落ち度
その後は他愛のない話をした。懐かしい思い出の話をした。ずっと一緒にいた幼なじみとの会話で、話題が尽きることは無かった。
時計の針が5時を指す。それと同時に、佐藤さんと同じようにまなは消えた。
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今日から部活が始まるということで唯は張り切っていた。2時に部室集合、夏休み中に学校へ行くなんて今まで部活動をしていなかった唯からすると初めてのことだ。
自分一人では到底なし得なかったことが最近は沢山できるようになった。
昼休みに友達とご飯を食べたり、部活動をしたり、どこかに遊びに行ったり、これも園田くんと快く部活に入れてくれた倉本先輩のおかげだ。
というか、あの二人はどこで知り合ったのだろうか。それに、2人は一体どういう関係なのだろうか。
そんな事を考えて少しモヤモヤする気持ちを持ちながらも学校に到着する。
部室に入ると、先輩が出迎えてくれた。
「やあ、少し早いね。」
「先輩も早いですね。」
「後は園田くんか。ん、噂をすれば。」
ガラガラ、という扉の音と共に園田くんは部室に入ってきた。
心なしか少し気分が優れていないように見える。
「こんにちは。」
と軽く挨拶をして彼は自分の椅子に座る。
「で、今日は何をするんですか?」
園田くんがそう言うと、先輩はいきなり園田くんの顔を覗き込んだ。
「君、気分でも優れないかい?いや、なんだか悩みがあるようだが、どうしたのかな?」
園田くんは溜息をつき、
「気づかれないようにしていたつもりなんですけどね、やっぱり先輩には敵わない。」
と言った。やっぱり先輩に隠し事なんて出来なそうだな。
「まあ一応、人間観察部の部長だからね。で、何があったんだい?言いたくないのなら、これ以上は追求しないが。」
「…………いえ、言います。」
それからゆっくりと、園田くんは話し始めた。
「実は、また霊が出てきて…その霊が━━━━━」
「え!?」
驚いて口から声が出てしまっていた。
先輩はと言うとしばらく黙った後、興奮した様子で園田くんの話に割り込んだ。
「れ、霊が出たって?あの、今度1度話してみてもいいかな?1度霊の話を聞いてみたかったんだ。」
落ち着いて喋っているようだが、かなり早口になっている。
「それで、その事なんですが。その霊が俺の………幼なじみなんです、」
その後は淡々と、過去にあった全てのことを細かく説明してくれた。
「そんなことが、あったんだね……」
私の後に先輩も口を開く。
「………それで、私たちは何をすればいいのかな?」
「はい、彼女、まなを……成仏させる手助けをして貰えないでしょうか?」
成仏させる、霊になったという事は何らかの未練があるということ。園田くんはそのまなさんの未練を叶えてあげたいと考えているのだろう。
「君、罪悪感はあるかい?」
先輩がいきなりそんなことを言う。
「え?」
「彼女が死んでしまった事は自分のせいとか、思っているかい?」
「……なんでそう思ったんですか、」
「なんだろうね、君はなんだか極端な所があるからね。そこは君の長所でもあるが、多くの場合短所にもなり得る。目の前で今までずっと一緒にいた幼なじみを失ったんだ。とても悲しかっただろう。しかし、それを誰かにぶつけることはできない。そこで、極端な君は全ての責任を自分に押し付けて、そして、その悲しみの矛先を自分へ向け、自分を責め続けることで、ほんの少しだけ楽になったのだろう?」
「そう、かもしれません。」
「でも、そのやり方は間違っている。とまでは言わないが、正解では無い。私が今から言うことも、正解とは限らないんだけどね………、君のやり方をしてしまった場合、その後悔は一生まとわりついてくる。思い起こす度に、後悔し、辛さを思い出し、そして自分を責める。そしてその度に君は自分を自分で傷つける。」
「……」
「言わば、それは一時的にしか効き目のない、麻薬のようなものだね。その罪滅ぼしとして彼女の未練を叶えようとしているように、私は見えたんだ。ただ、そんな理由でやる必要はないと思っただけだよ。」
「でも、悪いのは……俺なんです。」
「なぜ?」
「俺が、あの日まなに話しかけたから、ずっといっしょにいたから、あの日、家の外に出たから、ボーとしていたから、やっぱり全部俺のせいなんです。」
「まあ、それも要因の一つと言えばそうかもしれないな。だが、悪いのは信号無視をしたトラック運転手だろ?君に落ち度はなかったよ。」
「そう、でしょうか?」
「勿論だとも。」
純太は少し笑うと、
「あなたが言うと、本当に説得力がありますね。」
と言った。
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「まあ、だから部長命令。もうこのことで自分を責める事を許さない。」
渡辺も、話に入ってくる。
「そうだよ園田くん。園田くんはなんも悪くないよ。」
「、、わかった、もうそう思うのはやめにするよ。。」
「よろしい。で、君は罪滅ぼしをする必要がなくなった訳だが……それでも彼女の未練を叶えたいと思うかい?」
「はい、もちろん。」
「そうと決まれば、早速行こうか。」
先輩がそう言うと、渡辺さんと倉本先輩が立ち上がった。
「今からですか?」
「当たり前でしょ。園田くんの幼なじみ、どんな感じなのか。気になるもん………そういえば、女の子なんだよね?」
「そうだけど、それがどうしたんだ?」
「な、なんでもないよ。」
何やら先輩がこちらを見てニヤニヤ笑っている。嫌な予感がするが、こんなに頼もしい人は居ないだろう。重くなっていた俺の心は少し軽くなった気がした。




