選ぶわけがないだろう」
カフィは愚痴る。
「また、レーチェルか。いつも僕の邪魔をする。でも、それはないかな」
2人は目を合わせ頷く。
「「仕方ない、ミウ様に選んでもらおう」」
「それでは勝負は当日、ミウ様に決めてもらおう」
「ええ、各自衣装は用意するってことで」
「ははは、私がミウ様を悩殺して見せよう。そして、すぐに婚約だ」
「ふふふ、私の姿を見たらミウ様は私に結婚を断ったことを後悔するでしょう」
お互いの言葉を聞いてまた睨み合う、エルネストとカフィ
「貴様、ミウ様に結婚を迫っただと!」
「エルネスト様、ミウ様に婚約など許しませんよ」
ジェフは、再びため息を吐く。
「まあ、当日見ていたまえ」
「ミウ様は僕のものです」
ところ変わって美羽たち。
クララが満面の笑みで言う。
「衣装できたって」
「「きゃー! かわいい」」
「この衣装はこれは花嫁衣装だぁ」
「おねえさま、きてみましょう」
「私も着るわ」
「クララもレーチェルも一緒に」
「「うん」」
ひな祭り当日。
20頭立て馬車の出発点となる広場にはイベントに飢えた大勢の見物客でごった返していた。
たくさんの屋台も出ていて盛況だ。
ひな壇前には参加者が集まっている。
伝令が声を上げる
「雛壇に上がる方は上がってくださーい」
1段目 空席
2段目 空席
3段目 左近の侍 門将ローガン 右近の侍 近衛騎士団長クラーク そして宮廷音楽隊
4段目 仕丁 リリ ルル その他の騎士
5段目 仕丁 アミ フィオナ ミルカ その他の子供
こう言った配置になっていた
「「ミウ様はどこだ?」」
ひな壇の前でキョロキョロしている怪しい2人がいる。
お内裏様? の格好をしたエルネストとカフィだ。
「何しているんだ? エルネスト」
「見て分からんのか、お内裏様……陛下」
皇帝ウォーレンと后妃イザベルだった
ウォーレンはエルネストを見て吹き出す。
「うむ、ププ……、見ても分からんが」
ウォーレンとイザベルは豪華な衣装を着ている。
狩衣と十二単なのだがエルネストには分からない。
イザベルが心配そうな顔で言う。
「エルネスト、大丈夫?」
一方、見物に来たジョディはカフィの前にいた。
「うふふ、カフィ、あなたなんて格好をしているの?」
「お母様、これはお内裏様というのです」
「お内裏様? なんであなたがそんな格好を」
「お内裏様は私しかありえません」
ジョディは不思議そうな顔で聞く
「? そうなの??」
「ええ、お母様よかったですね。ミウ様ともうすぐ家族になれますよ」
「ミウちゃんと?」
「まあ見ていてください」
「でもね、あまりミウちゃんには会わないほうがいいかな」
すでに聞いていなかった
その時、広場の人だかりが左右に割れた。
その中を歩いてくるのは、和服を着て楚々と歩く少女たちだった。
左右にクララ、レーチェル。中央に美羽がいた。
3人を見て、広場のボルテージは最高潮に上がる。
「「「「3妖精サイコー」」」」
美羽の和服を見たエルネストとカフィはあまりの美しさに言葉を失った。
美羽が近づいてくる。
2人は胸を高鳴らせてごくりと唾を飲む
なんと話しかけようか?
まずは着ているものから褒めようか?
2人は美羽が目の前に来るのを待った。
美羽が近づいてきた。
「「はぁはぁ」」
2人の呼吸は荒くなる。
美羽が手を伸ばせば届くくらいまできた。
「「ゼェゼェ」」
美羽はどちらに来るのか
2人の中間点にいる。
目線を下げて恥じらっているのか分からない。
「「ゼハァゼハァ」」
美羽は2人の合間を2人に触れそうなくらいに近くに来る。
(おお、私の天使ちゃんはなんて積極的なんだ)
(ああ、ミウ様は大胆だ。やはり僕のことを)
2人の期待は高まる
まさに手が触れそうな距離になり2人の手を……
とらずに間を抜けていった。
「「ええ〜〜〜〜〜〜」」
エルネストとカフィが絶叫する。
しかし、美羽は2人がいたことで左右に割れたクララとレーチェルと再び合流して歩いている。
「「ちょっと待ったーーーー」」
エルネストとカフィは回り込み美羽達を止める。
美羽達は足を止めた。
エルネストが口を開く。
「ミウ様、照れているのかい? 僕に隣に座って欲しいんだろ」
「? あなた、誰? なんでそんなに金ピカなの?」
エルネストは金ピカのスーツに背中には竜の刺繍が入り、金縁サングラスをしていた
「もしや兄様ですか?」
クララが聞く
「そうだよ。ミウ様、気づかなかったかい」
美羽は目をぱちくりしながら、まじまじとみる。
そして、ぷっと吹き出す。
「キャハハ、エルネストなのぉ〜。キャハハ、眩しい。おかし〜」
エルネストが呆然としているのを横にカフィが声をかける。
「ミウ様、待ってたよ。今日はミウ様の隣にいるための格好をしてきたよ」
「え、その声、カフィなの?」
真っ赤なタキシードで背中にフェニックスの刺繍をし、真っ赤なサングラスをしていた
「キャハハ、なんで赤いの?トマト祭り?」
ミウに笑われ、ショックのカフィ。
「ミウ様が以前、赤が好きと言っていたから」
エルネストも同意する
「ミウ様は金が好きだと言っていたのを聞いたよ」
やりすぎである。
ジェフはため息を吐いた。
ジェフに気づいた美羽は尋ねる
「ねえ、どうしてこんなことになってるの?」
「はい、ミウ様。お二人はお内裏様をしたくて衣装を用意しました」
「なんでやりたいの?」
「おひなさまをするミウ様の隣がいいと」
「え? 私おひなさまじゃないよ」
「「は?」」
再び呆然とするエルネストとカフィ。
そんな2人をよそにクララとレーチェルが
「ミウちゃん、行きましょ」
「そうですわ。早くしましょう」
そして、3人はひな壇の2段目三人官女の位置に座った。
エルネストが声を振り絞るように言った。
「ミウ様は一番上じゃないのか?」
それを聞いたウォーレンが言う
「何言っているんだ? 一番上は私とイザベルだぞ」
「「ハァーーーーーーーー?」」
エルネストとカフィは今日一驚いた
ひな祭り行列はつつがなく進んだ。
美羽は終始ご機嫌だ。
「ねえ、2人ともこれ飲む?白酒」
「「え、おさけ?」」
「いいからいいから」
勧められるがままに飲むと、ほのかに甘いミルクだった
「「おいしい」」
「えへへ、気分だけ〜」
「お、ミウ様、何を飲んでいるのかな?」
ウォーレンが興味を持つ。
「皇帝はこっちね」
お内裏様の皇帝に白いお酒を注ぐ
「これはミードだな」
「私にもいただけるかしら」
「いいよ」
おひなさまのイザベラもほんのり赤い顔をして楽しんだ
宮廷音楽隊が奏でる音楽はひな祭りとは違うが、それはそれで趣があるものだった。
リリとルルも獣人3人も楽しんでいるようだ。
「どうだった? ひな祭り」
2人が期待した顔で見てくる。
「最高!」
美羽が満面の笑みで答える。
「「よかった」」
クララとレーチェルも嬉しそうに笑う。
「また来年もやろうね」
「「ねー」」