小説家
彼は一個上の学年で名前は泉辺清と言うらしい。
泉レンのレンというのは一体どこから出てきたのだろう。
学校に行くのが少し楽しみになった。
次の日も千代は図書室へ寄った。すると、清は昨日と同じ、窓の近くの席に座っていた。途中までしか読んでいないが、早く本の感想を言いたくて駆け寄った。
駆け寄って来た人物に気づくと清は少し笑顔になって手を振りながら言った。
「昨日言っていた原本。持ってきたんだ。」
清は原稿用紙の束が入った封筒を差し出した。
「すごい。手書きで書いてるんですね!」
「パソコンとか機械が苦手なんだよね。」
「そうなんですね。とても丁寧で、すごいです!」
原稿用紙の束に目を通す。そこにはきれいな字で、ぎっしりと文字が書かれていた。所々赤ペンで修正されていて、考え抜かれて作られているということがわかる。
「そういえば、さっきなんて言おうと思ってたんだ?」
「あー、そうだった。私、読みましたよ!まだ3分の1くらいだけど新作の【茨の回廊】!」
そう言うと清は驚いた顔になる。
「もう3分の1も読んだの?!600ページくらいあるはずなんだけど……。」
「それだけ面白かったんですよ!あの主人公が崖の下を見下ろすシーンで━━━━━━━━」
感想をとても早口で伝えた。その間、清は嬉しそうにそれを聞いてくれた。それがとても嬉しくて、ついつい話しすぎてしまった。
とても楽しい時間だった。
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頬杖をつきながら話をしていた佐藤が大きなあくびをした。霊でもあくびとかするんだななんて呑気に考えていると、佐藤さんの体がすけ始めた。
「えっ!?どうして?」
佐藤の目元には涙が浮かんでいた。おそらくあくびをしたせいだろう。あくびの涙もカウントされるようだ。
少しして、彼女は完全に目の前から消えた。霊は一度呼び出すと、もう一度呼び出すまで日付が変わるのを待たなければならない。
横を見る。渡辺はまだなにやら考えているようだ。ちゃんと話を聞いていたのだろうか。
「なあ、さっきから何考え事をしてるんだ?」
「あー。これ、まだ確証はないんだけどね、私のお母さんの旧姓、泉って言うんだけど……何か関係ないかな?」
佐藤さんが現れるトリガーは渡辺が【月夜の君へ】という本に触れた時だ。絶対に関係あるだろう。
明日から週末で学校が休みだ。帰り際、校門前で週明けの作戦会議をした。
「親族に小説家がいるって言う話しは聞いたことあるか?」
「うーん、どうだったかなー。多分、ないと思う。」
「そうか、じゃあちょっと家族に聞いてみておいてくれ。」
「了解です!」
渡辺は敬礼する格好をすると、
「じゃあね!」手を振ってわかれた。
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私は園田くんとわかれると家に向かって歩き出した。私の家は高校から徒歩20分程度で行ける距離でまあまあ近い。だから電車通学なんて少し憧れる。
「ただいまー。」
家に入ると、自分の部屋に荷物を下ろす。引っかかっていることが沢山ある。泉という苗字、聞き覚えのある清という名前。
考えていると、「ご飯できてるよ。」という母の声が聞こえてきた。
「ねえお母さん。」
「なにー?」
「家族にさ、小説家の人っていたりしなかった?」
お母さんはすこし驚いた顔をした。
「あんたに話したっけ?私の弟の清。あんたにとっては叔父さんね、昔売れっ子小説家だったのよ。秘密にしたいようだったからあまり人には話さなかったんだけど……。私口滑らしちゃた?」
叔父さん、これを聞いてハッとした。遠い昔の記憶。清おじさんに遊んでもらっていた。
「あんたが8歳くらいの時にアメリカに行っちゃってそれっきり会ってなかったわよね。」
そうだ清おじさんだ。清おじさんが泉レンだったのか!これは園田くんに直ぐに報告しなくては。
唯はご飯じゃわんの中の米をかきこんだ。
「そうそう!そういえば清おじさん、再来週あたりに帰ってくるらしいわよ。こっちにも寄るって。」
「そうなの!?」
「そうそう。久しぶりね、変わってるかしら。」
なんてタイミングがいいんだろう。
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ブーブー、スマホが震える。スマホが鳴るなんて随分と久しぶりのことだ。画面を見ると、最近追加されたばかりの名前、渡辺唯と書いてあった。
今日直ぐに報告できるようにと、半ば強制的に連絡先を交換された。
メールを確認する。内容を見て純太は驚いた。泉レンが渡辺の叔父さんだったということ、再来週に帰ってくるということを知った。
あまりスマホの必要性を感じたことがなかったが、こういう時役に立つものだ。
ブーブー、またスマホが鳴る。今度はなんだ?そこにはこう書いてあった。
明日、暇?暇なら1時半に駅前集合ね!じゃ、そういうことで。
一体何だ?いきなり出かけようだなんて、
あいにくと、明日は暇だ。そして、こんなふうに振り回されるのはなんだか懐かしくて、心地がいい。これだけで純太がどう答えるかは決まっていた。