図書館
集合場所に到着した純太は冷静になっていた。一体なんの用で呼び出されたと言うのだろう?
「あ!ごめんごめん、まったー?」
遠くから渡辺が走ってくる。
「いや、今来たとこ。」
「おお、私の予想だと、結構まったよ。とか言われるかと思ったのに意外と気が利いたこと言えんじゃん!」
このシチュエーションには覚えがあった。
「ちょっと前例があってな。」
「ふーん、まあ、服を褒めてくれなかったのは減点だけどね!」
注文が多いな。このまま普通に褒めるのもなんだか癪に思った。
「カワイイフクダネ、これでいいか?」
「なんかカタゴトー。」
ここまでリンクしているとは、少し怖いくらいだ。やっぱり彼女は本当に似ている。
「ところで、今日はなんの用だ?」
「あー、そうだったそうだった。えーとね、今日は色々することがありまして、」
ごほん!と咳払いをして、渡辺は口を開いた。
「まずは君のその髪!どんだけ鬱陶しいのよ!毎度毎度気が散ってしょうがないんだから!切りに行くよ!」
「え?切りに行くって…別に切りたくないんだけど。」
これまた随分と急なことを言うものだ。
「いいからいいから!顔はいいんだから!気にするところゼロだよ?」
そう言うと渡辺は俺の手をいきなりとって強引に引っ張った。別に顔にコンプレックスがある訳では無い。だがしかし、めんどくさいという理由以外に切らない理由もない。純太はもう流れに身を任せることにした。
「おいおい!」
強引に引っ張られるのを強く否定できないのは、やはりこの感覚に懐かしさを覚えているからだろう。
「どんな風に頼めばいいんだ?」
「えー?適当にかっこよくしてくださいっていえばいいんだよ、向こうはプロなんだから。自動的に似合うような髪型にしてくれるよ!」
自分が連れてきたくせに適当だな、と純太は頭の中でボヤいた。
今までは、鼻までかかって来るほど伸びたら自分で切っていたから美容院なんで随分と久しぶりだ。正直、髪を短くするのには抵抗があった。昔、長い方がいいと言ってくれた人がいたから……でも、この髪を短くするいいきっかけかもしれない。
「今日はどんな風にしますか?」
「あ、あー適当にかっこよくしてください。」
結局渡辺の言った通りに言ってしまった。
「おお!結構似合ってんじゃん!いい感じいい感じ!」
「そ、そうか?ありがとう。」
「よし!じゃあ次だね!」
「え?まだあるのか?」
「次が本命だよ。霊関係の事ね。図書館に行くよ!」
渡辺はそう言うと、俺のことを急かした。図書館に向かう途中、公園を通り過ぎようとした時、公園から1匹の猫が出てきた。
「おっ、猫だ。」
指を指して渡辺の方を見る。だが渡辺の様子は可愛い猫を見つけて興奮している、というより、純太のかげに隠れているような形になっていた。
「猫、苦手なのか?」
「うん……私、どうも猫に好かれないような体質らしくて、私を見るといつも威嚇してくるの、私は私の事嫌いなものが苦手なんだよね。」
猫が苦手なんて珍しい人もいるもんだ。あんなに可愛いというのに...
「その点、犬はよく懐いてくれるから好き。」
俺は動物全般が好きだ。前に家でインコを飼っていた。言葉がわかっていないと知りながらも、相談によく乗ってもらっていた。
だが、家族全員がいる時に相談内容をリピートしだしてからはもうそんなことはしなくなった。
「図書館には何しに行くんだ?」
「学校じゃなくても呼び出せるか気になってね。」
なるほど、今から図書館で【月夜の君へ】を探すのか。
図書館につく。この図書館はかなり広く、とても居心地いいので俺はここの常連と言ってもいいほどここに通っている。
純太は吸い付かれるように、隅のテーブルに目をやった。そこにはもう彼女はいない。もうすぐ1年経つ。純太は今ここにいて、あの席は変わらずあそこにずっとある。ここにないのは彼女だけだ。彼女の存在だけが、この空間から消えてしまったような気がした。
「どうしたの?」
ぼーとしていた純太に渡辺が声をかけた。
「あー、なんでもないよ。」
純太は再び本棚に目を戻した。
「うーん、泉レン泉レン。あ!あった!あったよ園田くん!」
「あったか?」
「えっとー、あれ?でも例の本がありませんな。」
有名な本だからこの大きな図書館に無いということはないだろう。
「借りられてるのかもな。」
「うーん。じゃあ次の機会だね...。」
(次の機会もあるのか...)立ち上がり、じゃあ帰るか。と言おうと思った時
「ところで、ひとつ頼み事があってさ、いいかな?」
「内容によるな。」
渡辺はポリポリと頬をかくと言った。
「実はさ、私って1年の時数学がほぼ全て赤点だったの、」
「お、おおそれは随分と酷いな...」
渡辺は恥ずかしそうにしていたが、吹っ切れたのか声を少し大きくした。
「そう!そうなの。私の成績は酷いの!だからさ、私に勉強、教えてくれない?園田くん。頭いいんだよね?!」
「頭がいいって誰に聞いたんだ?そもそも頭いいやつなんて他にもいるだろ?」
「三島くんに聞いたんだよ。園田くんって毎回学年10位以内なんでしょ?それに私の周りってちゃんと勉強してるような人いないからさ。君くらいなんだよ。私の知り合いで勉強が出来んの。」
晃大か、勝手に人の情報を言いやがって……自分の情報は多くの人に知られれば知られるほど自分に不利益が及ぶと純太は考えている。頭が言いとバレれば、勉強を教えろとせがんで来るやつがいるし、運動ができるとバレれば、荷物を運ぶのを手伝えと言ってくるやつもいる。やはり人に自分のことを知られるというのはいいことがないとは言わないが、俺は嫌いだ。
「ね?いいでしょ?」
だが、今回の場合は違った。何故か渡辺のお願いだけは断れない。別に用事があったわけではないのでそのお願いを受けることにした。案外俺は押しに弱いのかもしれない。純太は自分のチョロさが心配になった。
「勉強道具は持ってきたのか?」
「うん!もちろん。」
持っていたカバンから教科書を出しながら言った。最初から教えてもらうつもりでいたらしい。もしかして図書館にきた本当の理由はこれなのかもしれない。ちゃっかりしているな、と純太は苦笑した。
時間も過ぎ、あたりは暗くなってきた。
「ていうか、なんでいきなり勉強しようと思ったんだ?テストも1ヶ月後だからまだ時間あるのに。」
「あー、私毎回赤点って言ったよね?つまり毎年毎年夏休みがかなり潰れるんだよね。それで私の知り合いで1番頭のいい君に教えてもらおうって思ったのさ。」
「なるほどな、」
「だから時々勉強付き合ってよ。」
「暇だったらな...」
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「さっすがじゅんた!また勉強付き合ってね!」
脳裏に彼女の声が聞こえた気がした。
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ひさしぶりの勉強会はここらで解散となった。