約束
そこからの日々は本当に早いものだった。いっときいっときを大切にしてきたつもりだったが、時間というものは待つということを知らずに、むしろどんどん早く過ぎていったような気がした。
「はあ、もう明日で最後か、私が出てこれるのも」
「ああ、そうだな……」
「寂しくなるよ、ほんとに」
先輩も今日はいつものテンションと違い、少しドライになっている気がした。
「私たちは今日で最後だしね。」
日記の日付は明日で止まっている。まなが現れる最後の日だ。その日は2人きりで話したいと言い出したのはまなだった。だから、この2人はまなと会えるのは今日で最後だ。
俺も2人で話したいことがあったので、ちょうどいい。
今日はみんなでゲームをした。夏休みの1ヶ月間、みんなで集まって遊んだ。そのもう見慣れたその光景も、今日で見納めだ。すっかりみんな打ち解けていた。
もしもあの事故が無かったら、これからもずっと、この光景が続いていたのかもしれないな………
「まなさん、短い間だったけどさ、ほんとにありがとね、、、楽しかったよ」
「うん!私も楽しかったよ、」
「会えてよかったよ、私が勝負事で負けることなんて、今まで無かったから、本当に悔しかったんだけどね。」
「ふふふ、もっと沢山一緒にゲームしたかったね」
「そうだね……」
「あれあれ、先輩、ちょっとうるっと来ちゃってる?」
先輩はふいっと後ろうむいて言った。
「まさか、そんなわけないだろ?」
本当に、素直じゃない人だ。
「そうそう、じゅんた」
「なんだよ?」
「今日さ、タイムカプセル、掘り起こしといてよ。」
「タイムカプセル?」
「ほら、結構前に2人で埋めたじゃん」
遠い記憶を呼び起こす。確かに、そんなこともあったな。
━━━━━━━━━━━━━━━
いつもの公園でタイムカプセルを埋めたりもした。お互いの埋めたものは未来のお楽しみということで、
━━━━━━━━━━━━━━━
「わかったよ、見ておく。」
「うん!そこに紙が入ってると思うんだけど、それ、読んでおいてよ。」
「ああ、」
「じゃ!そういうことで、みんなありがとうね。バイバイ、じゅんたはまた明日!」
「うん、さよなら」
その場には3人だけが残された。少しの間、誰も口を開かなかった。
「じゃあ、私たちも帰るとしよう。行こうか、渡辺さん。」
「そうですね………じゃあね、じゅんたくん。」
「ああ」
━━━━━━━━━━━━━━━
さて、俺はタイムカプセルでも掘り起こしに行くか。
近所にある小さな公園、そこで俺たちは毎日のように遊んでいた。
そこにあるベンチの横、そこにタイムカプセルを埋めたはずだ。
「おっと、雨か……」
傘を片手に小さなスコップを持って、俺は外へ出た。
雨のおかげで公園には誰も人がいなかった。ベンチの横で1人で土を掘り出す変な人にはならずにすんだようだ。
「確かここら辺だったよな……」
湿って柔らかくなった土にスコップを差し込む。しばらく掘っていると、すぐに何か固いものに当たった。
これか……
アルミでできたお菓子の箱についている土を片手で払う。
少し古いその箱の蓋をゆっくりと開けた。
「うわ、懐かしいな……」
そこに入っていたのは、イカスミマンのフィギュアや、あのころは宝物だったビー玉、まなの昔つけていたリボン、そして……ひとつの紙切れ、
「これを読めばいいのか?」
大事そうに4つ折りにされていたそれを恐る恐る広げ、中身を確認する。
「これって…………」
そこには、汚い字で、しかしその頃の俺たちができる限り丁寧に書いたであろう文字で、
【こんいんとどけ】
と書いてあった。その下には俺たち2人の名前が、書いてある。
どうして忘れていたのだろう。というより、俺は色々な大事な事を忘れすぎていた。
━━━━━━━━━━━━━━━
ある日、まなちゃんは僕に言った。
「ねえねえ!私たち、けっこんしない?」
「え?けっこんってなに?」
「なんかね、けっこんするとずっとずっと一緒にいられるんだって!」
それに僕はあまり考えずに答えた。
「へーじゃあ、僕まなちゃんとけっこんする!」
「やったぁ。やくそくね!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「私ね、好きな人がいるの、もうその人とは結婚の約束もしちゃったし、付き合うならその人だけかな」
━━━━━━━━━━━━━━━
まなは、ずっとずっと、ずっと俺との約束を覚えて、そして、こんな小さな頃にした約束を、今までずっと守って来た。俺は、すっかり忘れていたというのに、
「ははは……本当に、馬鹿だな、俺って」
無性にまなに会いたくなった。
涙は、雨のおかげで目立つことは無かった。服が汚れることもいとわずに、俺は地面に膝を着いた。




