よく知っている。
「そういえば、清さんはあれからどうしてるんだ?」
「ああ、清おじさんは今は多分おじいちゃんの所行ってると思うよ、九州の。」
「へー、日本に残るのかな?」
「どうだろう。わかんない。」
体育祭も無事に終わり、夏休みも直前へと迫っていた。
「そういえばさ、私もその、人間観察部?に入ってみようと思うんだよね。」
「え?人間観察部に?」
それはまたどうして、
「ダメかな?」
「ああ、いいんだけど。なんで入りたいのかなって思ってさ。」
そういうと、なんだか焦ったような口調で渡辺さんは言った。
「え、えっと、それはその、なんだか話を聞いていて楽しそうだなって思ってね。」
「ああ、そうなんだ。」
あれが楽しい、ねえ……
「じゃあ、ちょうど今日も部活あるから来なよ。」
「うん!そうするね。」
なんだか随分と嬉しそうだ。
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「それで、君が入部希望のえっと、渡辺さん。で合ってる?」
「は、はい。」
「君、随分と変わってるね。まさか自分からこんな部活に入りたいと言う人間が出てくるとは、ふふ、まさか園田くんを入部させたのがこんな所で活きて来るとは、、ね。」
倉本先輩はなにか意味ありげな表情で渡辺さんに向かってウインクをした。
渡辺さんは何かに感ずかれたようにギクッとして苦笑いをしていた。
一体どうしたというのだろうか。
「そ、それで私は入部してもいいでしょうか?」
「ああもちろん。歓迎するよ、これで会長も難癖つけずらくなるだろうからね。」
先輩はパッと姿勢を変えると言った。
「じゃあ、ゲームを始めるとしよう!」
この人、最近は人間観察とかそっちのけでいつも俺をボコボコにするのを楽しんでいる気がする。
「そうですね……」
「そうだ。今日はスピードでもしようか。」
「はいはい。」
結果的に言うと、勝ち残り戦で一度も先輩が交代することは無かった。
新入部員に対しても無慈悲である。
「先輩、すごい美人だったね。」
「ああ、そうだな。」
するとなぜか渡辺さんは少しだけむくれたような顔をした。
「どうしたんだ?」
「なんでもないよ、ていうかほんとに先輩ってなんでも出来るんだね。勝てる気がしなかったよ。」
「そうだな。多分あの人に弱点はないな。」
「違いないね。」
最近はずっと調子がいい。俺は前に進んで行けている気がする。忘れた訳では無い。しかし、俺の中で鮮明に残っていたそれは、今では過去になり始めていた。
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「ということで、夏休み中も部活あるからね。」
倉本先輩は突然そんなことを言った。
「え?活動するんですか?」
「とにかく、ちゃんと来るんだよ?」
「えー」
何やら先輩が渡辺に耳打ちをしている。先輩のことだ、なにか悪いことを企んでいるに違いない。
渡辺も渡辺でなんだか楽しそうにしている。いつの間に2人はあんなに仲良くなったのか。
しかし、2人とも顔が整っているからとても絵になる。こんな空間に俺がいていいのかいささか疑問である。
「はいはい、で、いつですか?」
「それは後日連絡するとするよ。こちらの事情もあるのでね。」
人の事情は聞かないくせに……まあ予定なんてないからいいなだが、
「君、夏休みの予定とか多分ないよね。そういう感じがするし、」
「は、はい。」
やっぱり全部見透かされてるってわけね。
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そして時は過ぎ、長かった一学期も今日で終わりを迎える。色々なことがあった。いや、ありすぎた。だが俺の思惑通り、そのおかげで色々なことに踏ん切りが着けられたような気がした。
「ということで、明日から夏休み。ハメを外しすぎないようにしろよ。じゃ、解散」
明日から長期休暇ということで教室はかなり盛り上がっていた。来年は受験生、高校生活でちゃんと遊べる夏休みはこれが最後だろう。皆テンションが高い。
「じゃあまた部活でな。」
「うん。また部活で、」
渡辺さんと別れると、俺は1人家へ向かう。夏休み予定があるというのはいいことだ。ずっと何も無いというのも気が滅入ってしまう。それにしても、渡辺さんと倉本先輩は一体どういう話題で仲良くなったのでろうか?
また先輩がなにか見透かしていたようだったから、渡辺さんの考えていることでも暴いていたんだろう。最近の意味ありでな耳打ちはおそらくそれについての話し合いか何かだろうか。
なんにせよ、なんだか蚊帳の外で少し悲しい。
次の日、夏休み初日、今日は別に部活もないので図書館に本を借りに行こうと思い立ち、ふらりと立ち寄っていた。
図書館に入ると、隅にある席が目に映る。いや、無意識にその席を探してしまう。ここに来るといつも思い出す、まだ昔とは言えない少し前の記憶。
そういえばいつもこのぐらいの時間に集合してたっけ、
時計の針はちょうど2時を指していた。
本を借りる前になんとなくその席に座りたくなった。座らなくてはいけない気がした。脳裏にいつもよぎるあの声に釣られるように、今でも夢に見る、それが手招きしているようで、俺はその席に腰を掛けた。
すると、
とても強い光が俺を照らした。
この光には見覚えがある。少し前に何回も見た光だった。
まさか、霊か?
恐る恐る目を開ける。……そこには、女の子がいた。そして、俺はその女の子のことをとても、いや、どうしようもないほどよく知っていた。
「……ま、な?」




