長いプロローグ
「ねえねえじゅんた!」
「なんだよ。」
「もう一週間も勉強したじゃん?だからさ、勉強教えてもらったお礼に今度どこか行かない?たとえば水族館とか!」
まなは昔から魚が好きだ。本当は自分で行きたいだけだろ。と、頭の中でボヤいた。
「まあ、勉強って言ってもほぼサボってたけどな。
「細かいことを気にするとモテないよ?」
「はいはい、いつにする?」
そう言うと嬉しそうににっこり笑って「じゃあー二十日とかどう?」と言った。
「よっ、来たよ。」
まなは最近、毎日うちに来て漫画を読み漁ったり、ゲームをして行ったりしている。本当にとんだ迷惑だ。
「ここだ!」
「うわーー!そのコンボずるくないか?!ほぼ即死だぞ。」
「ふっふっふ。いつも勉強ばかりしているじゅんたとは違うのだよ。」
「自慢げに言うことじゃねえぞ。俺もなんかコンボ覚えたいな。」
やっぱりまなはとてもゲームが上手い。
「ていうかさー、じゅんたっていつから一人称「俺」になったの?前は僕だったよね?」
「あーたしかに。えーと、中三くらいからだったかなー。なんで?」
「なんか何となく気になってね。」
「ふーん。あ、もう五時だぞ。」
まなはいつも夕方には家に帰る。夏休みの宿題がまだ残っているから家でやるらしい。ここでやればいいと思ったが。うちにいるとゲームしたくなるからいいということだ。
「まったく、散らかしっぱなしで帰りやがって…明日は掃除させよ。」
夏休みはほぼまなと過ごしていた。そんな毎日を永遠と過ごしているうちにもう八月二十日。水族館に行く約束をした日だ。
水族館の入口で待っていると、まなが三分遅れでやってきた。
「ごめん!待った?」
「うん、待った。」
「もー、こういう時は「いや、待ってないよ、今来たとこ。」でしょ!」
勉強教えたお礼とか言ってたくせに注文多いな。と思いながらも、
「はいはい。マッテナイヨ、イマキタトコ」
と目の前の幼なじみの方を向いて言った。
あれ?
よく見るとこいつ、めっちゃ可愛くないか?
いつも俺の家でゴロゴロしている時のだらしない格好とは打って変わって、今日の服はまなの整った容姿をとてもよく引き立てていた。
可愛い。そんなことを不覚にも思ってしまった。
「もお!なにそれーカタゴトやめい!」
俺は少し笑いながら、
「じゃあ行くか!」
と言った。
よく考えてみれば水族館なんていつぶりだろう。もう二年は行ってなかった気がする。
「ふふ、楽しみ!」
今日のまなはいつにもまして上機嫌だ。水族館に入るなりすぐに水槽の方へ走って行った。俺はウキウキしているまなを、何故か、ずっと目で追ってしまっていた。
なんなんだこれは、今日は何故か妙に彼女のことを意識してしまう。
「うわぁー、見て見てじゅんたー。めっちゃでかいよ!」
大きなエイを指さしていた。
「おお!すげーな!」
たしかにこのエイはでかいしすごい。でも何故か、俺はまなから目が離せない。
「ねえじゅんたぁー、この魚可愛くない?」
「あ!亀がいる!」
「ウツボこわ!」
急にまなを意識し始めたせいで、なんだか緊張してしまった。なかなかいつものようにまなと目を合わせて話すことが出来ない。まあ、まなは今魚に夢中だから俺の変化にはきずいていないようだ。
この時間はあっという間にすぎてしまった。
「今日は楽しかったよ!ありがとーじゅんた。また行こうね!」
「ああ。また行こう!」
俺は、考えないようにしていただけなのかもしれない。
俺はとっくにまなのことを妹分なんて思っていなかった。
俺は…………
まなのことが好きなのだ。
結婚の約束をしている人がいようが関係ない。俺はこのまま伝えずにいるのは嫌だと思った。
夏休みが終わったら告白しよう。
心の中で固く決意した。
それからもまなはいつもと変わらずに俺の家に来てはゲームをしていた。
「ねえねえじゅんた。この漫画の続き借りて行ってもいい?」
「ああ、いいよ。」
「サンキュー。」
まなが帰ったあと、ふと、最近晃大やほかの友達と遊べていないことに気づいた。
たまにはあいつらと遊びにでも行くか。そう思い俺はスマートフォンを開いた。
「純太と遊ぶの久しぶりだな。」
「ああ、最近はぜんぜん遊べてなかったからな。」
まなと遊ぶのもいいけど、やっぱりいつものメンバーが集まると落ち着く気がした。
「カラオケなんて久しぶりだなー、」
「純太が来てないだけでみんなでよく来てたぜ、」
「えー、なんだよ誘ってくれよ。」
すると友人たちは顔を見合わせて、
「邪魔しちゃ悪いからな!」
とニヤニヤしながら言った。
久しぶりに皆と遊んで楽しかったが、ずっとからかわれていたので敵わない。
「じゃあまた遊ぼうな。」
そう言って俺は友人たちとわかれた。
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「うーん、宿題も終わってるし、のびのびとできていいねー。これこの前借りた漫画たちね!」
「あ!これ、どこへやったかと思っていたらお前が勝手に持って帰ってたのかよ!」
「ちゃんと貸してって言ったしー」
「俺は返事したのかよ?」
「うーいって言ってたよ、まったく。」
またいつものようにまなは家にきた。もうあと夏休みも二日だ。
「あーあ、もうすぐ終わっちゃうね。」
「そうだな。まあ楽しかったよ。」
「来年もまた一緒に水族館行こうね!」
「ああ、」
今度は恋人として行きたいな。そんなことを心の中で考えた
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次の日も、いつものようにまなは家にやってきた。
「あれ、飲み物ないな…俺下で買ってくるよ。」
「あ、私も行く!」
まながそう言ったので俺たちは2人で家を出る。
自販機は交差点を挟んで向こう側である。信号が変わるのを待って横断歩道を渡る。
意識し始めてからまなが横にいるとどうも落ち着かない。
俺の悪癖であるため息をつくと、いきなり後ろから大きな声が聞こえた。
「じゅんた!危ない。」
「え?」
ドン!という鈍い音と鋭いブレーキ音。それが耳に入った辺りからのことはあまり覚えていない。
信号無視のトラック。運が悪かった。
いや違う。
俺のせいだ。俺が不注意だったから。俺が飲み物を買いに行こうとなんてしたから。
俺を庇って死ぬことなんて、なかったのに……
俺のせいだ。




