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未練

 昨日雨が降っていたからか、今日は雲ひとつない快晴だ。


 今日、まなはあの公園に現れる予定である。俺は朝起きてすぐに、出かける準備を始めた。家を出る前、自分の頬を叩いて決意を固める。


 俺は、まなに伝えるんだ。この思いを


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 公園には予定の30分近く早くついた。雨もない、晴れた日のいつもの公園。その光景が懐かしいからか、たくさんの記憶が呼び起こされた。


 そして、その記憶のどれを見ても、まなが一緒いた。俺にとってまなはもう人生の1部になっていた。


 背後からいきなり声が聞こえる。


「懐かしいなー、ここ」


「、、、いつもいきなり現れるよな。」


「だってびっくりしてるじゅんたが面白いんだもん、今回はあんまり驚いてなかったけど」


「……………」


 まなは公園の隅にある腰掛けて、隣をポンポンと叩きそこに座るよう促す。


「ねえ、覚えてる?昔私が木から落っこちそうになった時のこと」


 俺はそこへ座りながら答える

 

「そんなことも、あった気がする」


「そうそう、ボールが木に引っかかっちゃって、じゅんたはやめとけって言ってくれたのに、私が木の上に登って、案の定落っこちて、じゅんたが下で支えてくれなかったら、私その時に死んでたね。」


 苦い思い出を語り、申し訳なさそうにまなが笑う。


「………そうかもな」


 しばらくの間、俺たちは懐かしい思い出を語り合った。


「沢山、私じゅんたに助けられてきたの。受験がんばれたのだってじゅんたのおかげだし、ひとりぼっちだった私に話しかけてくれたし、危ない時はいつも助けてくれたし、、、他にも………沢山。だからね、だからね、ありがとうね。じゅんた。」


 最後まで、泣かないつもりだったのに、じゅんたの前ではずっと笑っているつもりだったのに、私の意思とは裏腹に、涙はとめどなく流れ出した。


 じゅんたはそんな私を見て言った。


「あのさ、まな」


「………なに?」


 もったいぶることなく、ゆっくりと口を開く。今しかない。これを言うなら今しかないと思った。


「俺さ、まなのことが好きだ。」


「え?」


「俺、ずっとまなのことが好きだった」


 時間が止まったような気がした。十数年生きてきて、ずっとずっと待っていた言葉、言って欲しかった言葉、


「じゅんた、」


「うん、」


「大好き、」


「………俺もだ」


 気づいたらまなに抱きつかれていた。どうしてもっと早く言えなかったんだろう。つくづく、俺は馬鹿だと思う。


 まなは俺の肩に顔をうずめたまま言う。涙は、まだ止まっていなかった


「私、ずっと好きだったんだから!そう言って貰うのをずっと待ってたんだからね!」


「遅くなって、ごめんな」


「結婚の約束も忘れちゃってたし、鈍感じゅんた!」


「………ごめん」


 まなが俺を抱きしめる腕がいっそう強くなる。


「でも、許してあげる。ちゃんと言ってくれたから」


 俺の肩にうずめていた顔を上げ、まなはこちらを向く。次の瞬間、まなの柔らかい唇が俺の唇に触れた。


 しばらくそうしていたあと、名残り惜しい気持ちもあるが、俺たちは唇を離した。


「せっかく告白してくれたんだから、返事、しないとね。」


「………ああ」


「私も、ずっとずっとずっと、じゅんたのことが好きだった。一人ぼっちの私に声をかけてくれたあの日から、じゅんたは私の中で輝いてた。水族館なんて、目じゃないくらい。だから、だからさ、」


 まなの声はとても弱々しかった。


「私が消えちゃうまでの残りの数分だけでいいから、私と付き合ってください。」


「………ああ、喜んで」


「…………やった、初めて彼氏が出来ちゃった。」


「はは、そうだな」


 そこからは、手を繋いで、ベンチの座って公園を眺めた。


「ねえ、結婚の約束の事なんだけどさ、」


「ああ」


「あれ、無かったことにしていいよ。」


「………なんで?」


「じゅんたには、幸せになって欲しいから。この約束にずっと囚われて欲しくないの」


「でも━━」


 まなは俺の言葉を大きな声で遮る。


「その代わり!!絶対に絶対に、来世では私と結婚してよね!これ、約束だから。破ったら許さないから!」


 その言葉に俺は目を見開いた。


「…………わかった。絶対に来世は結婚しよう。」


「今度こそ、忘れちゃだめだからね!」


「忘れないよ、ぜったいに」


「絶対だからね!」


「たとえどんな事があっても、君と出会ってみせる。君を幸せにする!」


「うん!約束ね」


「約束だ」


 だんだんとまなの体が透けていくのがわかった。


「もうすぐかな」


「予定より、早くないか?」


「それはね、私の未練が叶ったからだよ。」


「未練?」


「そう、私の未練はね、じゅんたに告白してもらう事。そして、好きって言うこと。」


「そっか、、、」


「もうほんとに時間かな、、、」


 まなはぴょいっと立ち上がると、後ろに手を組み、笑顔で振り向いた。


「じゅんた!!だーーーいすき!」


 咄嗟に、消える寸前のまなへと手を伸ばす。届きそうだ。もうすぐ手が届く、


「まな、」


 手が届くあと一歩というところでまなは目の前から消えた。勢い余って、さっきまでまながいた場所を通り越す。


「俺も、俺も大好きだ」


 その場所には、公園の喧騒だけが残った。



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