長いプロローグ
僕らが初めて出会ったのは幼稚園の年中の時だ。転園してきた彼女は、なかなか周りの友達と馴染めずに一人でいることが多かった。だからといって幼稚園の頃の俺は一人でいるのをきずかって話しかけたりしたのでは無い。
たまたまその子が自分が好きだったアニメ番組のおもちゃを持っていたから話しかけただけだ。いま思えばこのとき話しかけていなければ…いや、出会っていなければ……まあそんなことはどうでもいい。ここから俺たちの長いプロローグが始まる。
「ねえねえ、そのおもちゃもしかしてイカスミマン?!」
僕はイカスミマンという番組が大好きだ。この一年は毎週そのアニメを楽しみにしていた。このアニメのヒーローであるイカスミマンのおもちゃは、ずっと欲しかったものだ。そんなとき、幼稚園でそれを持っている女の子を見つけてしまったのだ。その子はなんだかおどおどしながら
「……うん、そうだけど」
と答えた。
「やっぱり!すごいなーこれ欲しかったんだよ!いいなぁー」
興奮気味で言うとその子は
「イカスミマン好きなの?」
と食い気味で聞いてくる。
もちろん僕は「大好き!」と答えた。
その日からその子は、イカスミマンについて熱く語る友達になった。その子の名前は「ささきまな」というらしい。よく分からないけど、お父さんの仕事の都合でもといた場所から転園してきたのだという。
まなちゃんはいつもおどおどしていて、だれか別の友達が来ると僕の後ろに隠れてしまう。僕はそんなまなちゃんを見かねて言った。
「なんでそんなに僕の後ろに隠れるんだ?もっと話に行って友達つくってこいよ。」
するとまなちゃんはすこしふくれて、
「じゅんちゃんだけいればいいもん!」
と言った。まなちゃんは少し危なっかしいところがあり、兄弟に憧れていた僕は、兄貴分になったつもりで、ずっとまなちゃんを守ってあげなきゃ。と幼心に思っていた。
僕らはよく一緒に公園で遊ぶこともあった。イカスミマンごっこをしたり、砂で山を作ったりした。
そんなある日、まなちゃんは僕に言った。
「ねえねえ!私たちけっこんしない?」
「え?けっこんってなに?」
「なんかね、けっこんするとずっとずっと一緒にいられるんだって!」
それに僕はあまり考えずに答えた。
「へーじゃあ、僕まなちゃんとけっこんする!」
「やったぁ。やくそくね!」
そんなこんなで僕たちは同じ小学校に行くことになった。小学校二年生くらいまでは幼稚園と変わらず、まなちゃんは僕の背中に隠れてばっかりだった。 いつもの公園でタイムカプセルを埋めたりもした。お互いの埋めたものは未来のお楽しみということで、
でも僕が違うクラスになってしまった時に自分の妹分が一人になってしまうのが心配で「お前もそろそろ友達作れよ」と言うと、まなちゃんはだんだん周りと馴染めるようになってきた。
小学校三年にもなると、まなちゃんはクラスの人気者になっていた。嬉しい気持ちもあり、どこか……寂しくもあった。それでもまなちゃんはいつも僕にベったりだった。
「お前いつも佐々木と一緒にいるよなー。好きなの?」
ある日、友達にそんなことを言われる。恥ずかしくなって。
「いや、そんなことないよ?」
と、気にしていないように装って言った。よく考えて見れば、まなちゃんの距離はいつも近すぎる。少し距離を置こうと思った。
小学六年生にもなると前ほどまなは僕にベったりではなくなった。とは言っても、相変わらずまなとはよく遊んでいる。
「じゅんたぁー、今日一緒にゲームしよー」
「いいけど、何するの?」
まなはとてもゲームが好きだ。色んなゲームをしていてすべて僕より上手い。それで僕は毎日のようにゲームに付き合わせれていた。
僕たちはそのまま同じ中学校に入学した。彼女はすぐにクラスに馴染んで、人気者になった。時間がたつにつれだんだんまなちゃんと遊ぶことも減って来ているような気がして、少し寂しくなった。
「佐々木さんって可愛いよなー」
クラスの男子は時々こんなことを言う。
「そうかぁー?」
「はぁー?お前幼なじみなんだろ!?羨ましいなー」
周りのやつはよくそんなことを言うが、僕にとっては大事な妹分でそういう対象にはならない。頼れる兄貴分としてまなにふさわしい男を見極めてやろうと息巻いている。
「なぁー、紹介してくれよー。」
「やだよ。」
そう言うと僕はすぐに話を逸らした。
そうして中学二年生になると、なんだかまなと話すのが恥ずかしくなってきた。
「あ!じゅんたぁー。今日ゲームしよー。」
「あ、さ、佐々木。あーまあいいよ。」
こう言うとまなはいつもふくれて、
「もー!佐々木ってなに?あ、もしかして恥ずかしいのー?はは!前みたいにまなちゃんってよんでよー」
と、時々からかってくる。
中学三年生になった。俺は勉強ができる方だから、ここらでも有名な進学校を志望している。まなはと言うと、いつもゲームばかりだったので勉強はからっきしだった。
「すごいなー。じゅんたは勉強ができて、私も最近勉強頑張ってるのに、ぜんぜん追いつけないんだから。」
「お前とは積み上げてきたものが違うんだよ。っていうか、勉強頑張ってるんだな。どこか行きたい所とかあるのか?」
すると彼女はそっぽを向いて「まあね。」と言った。
その日あたりからまなは、あまりゲームをしなくなった。最近はかなり勉強に打ち込んでいるようだ。最初は雪でも降るのではないかと思ったが、まなの成績はぐんぐん伸びて行った。
「じつはさ、じゅんたと同じところに行くことにしたんだ。」
「へ?お前の行きたいところって俺と同じだったのか。」
「うん、そうなの。」
「へー頑張れよ。」
そう言うとまなは例のごとく頬をふくらませて、
「どんだけ感が悪いんだよー」
と純太に聞こえないような小さな声で呟いた。
そうして試験結果の発表日、俺たちは一緒に結果を見に行っていた。
183、183はあるかー?……お!あった。よかった、まなはどうだ?
「じゅーんたぁー!」
まなが笑顔でこちらを向いている。おそらく番号があったのだろう。そんなこんなで俺たちは高校に無事進学した。
「なあなあ、純太さんよー。あんたあの佐々木さんと幼なじみなんだって?頼むよ!紹介してくれ!」
高校でできた友達みんなに同じことを言われる。やはりまなはかなりモテるようだ。
「なあ、お前は彼氏とか作らないのか?」
昼休憩の時間に俺はまなに何となく聞いた。
「じゅんたがそういう話とは珍しいね。うーん、私は作らないかなー。」
「えー、もったいねーな。お前もてんのにな、勉強のせいで頭がおかしくなったんじゃないか?」
そういうとまなは少しムッとしたような顔をした。時々よく分からないところで怒ることがあるから気をつけてはいるが、今回もなにか間違えたらしい。
「いやいやちがうよ。私ね、好きな人がいるの!もうその人とは結婚の約束もしちゃったし、付き合うならその人だけかな!」
「へー、お前好きな人なんていたんだな、てか結婚ってその男も随分と気が早いな。」
俺は少し笑って言った。
するとまなは「はーーー。」とわざとらしい大きなため息をついて、その日は何故か機嫌が悪かった。
そうかそうか、まなにもついに好きな人ができたか。兄貴分は嬉しいぞ。
そう思ったが、ほんの少しだけ胸が痛いような気がした。
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「なあなあ純太ー一緒に帰ろうぜー。」
そう言ってきたのは、高校でできた親友、井上晃大である。
「悪いな、今日はまなと帰るって約束したんだ。」
「けー、今日もおあついね。お二人さん!」
「…いやいやまなは俺の妹分だから!それに、まなには好きな人がいるらしいぞ?」
「はー?どう見てもお前一筋じゃねえか!それってお前の事じゃねえの?」
「いや、なんでもその人と結婚の約束までしてるらしい。俺にはそんな覚えないし絶対違うだろ。」
「ふーん?そうかねー?」
しつこく食い下がって来る晃大に手こずりながらまなと合流した。なぜだか分からないが、その時まなは晃大を一睨みした。晃大はまなに嫌われているのだろうか?
「なぁーまな。」
「んー?」
「お前晃大のこと嫌いなのか?」
「うん嫌い!」
俺は心の中で晃大に手を合わせた。
「ち、ちなみに…なんで嫌いなんだ?」
少し時間を置いてから、まなは下を向いて小さな声言った。
「だってじゅんたが取られちゃうんだもん。」
「ん?なんて言った?」
「いーーやなんでもないよ!井上くんは、なんとなく嫌いなだけ!」
まなって恐ろしいなと思った。
一学期も後半に差し掛かり、気づいたことがある。まなの成績がぐんぐん落ちていっていることだ。この前のテストなんて赤点ギリギリだった。行きたい高校に行けて油断しているんだろう。
「なあ、お前さー、最近テストやばくないっすか?このままだと留年っすよ。」
「もー、先生みたいなこと言わないでよ。そんなことわかってるよぉー。」
「はー。じゃあ今度遅れてる分教えてやるから夏休みいつもの図書館集合な。」
するとまなはにっこりとして、「うん!」と言った。そうしているうちに夏休みはやってきた。
俺たちが約束したのは、八月の初めの1週間である。それまで暇だな、と思っていたが、時々まなや晃大とどこか遊びに行ったりして、俺の夏休みは、いい意味で暇とはかけ離れたものとなった。
約束通り、中学の時に一緒に受験勉強していた図書館に二人で集まった。
「そういえばさ、私日記を始めようと思うだよね!」
「へー、いつから始めるんだ?」
「今日から!」
「はは、続くといいな。」
「多分続くよ!なんだか無性に日記を書きたい気分なったんだよね。」
「ふーん、なんでだろうな?…そんなことより!お前全然勉強出来なくなってんじゃん!」
「うーーん、だってー、私この高校に入れさえすれば良かったんだもん。」
そんなにこの高校に入りたかったのか、しかし、このままだと本当に留年だ。
そうしているうちに、あっという間に一週間は経ってしまった。




