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過去

 参ったな……佐藤さんにどうやって説明しようか。ストレートにあなたはもう死んでしまっているなんて言ってしまっては少なからずショックを受けるだろう。


(よし、ここはいったん話題を逸らそう。)


 そう決心し、て純太は口を開く。


「あの、佐藤さ━━」


 この時、ずっと黙っていた渡辺がいきなり会話に割り込む形で言った。


「佐藤さん、あなた死んじゃったんだよ。今のあなたは霊ってわけ。」


「なっ!」


 あまりにデリカシーのない言動に純太は思わず声を出した。まずい、佐藤さんは大丈夫だろうか?彼女に視線を戻す。


「そう……何となくわかっていたわ。もしかしたらって……」


 佐藤は低い声で言った。

 意外となんともなさそうな彼女の反応に、考えすぎだったかと思い、早速本題に入ろうとした時。佐藤は続けた。


「もしかしたら、もしかしたら私、まだ。まだ生きて…また(きよし)さんに会えるかもって」


 ここまで言って佐藤は泣き出してしまった。


「……ほんのちょっとだけ……、、期待しちゃってた。」


 霊には消えるのにもトリガーがある。出現してから3時間経つか、もうひとつ。霊によって変わるトリガーが、彼女の場合。前回も消える前に流していたところを見るに、それは泣くことだったらしい。これだけ言い残すと、彼女は消えてしまった。

 俺は渡辺に対し、不満を口にした。あれだけストレートにしかも軽い感じで、言ったのなら泣かれても無理は無い。


「おい、お前があんなにストレートに言うから……」


「じゃあいつ言うつもりだったの?絶対いつか言わないといけないんだから、早めに言った方が彼女のためになるんじゃないの?」


 正論に俺は黙り込む。正論は嫌いだ。自分の逃げ道を勝手な正義で塞がれているような気がするから。しかし今回は考え無しだったのは俺の方だったようだ。


「というか、私は君が言ってくれるのを私は期待していたんだけどなー。」


 ここは食い下がることにする。


「悪いな、人の気持ちを考えるのは苦手なんだ。」


 とりあえず、彼女の出現の条件に時間はないということが分かった。というか、彼女が言っていた清さんとは誰のことだろう?後々聞くか……。


「じゃあ、今日はこれで解散だな。」


「了解!明日も同じ時間ね!」


 清ってどっかで聞いたことあんだよなー。渡辺唯はそんなことをかんえながら帰った。


 次の日も放課後、また図書室に集合した。生徒が全員帰るか部活に行くのを待つと今日も前回と同じく霊を呼び出す。


「よし、早速検証だ。」


「りょうかーい!」


 渡辺は敬礼するポーズをとると、【月夜の君へ】以外の本に触れた。が、何も起こらなかった。

 次は純太が【月夜の君へ】に触れた。これもやはり何も起きない。これで条件がわかった。霊が発生するのは、渡辺が【月夜の君へ】に触れるというのが発生の条件だったらしい。


 最後に、渡辺が【月夜の君へ】に触れた。すると思っていた通り、強い光が発せられた。そうして、次の瞬間には佐藤さんが目の前にいた。


「こんにちは、佐藤さん。」


 純太はできるだけ優しい声で言った。また泣かれて消えてしまっては困る。できれば、俺はこの霊の未練を叶えてみたいと思っている。気を紛らわすための手段と言うだけだが、

 言うならば、陰陽師の真似事をしようということだ。


「すいません、私……」


 彼女の涙は止まっていた。でも、すぐにでも泣き出しそうな顔をしていた。

 次に口を開いたのは渡辺だった。


「あのう…あなたのこと、私たちに教えて欲しくて……いいかな?」


 佐藤は霊について一般常識程度の知識は持っているようで、スムーズに話が進んだ。


「私に未練があるとするならば、たぶん……清さんだと思います。」


「清さん?」


「はい。清さんです。」


 佐藤はあとは黙々と話し始めた。



 これは少し昔、この学校で起きた物語。

 _________私は本が好きだ。本の中の物語はどうしようもない現実を忘れさせてくれた。特に作家の「泉レン」の作品がお気に入りだ。今日も学校が終わった後、図書室による。泉レンの作品が新しく入るらしい。

 心を踊らせて図書室の扉を開く。そうして本棚の方へ向かった。


「えーと、泉レン、泉レンはっと……あれ?」


 おかしい。確かに今日、本が図書室に来る予定だったというのに……

 ガタッという椅子の音が聞こえて横を見る。図書室の椅子には1人の男の人が座っていた。眼鏡をつけていて髪が長い。しかしすらっと背が高く、綺麗な目をしていた。


 その人が読んでいる本に目をやる。


「あっ!」


 思わず大きな声を出してしまった。彼が持っていたのは今日楽しみにしていた泉レンの新作だったのだ。

 男の人が千代の声に驚いてこちらを見る。目と目があってしまった。


「あのー、どうしたんですか?」


「えっと、そ、その本。」


 男の人は自分が持っている本に目をやる。


「これ?これがどうしたの?」


「あの、私、泉レンが好きで……」


 そう言った瞬間、さっきまで面倒くさそうにしていた彼の目が輝いた。


「えっ!泉レン好きなの?!うわっ嬉しい。実は僕、小説書いててさ、泉レンって名前で。」


 ━━━━━━━━━━━━━━━


「泉レンって【月夜の君へ】の作者だよな、俺、結構好きなんだ。泉レンの作品」


「い、いいですよね!泉レン!特に、【茨の回廊】とか!」


 佐藤さんはよくわかっているようだ。本の趣味はかなり会うかもしれない。それに、本物の泉レンがこの学校の卒業だなんて……自分のプライベートな情報を一切出さない泉レンは性別も本名も全て匿名だ。それに、泉レンが活躍していたのは10何年かまえのことだ。

 趣味を持つのはいい。それに没頭している間はその事しか考えなくなるから一時的に現実を忘れられる。

 少し熱も治まって冷静になると、2人は泉レンについて渡辺放ったらかしで喋っていてしまったことに気がついた。


「ごっ、ごめんなさい!じゃあ続き話しますね。」


 だが、渡辺は少し考える様子で、「泉レン、泉レン」と呟いていた。


「どうした?渡辺さん。」


「ふぁ!ご、ごめん。なんでもないから続けて!」


 とてもなんでもないというふうな感じではなかったが、佐藤は続きを話し始めた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━



 千代の思考はこの時完全にフリーズした。まさか本物?


「この本、図書室に来たばっかだからさ、もしかして、これ借りに来てくれたの?」


「は、はいそうなんです!っていうか、本当なんですか?!あなたが泉レンって!」


 自分でこんな大きな声が出せたんだと少し驚いた。


「本当だよ。なんなら、その本の原本でも見る?」


「い、いいんですか?!」


 その男の人は少し笑うと


「いいよ。今度持ってきてあげる。いつでも図書室においで、僕は図書委員だから。だいたい放課後、ここにいるよ。」


 と言ってくれた。


 学校から家に帰る。荷物を置くと、すぐに病院へ行った。千代にとってはもう、ここが半分自分の家みたいなものだ。毎日毎日ここで検査を受ける。病気が発覚したのは昨年の春、高校2年の時のことだ。

 運が悪かった。初めの方はこんな重い病気なんて思いもしなかったし、もうほぼ手遅れなんてことも思いもしなかった。

 心臓が正常に動かなくなる病気だ。移植する心臓も見つからない。万事休すだ。

 これがわかってからもわがままを言って学校へかよわせて貰っている。もうすぐ死ぬんなら自分の好きなようにしたい。最後まで元気なままでみんなの頭の中にのこりたいのだ。

 その代わり、毎日病院で検査を受けることになっている。

 今日も病院のベットの上で本を開く。


「やっぱり面白いな。」


 泉レンの本はいつも私をどうしようもない現実から引き離してくれた。














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